voice of mind - by ルイランノキ


 カスミ街と海9…『立入禁止区域』

 
「なかなかうめぇ店だったな」
 と、シドは爪楊枝を口に加えて飲食店から出てきた。
 
その後ろから、頭にたんこぶを作って目を腫れ上がらせた男2人が肩を落として出てきた。
 
「──で? VRCはどこにあんだよ」
「すんません、ありません……」
 と、男のひとりが言った。
 
彼等はシドが食事をしているとき、刀を奪う計画だった。しかしうまくいかず、刀を奪おうとしたところでシドに気づかれ、頭をわしづかみにされるとテーブルに何度も叩きつけられ、グラスの底で殴られ、狭い店の中で跳び蹴りをされ、ぼこぼこにされていた。
 
「あ? んだよ……無駄な時間過ごしたじゃねぇか」
「すんません……」
 男2人は頭を下げた。たんこぶが痛々しい。
「仕事は? 仕事くらい紹介してくれるんだろうな?」
「え、えぇ、勿論です。捕らえた子供達が倉庫にいるんですけど人手が足りないんですよ。カスミ街の外れで取引するんですけど」
「そういう仕事には興味ねんだよ」
 と、シドは2人を見遣った。
「ではどういう……あ、お使いなんてどうでしょう」
 
シドの拳がひとりの男のたんこぶに減り込んだ。男はあまりの痛さに声が出ず、頭を抱えたまましゃがみ込んだ。
 
「魔物を捕らえるとかそういう仕事だよ。お使いなんかガキにやらせろ」
「し、しかしですね、魔物を捕らえることを仕事にしている者が多いので人手は十二分に足りておりまして、報酬額が低いんですよ。住人たちのお使いを請け負ったほうがお小遣い稼ぎできますよ」
 と、もう片方の男が言った。
 
シドは納得いかず、腕を組んだ。
 
「海に潜んでいる魔物より街の東側の森にいるダム・ボーラの成体を生きたまま捕らえればそこそこ報酬を貰えますが、なんせ生きたままなので一匹捕まえるのに時間が掛かります。ですからここは人身売買の手伝いを──」
「薙ぎ倒してぇんだよ俺は」
「……でしたら南東の森にいる獣狩りくらいしか」
「それでいい。紹介しろ」
 
シドは彼等について行った。
時折すれ違う親子は必ず手を繋いでいた。母親の手を離して走って行こうものなら、怒鳴り声を上げて子供を呼び戻す。そして心なしか男の子が多い。
 
「売買してる子供は女が多いのか?」
 と、シドが訊く。
「あ、興味あります? 安くしときますよ」
「ねぇよ」
「……そうですね、女の子のほうが売れますよ、色々と」
「不快だな」
 シドは眉間にシワを寄せた。「貧困村でもねえのに」
「ここ数年、金稼ぎにこの街に訪れる女も少なくないんですよ」
「は?」
「どっかでよく知りもしない男の子供を孕んで、この街に来る」
「子供を売るためにか?」
「えぇ。女の子なら儲けもんですよ。まぁ、男でも売れますけど女の子と比べたら桁違いに低い。だから元々人口が少なくダムール村と呼ばれていたここも、あっという間に人口が増えて賑わう街になりましたよ。あまりにも子供を売る大人が多くて、減るどころかむしろ増えていましてね」
 と、男は笑った。
 
シドは不快感に顔を強張らせていたが、あえて深く追及するようなことはしなかった。
あいつらなら放ってはおかないだろうなと、仲間の顔が脳裏に浮かぶ。
 
━━━━━━━━━━━
 
ルイとカイはエンジェルたちに連れられて海岸沿いにあった釣り具店の地下から、街の北東にある立入禁止区域に来ていた。目の前には12番倉庫がある。
 
ルイは両手を後ろに縛られているだけだが、カイは両手を後ろで縛られ、体は椅子の背もたれに縛りつけられ、足は椅子の脚にくくりつけられており、モナカシスターズの一人に椅子ごと肩に担がれている。
 
「ねぇ、下ろしてくんない? 俺チョー恥ずかしいんだけど……」
「2号、倉庫の鍵開けて」
 エンジェルがそういうと、モナカシスターズのひとりが前に出て、ポケットから鍵を取り出した。
「2号?」
 と、ルイ。
「モナカシスターズの1号と2号。1号が姉の方で、2号が妹よ」
 エンジェルはルイと話すときだけ口調が和らいだ。
「倉庫の鍵は全て2号さんが管理を?」
「ううん。ここには20棟の倉庫があって、普段は私が11から15番までの倉庫の鍵を持ってる」
「他の倉庫の鍵はどなたが?」
 と、ルイが訊いたところで、カイを肩に担いでいるモナカシスターズの1号が口を開いた。
「教えらんないよ。なんで知りたいんだ」
「……いえ」
 
エンジェルはバツの悪い顔をした。ルイに質問されるとつい答えてしまう。1号が口を挟んでくれてよかったと思った。
 
12番倉庫の鍵が開き、ルイたちは中へと促された。
誰かを捕らえておくための足枷や、鎖、ロープなどが置かれている倉庫で、とても居心地がいい場所とは言えない。
ここでカイは1号の肩から下ろされた。
 
「ねぇ、俺さぁ、ずっと座りっぱなしじゃん? 痔になったら責任とってくれるわけぇ?」
「あんたが痔になったら塗り薬塗ってやるわよ」
 と答えたのはモナカシスターズだ。
「……痔にならないように努力します」
 カイはそう言ってお尻に力を入れた。
 
「表にいたのは十五部隊のお仲間ですか?」
 ルイは椅子に縛られているカイの隣に立ち、訊いた。
 
立入禁止区域に入ると左手に5棟の縦長倉庫が横列に並んでいた。その後ろにも5棟の倉庫が並んでおり、全部で10棟。
右手には同じ縦長の倉庫ではあるが、横向きに置かれ、縦に5棟、その隣にも通路を挟んで同じように5棟並んでいる。
倉庫の番号は左手の手前奥から1〜5。後ろの奥から6〜10。右手の左側奥から11〜15。右の奥から16〜20。
 
ルイが見たのは、まず入口から入ってすぐひとり(15番倉庫付近)と、左手(1番倉庫付近)と右手奥(20番倉庫付近)にひとりずつ。
それから11番倉庫付近と、6番倉庫付近だ。
ルイたちが入った倉庫は12番。あくまでここから見えた人物は以上だが、配置を察するにおそらく16番付近にもひとりいることだろう。
 
「そうだよ。逃げようったって……難しいんだから」
 
エンジェルは言葉を選んだ。“無理”という言葉を使わずに“難しい”と言ったのだ。
そのことに気づいたモナカエンジェルは、呆れたように小さくため息をついた。
 
「ハングはまだ?」
 と、エンジェルは苛立った。
「見てきましょうか」
 と、モナカシスターズ1号。
「お願い。私は部員に連絡するわ」
 
1号が倉庫を出て行き、エンジェルは携帯電話を取り出してメールを打った。
 
【ハングからの命令。アジトに全員集合して】
 
一斉送信し、携帯電話を閉じた。
 

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