voice of mind - by ルイランノキ


 百花繚乱36…『チョンチョン』

 
「チョンチョンですね」
「は?」
 
シドとルイは200畳ほどもある広い空間の中にいた。そして彼等を囲む10体の魔物。
テオバルトが話していた、大きな耳を翼にして飛ぶ生首だ。
 
「チョンチョンですよ」
 と、ルイ。
「だからなんだよチョンチョンって。ふざけてんのか」
 シドは刀を握る手に力を入れた。
「いえ。彼等の名前です。チョンチョンという吸血鬼ですね」
 ルイは手に持っていた魔力の回復薬を飲んだ。「援護します」
「変な名前つけんなよ萎えるだろが」
「僕が名付けたわけではありません」
「わかってるっつの。2体ずつ殺す」
「はい。では──」
 
ルイは駆け出した。10体の内、6体のチョンチョンが追ってくる。引き付けたところで結界の中に閉じ込めた。
 
シドの周りには4体のチョンチョンが尖った歯をガチガチと鳴らしながら飛び回っている。その人間の頭部は皆同じ顔をしており、40代くらいの鷲鼻の男だ。
 
「耳糞の掃除とかどうしてんだ?」
 
シドは刀を振るい、4体の内2匹を弾き飛ばした。すかさずルイが結界で囲み、残りの2体に絞ったシドは攻撃を開始した。
浮遊する魔物は面倒だ。簡単に交わされてしまう。一瞬ヴァイスが脳裏に浮かび、苛立ったようにシドは舌打ちをした。
 
「1匹ずつ戦いますか?」
 と、ルイが訊く。
「ふざけんな」
 
強がりなシドはそう言ったが、空間が広すぎてチョンチョンは逃げ惑う。
そして1体のチョンチョンが隙を見てシドの背後に襲い掛かってきたが、彼には敵に隙を与えた覚えはなく、振り向きざまに片耳を削ぎ落とした。
チョンチョンは地面で暴れながら、呻き声を上げている。そこにもう1体のチョンチョンがやってきて、シドに真っ二つにされてしまった。
 
「人間の顔に刀を突き刺すのは吐き気がする」
 
そう呟くように言い、片耳を失ったチョンチョンに刃を突き刺した。
 
2体のチョンチョンを囲んでいた結界を外したルイに、1体のチョンチョンが飛び掛かってきた。口を大きく開けて、腐ったような青紫色の舌を出しながらルイの肩に噛み付こうとした。ルイは直ぐにロッドで弾き飛ばそうとしたが軽々と交わされて、二の腕を噛み付かれてしまった。
 
「ルイ!」
 駆け寄ろうとしたシドの目の前にもう1体のチョンチョンが立ち塞がった。
「どけ!」
 シドは刀を右から左へと振るうが、器用に避けられる。
 
今度はわざとチョンチョンの下部を狙い、耳を羽ばたかせて上に逃げると予測したシドはすぐ地面を蹴って同じ高さまで飛び上がり、体重を乗せて斬り込んだ。
 
地面に着地してルイに駆け寄ったが、ルイの足元にチョンチョンが横たわっていた。
 
「大丈夫か?」
「えぇ。噛まれただけで吸われていません。これなら自然治療で治ります」
「殺したわけじゃねぇのか」
 と、シドは静かに横たわっているチョンチョンを見遣った。
「眠りました」
「眠った?」
「どうやら僕のロッドにはテオバルトさんによって睡眠の効果が追加されたようです。必ず発動されるわけではないようですが」
「いいなそれ、カイがうるせぇときにそれで殴ってくれよ。静かになるぜ」
 
シドは自分の刀を見遣った。
 
「俺のはどう変わったんだ?」
「魔力を使ってみては?」
 
シドは6体のチョンチョンを閉じ込めた結界から離れ、刀に意識を集中させる為に目を閉じた。心なしか集中力が上がったようにも思える。
ルイはタイミングを見計らい、結界を外した。
 
シドは目を見開き、魔力を発動──
 
「光斬風ッ!!」
 
以前発動させたときよりも一回り大きな三日月型の光が一直線にチョンチョンを目掛けて飛び、逃げ遅れた3体のチョンチョンの頭部(からだ)を斬り裂いた。
シドの魔力は攻撃力を増していた。また、身体で感じる魔力の消耗もこれまでと比べて明らかに少ない。
 
シドは「こりゃあいい」と、ニヤリと笑った。
 
そこに逃げ切ったチョンチョン2体が襲い掛かってきた。シドは刀を払おうとしたが、ルイが足を踏み込み、風の呪文を唱えながらロッドを大きく振るった。
 
「うおわぁッ?!」
 
シドはチョンチョン2体と一緒に洞窟の壁面にたたき付けられるように吹き飛ばされてしまった。
 
「すみません!!」
 と、ルイは慌てて駆け寄った。「驚きました!」
「こっちが驚いたっての!」
 と、シドは起き上がり、ズボンについた砂を払った。
「風を起こす魔力もアップしたようです」
「そりゃよかったな。試すなら先に言えよ」
 
チョンチョン2体は地面に転がっているが、息はまだあった。
シドは留めを刺し、刀を鞘に仕舞った。
 
「すみません。つい……」
「さて、と」
 
シドは広い空間の奥にある、大きな宝箱を見遣った。
 
「どきどきしますね」
 ルイは宝箱に歩みよりながら言った。
「どうするよ。空っぽだったら」
「それは残念ですが、仕方ありませんよ」
 
ルイは宝箱の前に片膝をつき、シキンチャク袋から鍵を取り出した。
 
その後ろで、シドは念のために刀を抜いた。
時折、宝箱の中から魔物が飛び出すことがあるからだ。
 

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©Kamikawa
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