voice of mind - by ルイランノキ


 ルヴィエール4…『世界の記憶-03』

 
「……昔話?」
「はい。幼い頃、誰もが聞く童話です。図書館には必ずこのお話の絵本が置いてあります」
「幼い頃に? 子供向けの話なら頭の悪い私でも楽しんで聞けそう!」
 と、アールは笑いながらそう言うと、ルイはやはりどこか悲しげに微笑んだ。
 
 
──それは遥か昔の物語。
 
エスポワールという星(世界)は平和で満ち溢れていました。
 
争いとは無縁の世界で、武器を手にする者などおらず、人や動物を襲う“魔物”も存在せず、気性の優しい“モンスター”や動物と共に人々は仲良く暮らしていました。
 
この星には古くからエテル樹というおおきな木がありました。
陽の光を含んだ鮮やかな緑色の葉が生い茂るその木には、村の人々の声を聞く不思議な力が宿っていました。
私たちを守る聖なる樹として人々は崇め、枯れぬようにと大切に育てていました。
 
月の光がエテル樹を照らした満月の夜、赤ん坊の泣き声が村に響き渡りました。
その泣き声に目を覚ました村人たちがエテル樹の元へ向かうと、樹の根元に色白い赤ん坊が捨てられていました。
誰がこんな酷いことをしたのかと人々は騒然としましたが、すぐにその赤ん坊は神の子と呼ばれるようになったのです。
 
村の長老によってアリアンと名付けられた赤ん坊は、たった一年で美しい女性の姿に成長し、エテル樹と同じように不思議な力を持っていました。
 
次第に人々は彼女を女神と呼び、崇拝するようになりました。
女神の存在は村を越え、国を越え、世界に知れ渡り、多くの人々が救いを求めて彼女の元へ訪れるようになりました。そして、女神は多くの人々の願いを叶えてゆきました。
 
そんなある日、平和な世界は一変したのです。
自称、神と名乗る大柄の男が現れ、邪悪な力で人々に危害を加えていきました。
それまで大人しかったモンスターも邪悪な力の影響を受けて気性を荒らげ、人々を襲い始めました。
戦いを知らぬ人々は逃げ惑うしかありませんでした。
 
魔法を使える者達が集結し、力を合わせるも、男に傷一つ与えることは出来ませんでした。
この頃はまだ、戦うことを知らない人々に攻撃魔法を使う術がなかったのです。
 
男は魔力で“マモノ”というおぞましい生き物を生み出し、世界に放ってゆきました。
そして力を得るために自ら生み出した強い魔物を体内に取り込んでゆくと、男の容姿はみるみる変化を遂げて、人の姿を失ってバケモノと化してゆきました。
 
男の野望はこの世界の神となり、この世界の支配者になることでした。
絶望を見た人々の前に立ち上がったのは、女神、アリアンでした。
それはまるでこの日の為に彼女が存在するかのようでした。
 
男は女神までも自分の力の一つにしようと企んでいましたが、女神の聖なる力によって打ち砕かれ、男は女神の命と引き換えにその姿を消しました。
 
男の存在は消えたものの、世界には凶悪な魔物や気性が荒くなったモンスターで溢れたまま。
人々は女神の死を無駄にしてはならないと、共に立ち上がり、世界は変わっていきました。
 
 
「……ねぇルイ、念のために一つ訊いてもいい?」
 と、アールは言った。「ここの星の名前は……?」
 
「エスポワール、ですよ」
 
━━━━━━━━━━━
 
すっかり外は、明るくなり始めていた。
アールは布団に潜り、ルイが話してくれた昔話から、気を逸らせずにいた。話を聞くまで白雪姫のようにお姫様が出てくる童話かと思っていたが、決してハッピーエンドとは言えない話だったからだ。
 
男は女神の命と引き換えに姿を消した
 
世界には凶悪な魔物や気性が荒くなったモンスターで溢れたまま
 
──昔話……? 違う。まだ終わっていない、現在進行系の話だ。
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -