voice of mind - by ルイランノキ


 ルヴィエール7…『ルイとアール』

 
ルイとアールは、セルという老人にルヴィエールに来るまでの話を聞いた。
あの5匹の魔物達は、暇を持て余していた老人に弄ばれたらしい。お腹を空かせていたモルモートを囮に、魔物をおびき寄せた。といっても、本当にモルモートを囮にしたわけではなく、幻景魔法でモルモートがあたかもそこにいるかのように見せたのである。まんまと引っ掛かった魔物達を魔法で動けなくさせてから、お目当ての心臓だけを口から引きずり出したと話していた。
 
二人はセルの部屋を出ると自分達の部屋に戻り、一息ついていた。
 
「おじいさん、悪い人ではなかったね」
 と、アールはベッドに腰掛けて言った。
「えぇ。でも……あの方は魔力を制御するペンダントを身につけていましたので、僕より遥かに力を持った人ですよ」
 あの蛇が円を描いていたペンダントのことである。
「魔力を制御?」
「えぇ。年老いてくると自分の魔力をコントロールしづらくなるのです。特に、力が強ければ強いほど。普通は体力と同じように弱まってゆくものですが……あ、もう2時ですね。お腹空きませんか? せっかくですから外へ食べに行きましょうか」
 と、ルイは部屋の時計に目を遣った。
「うん!」
「その前に着替えを洗濯所に持って行きましょう」
 そう言うとルイは、部屋の隅に置いてあった、衣類がギッシリ詰め込まれた大きなビニール袋を手に持った。
「それ……全部洗濯物?」
「えぇ。3人分ですからね。アールさんも持って出てください。洗濯所は一階にあります」
 
アールはルイにビニール袋を借りて、汚れた服を移し、部屋を出た。
洗濯所は、コインランドリーのように洗濯機がいくつか並んでいる場所だった。
 
「アールさんは隣の洗濯機を使ってください」
「うん。でも別料金かかったりしない?」
「2台使っても大した額ではないですよ」
 と、ルイは笑顔で言った。
 
ルイは洗濯物を絡まないよう丁寧に一枚ずつ洗濯機に入れているのに対して、アールは自分の洗濯物を隣の洗濯機にドサッと纏めて放り入れ、蓋を閉めた。
洗濯機の横には、黒いプレートのようなものがある。そこに、ルイが青いカードを翳すと、ピピーッと音を鳴らして洗濯機が動き始めた。
 
「それは何のカード?」
 と、アールは興味津々に訊く。
「部屋の鍵と一緒に渡された洗濯所のカードです。これを翳すと洗濯機の鍵が閉まり、電源が入ります」
「便利だね、洗濯時間は?」
「汚れ次第に設定しましたから、洗濯機が汚れを感知し、ある程度汚れが落ちるまで洗ってくれます。洗い終わったら自動で乾燥もしてくれますよ」
 
そう聞いたアールは、男3人分の洗濯物より自分の洗濯物の方が長く洗濯されていたらどうしようと思った。
 
「あ、アールさん」
 ルイはポケットから黒い二つ折りの財布を取り出し、この世界のお札を数枚、アールに差し出した。「お金です、自由に使ってください」
「えっ?! 貰えないよ! 働いたわけでもないのに!」
 アールがそう言うと、ルイはキョトンとした。
「城からの支援金ですよ。一応、僕たちは旅という仕事をしているのですけどね?」
 と、ルイは笑いながら言う。
「あ……ごめん。でもなんか悪い気がする」
「アールさんは面白いですね。シドさんは『命を賭けてるのにこれっぽっちしか貰えないのか』と、おっしゃっていましたよ」
 
一体、城からいくら受け取っているのだろう。城を出る前に受け取ったのだろうか。だとしたらお金が尽きたりしないのだろうか。
 
「……5000円? こんなにいいの? 物価が分からないけど」
 と、アールは遠慮がちに受け取った。
「円ではなく、こちらの世界ではミルと言います」
「5000ミル?」
「はい。5000ミルあれば……そうですね、包帯が50個程買えます。足りなければ、また言ってくださいね」
「包帯……」
「では、行きましょうか」
「ねぇルイ……」
「はい?」
「なんで包帯で例えたの?」
「分かりづらかったですか?」
「……ふふっ。いいえ」
 
財布を持って出なかったアールは、受け取ったお金をズボンのポケットに仕舞い、宿を出た。
 
 

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