voice of mind - by ルイランノキ


 カスミ街と海18…『裏で活躍』

 
アールに頼まれて東の森の奥にある屋敷を飛び出したスーは、生き生きとしていた。
 
「無理はしないでね?」
 
そう言われたけれど、一応スーもオスだ。オスとしてのプライドがある。
地面をぴょんぴょんと跳ねながら、必ず仲間全員を屋敷に連れてくる勢いだった。
 
東の森から街の入口まで来たところで、人間の気配に気づき、木陰に身を隠した。
しかしスーの前に現れたのはシドだった。
スーは辺りを警戒しながらシドに近づくと、シドは振り向きざまに刀を振るった。
刀の刃は、ジャンプしたスーの直ぐ真下を横切った。
  
「あ? お前スライムか。ちびっこの」
 
スーは体からにゅっと手を作り、パチパチと拍手した。
 
「なにやってんだよ」
 と、シドは刀を鞘に仕舞う。「嫌気がさして逃げ出したか」
 
スーは違いますと、手を横に振ってから、森の奥を指差した。
 
「あっちになんかあんのか?」
 シドはスーの指差す先を見遣った。「めんどくせぇなぁ」
 
スーは目を細めた。お前のほうがめんどくさいよと思いながら、何度も指差し、あっちに行けと促した。
 
「ったく……向こうになにがあんだよ。──あぁ、屋敷か」
 と思い出し、シドは森の奥へ向かった。
 
スーはシドがきちんと屋敷の方へ歩いて行ったのを見届けてから、街へ入った。
スーの目の高さはかなり低いため、まずは高いところに移動しようと試みる。十五部隊の連中に見つからないように、出来るだけ建物の影を進む。自分が仲間だと知られていたら危険だ。自分を捕らえることはないとしても、つけられて仲間の居場所がバレてしまうことは避けたかった。
 
白い建物の階段をぴょんぴょんと上ってゆく。最後の階段に差し掛かり、ぴょんと跳ぶと、スーの体は階段の上には下りずに150cmも上に持ち上がった。
驚いたスーが振り返ると、いつの間にかヴァイスが立っていた。ヴァイスの手の上に、スーが乗っている。
階段の上で跳びはねたスーを、ヴァイスが後ろから掬い上げたのだった。
 
「……なにをしているんだ?」
 
スーは両手でパチパチパチパチとひたすらに拍手をした。ヴァイスが現れてくれて嬉しかったのだ。
 
「…………」
 
しかしその喜びはヴァイスには伝わらなかったようだ。
スーは体から目一杯伸ばした手を、東に向けた。
ヴァイスはそんなスーを暫く見つめ、口を開いた。
 
「仲間がいるのか?」
 
スーは高速拍手をしてみせた。シドとは大違いだ。理解が早い。
 
「お前は随分と重要な役を与えられたようだな」
 
ヴァイスの低い声は、一見冷たそうにも感じるが、スーにはとても心地好く、温かく感じた。
 
「ルイ達なら南のほうにいたようだが」
 
スーは両手でわっかを作って「OK」の意思表示をした。
ヴァイスは腰を屈めてスーを階段に下ろした。
 
「気をつけるんだぞ」
 
ヴァイスはそう言って、東の森へ。
スーは思っていたよりも順調な流れに、ルイやカイ達ともすぐに会えて屋敷へ戻れると思っていた。
 
その時、男達の騒ぎ声が聞こえてきた。
スーは騒ぎがする方へ向かうと、十五部隊の連中とルイが狭い路地裏で戦っている姿が見えた。そこにカイの姿はない。
ルイはハンドポルトで結界の壁をつくりだした。
 
「カイさんっ、行きますよ!」
 
ルイはひとりで走り出す。
カイは透明マントで身を隠していたため、カイがどこにいるかわからず声を掛けたルイだったが、カイは一足先にその場から逃げ出してルイを待っていた。
 
スーは建物の上から2人が遠ざかって行く姿を眺めていた。どうしたものかと思いながら。
 
━━━━━━━━━━━
 
「お前また一段とブサイクになってんな」
 
シドはアールがいる屋敷に辿り着き、居間にいたアールを見るなりそう言った。
 
「ルイが来る前には薬で治すから。あんまり薬を続けてがぶ飲みすると体に悪いんでしょ?」
 殴られた傷や痣が今も少し痛む。
「その方がいいだろうな」
 と、シドはアールが座っている椅子から三つ隣の椅子に腰掛けた。「それよりあの爺さん、まさかブタの知り合いだとはな」
「シドあのおじいちゃん知ってるの?」
「森で獣狩りしようとしてたところで会ったんだよ。で、アジトに向かう途中だった連中を一時間内で捕らえた人数分、金をくれるって言うから話に乗ったんだ」
 
アールが首を傾げると、マスキンが口を開いた。
 
「は? それ私が頼んだんですけど?」
「頼んだって?」
 アールはマスキンを見遣った。
「あの方はファンゼフさんと言って、私が魔術師のヨーゼフさんと手を組んでから、まず透明マントを使って私だけアジトの外へ出たのです。その間ヨーゼフさんはアジトの見張りを捕らえ、私はというと十五部隊の仲間達がアジトに集まってしまってはアールさんを助けられなくなるので、それを阻止する為にファンゼフさんの元へ。ヨーゼフさんにファンゼフさんの元へ行くよう、言われていたからですが? は?」
「なんか……ヨーゼフさんとかファンゼフさんとか名前が似ててややこしい」
 と、アールは眉をひそめた。
「お二人は兄弟ですからね。え?」
「えっ?! そうなの?」
 
マスキンはヨーゼフに言われた通り森の屋敷に向かい、ファンゼフと出会った。
ファンゼフはマスキンからヨーゼフの話と、十五部隊がアジトに集まるのをどうにかして引き止めたいという話を聞き、手を貸すことにした。兄弟であるヨーゼフが絡んでいたことと、いい暇つぶしになると思ったからだ。
 
マスキンはファンゼフと別れ、アジトに戻り、ヨーゼフに透明マントを返した。
その頃、ファンゼフは偶然出会った使えそうな剣士、シドと出会い、おいしい話しを持ち掛けた。
 
マスキンがアールを助けに向かおうとしたとき、倉庫のカギを持っていなかった。アールがいた第3倉庫のカギはハングが持っていたからだ。
すると突然マスキンが来ている服がもぞもぞと動き、スーが顔を出した。いつからそこにいたのだろう。スーは平たくもなれるため、体の小さなマスキンさえも気が付かなかった。
スーは自分の体の一部を鍵の形に変形してみせた。
マスキンとスーはアールを助けに向かった。
そしてヨーゼフはマスキンから返された透明マントを、今度はルイに渡したのである。
 
「俺も知らず知らず利用されたってわけか」
 と、シドは背もたれに寄りかかり、片膝を立てた。
「あ、シド、ルイたちに連絡してくれない? 一応スーちゃんが呼びに行ってるんだけど、心配だから」
「なんで俺が。てめぇで電話しろよ」
「…………」
 アールは苦笑いをして目を泳がせた。
「なんだよその反応は」
「いや……あの……携帯電話壊しちゃって」
「はぁーっ?! いくらすると思ってんだよッ」
 と、シドは怒鳴った。
 
──と、その時、屋敷内に玄関のチャイムが鳴った。
 
別の部屋で食事の準備をしていたファンゼフが玄関へ向かう。
チャイムを鳴らしたのはヴァイスだった。
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -