voice of mind - by ルイランノキ


 カスミ街と海4…『住人たち』


──グリーブ島から動き出したものを止める方法は知らなくて。
 
あの時から動き出したことも、今になって思い返してもしかしてと気づいたくらいだし。
 
そういえば と、胸が裂ける。
 
薬指に嵌めている指輪を眺める回数が極端に減ったのは、この世界に慣れてきたからだと思っていた。
 
一人暮らしをはじめると最初は心細くて家族や地元を思い返すのに、慣れてくると思い返す回数も連絡を取る回数も減るように。
 
でも違ったのかもしれない。
 
雪斗
君が必要じゃなくなったわけじゃないよ……

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ルイは部屋を見回し、満足げに頷いた。
テーブルがある部屋にベッドはふたつ、風呂、トイレつき、キッチンまでついている。
ホテルというよりマンションの一室だ。ここで住むことも出来る。
 
それにしても6人でツインは狭いかもしれない。少し奮発してもう少し広い部屋にしたほうがいいだろうかとも思ったが、長居する予定はないため、この部屋に決めたのだった。
 
ルイは携帯電話を取り出すと、アールに電話を掛けた。
電話を片手に、キッチンの前に立つ。汚れていないか見遣り、綺麗に磨かれていることに満足する。
 
──出ない……。
 
呼び出し音は鳴っているが、なかなか電話に出ない。
仕方なく電話を切り、カイはアールと一緒に行動していると思っているルイはシドに電話を掛けた。
 
シドはすぐに電話に出た。
 
「シドさん今どちらに?」
『酒屋。仕事探してる』
「酒屋というのはどちらの? 今僕は泊まる宿にチェックインしたのですが、すぐ隣に酒屋があったのですが」
『どこって言われてもな。武器屋が近くにある』
「あ、ではお隣りですね。その酒屋を出て右手にある建物です。どれも白い外壁なので同じに見えますが。2階の10号室です」
 
ルイはそう言って窓際に立った。
 
『わかった』
「あ、シドさん、ヴァイスさんの連絡先わかりますか?」
『お前が知らねーのに知るわけねぇだろ』
 と、電話は切れてしまった。
 
ルイは少し困ったが、夜になるとどこかへ姿を消してしまうヴァイスのことだからさほど心配はいらないのかもしれない。
少し考えてから、カイに電話を掛けた。一緒にいると思われるアールは電話に出なかったが、気づかないだけかと思ったからだ。どんなに忙しくても大概カイは休んでいて暇をしている。  
しかしカイもなかなか電話に出なかった。なにかあったのだろうか。
不安になり、電話を切ろうとしたとき、漸くカイが電話に出た。
 
『……あ、ルイー? 俺俺。カイ』
「えぇ、僕がカイさんに電話を掛けたのですからわかりますよ。今どちらですか? アールさんに掛けたのですが出ませんでした。なにかあったのですか?」
 
窓の外を見ながらそう訊くと、下の道に10人ほど住人が集まっていた。
 
『ルイー、俺ねぇ、捕まっちゃった』
「……え?」
 と、顔を上げる。「今なんと?」
『捕まっちゃったんだってぇ。可愛い女の子に!』
「あぁ……そうですか。それで、アールさんは?」
『そうですか、じゃないよぉ! 少しは心配してよぉ!』
 
電話の向こうで叫ぶカイ。
ルイは思わず耳から携帯電話を離した。
 
「ふざけている場合ではありませんよ、アールさんと一緒ではないのですか?」
 
外にいた住人達が、一斉に上を見上げ、部屋から見下ろしていたルイと目が合った。
 
『ふざけてないよ! 俺今刃物突き付けられてんだから!』
「え……それはどういう……」
『縛られてて、電話だって今女の子が持ってて……』
『──いいから早く呼び出せ』
 と、女の声がルイの耳に届いた。
 
それと同時に外にいた住人達が宿に入って来るのが見えた。──嫌な予感がする。
 
『ルイー…、たすけて』
「知らない人にはついて行くなと教わりませんでしたか?」
 
ルイは背中に装備していたロッドを構え、部屋のドアの前に立った。
 
『可愛い子は別なんじゃないの?』
「今どちらですか」
 
ドアの向こう側の廊下から足音が近づいてくる。
 
『海岸沿いにある釣り具店の地下』
「はい?」
『だから、海岸沿いにある釣り具店の地下だってば』
「……わかりました、用が済んだらすぐに向かいます」
『用?』
 
ルイは電話を切ってポケットに仕舞い、部屋のドアを開けた。
一斉に住人が部屋の中へ押し寄せてきた。
 
ルイはしかと見た。
彼等の腕や首に、属印があることを。
 

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