voice of mind - by ルイランノキ |
「シオン、テオバルトさんとちゃんと話したほうがいいよ」
翌朝、一行は浜辺に集合していた。
デイズリーが小型船の点検をし、エンジンをかけた。
「いいの。話したって聞かないもん」
「聞いてくれるまでとことん話したら?」
「うるさいなぁ。そんなことより……」
と、シオンは船に乗り込もうとしていたシドに駆け寄った。
「シドくん! 連絡先教えてくれない?」
「なんでだよ」
「俺の教えちゃう!」
と、一足先に船に乗っていたカイが顔を出した。
「カイのはいいの。──ほら、じいちゃんがまた伝説の武器見つけたときにさ、連絡したくて」
と、前もって用意していた言い訳を伝えた。
「どーせ取りに来れねんだからいい」
シドは船に飛び乗った。
「俺のはいいのかよぉ……」
凹むカイを宥めるように、マスキンが彼の足をポンポンと叩いた。
「やっぱ教えて?」
シオンは仕方なくカイにした。カイを通してでも連絡が取れればいいと思ったのだ。
カイは嬉しそうに自分の携帯電話を取り出し、シオンと連絡先の交換をしようとしたが、シオンは携帯電話を持っていなかった。そのため、連絡先を紙に書いて渡した。
「絶対近いうちに携帯電話買うから。そのためにお小遣い貯めてたの」
と、シオンは笑った。
ヴァイスとルイも船に乗り込み、アールが最後に乗り込もうとすると紳士的にルイが手を差し延べた。
「ありがとう」
アールはルイの手を取り、船に乗ると同時にシオンも乗り込んだ。
「あれ……シオン?」
「私もカスミ街まで送るよ」
アールにそう言って、船の先端に立っているシドを一瞥した。
少しでも長く一緒にいたいのだろう。
「じゃあ出発すんぞ」
デイズリーがそう言って、船は動き出した。
浜辺にテオバルトの姿はなかった。家を出るときには玄関の前まで見送ってくれた。
一行を乗せた船はグリーブ島を囲む堤防を抜け、海へ出た。
結界が張られた船に小魚が体当たりしてくる。
アールは腰を下ろし、離れてゆく島を眺めていた。
「アールさん、酔い止めを」
と、ルイが気を利かせて水と一緒に薬を渡してきた。
アールは礼を言って薬を飲んだ。
船は水面を走る。まだ辺りは薄暗く、カイも眠たそうに欠伸をしている。
次の目的地はカスミ街。
ルイの腕に嵌められているデータッタがアーム玉の在りかを示している。
アールはまだ見ぬカスミ街に思いを馳せた。街でやることは沢山あった。アーム玉の収集、マスキンの息子の救出、図書館でクロエを襲った魔物について調べること。
アール達を乗せた船が通った後の水面に、大きな黒い影が揺らめいた。
影はアールが仕留めた巨大シャチよりふたまわりも大きく、音もなくゆらゆらと船とは逆方向へ進んでゆく。
「おいシオン、帰ったらテオバルトさんと話し合えよ?」
操舵席から顔を覗かせたデイズリーが、シドの隣に腰を下ろしていたシオンに呼び掛けた。
「わかってるよもう……」
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テオバルトは家を出ると、背の低い体を思い切り伸ばして背伸びをした。
「やっと静かになったわい」
畑の様子を一通り見遣り、不意に砂浜方面を一瞥した。
何か聞こえたわけでもないが、やけに海岸が気になった。
「戻ってきたわけじゃなかろう」
そう思いつつも、テオバルトは浜辺へ足を向けた。
子供に対する愛情を持った親なら誰しも、子を守りたいと切に思い、子の命を奪うものがいたならその犯人を殺してやりたいとまで思う。
海岸に足を運んだテオバルトは、目を丸くした。
大きなシャチが、どういうわけだか堤防が途切れている間に挟まっているのだ。
目を凝らしてみれば、刃物で斬られた深い傷があり、波に揺られてはいるが、明らかに死んでいる。
「ほう、あの娘が倒した魔物が流れてきよったか……」
あとでデイズリーに魔物の死骸を退かすよう頼むことにしたテオバルトは、海岸に背を向けて家に戻ろうとした。その後ろで水面から堤防を遥かに超える高さまで飛び上がった魔物がいた。
アールが仕留めたシャチに似た魔物の親であった。
テオバルトに逃げ切る余裕はなかった。振り返ったときにはもう、大きな口を開けたシャチが彼の頭部の真上にあったのだ。
砂煙を巻き上げながらシャチの巨体が砂浜に打ち付けられた。
その衝撃でグリーブ島の地盤が大きく揺れた。
じたばたと砂浜の上で身をよじる巨大シャチの周囲に、真っ赤な液体が四方八方に飛び散っていた。
巨大シャチは苦しそうに奇声を上げた。
死を覚悟で起こした母親としての行動であった。
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