voice of mind - by ルイランノキ


 百花繚乱23…『シオンの行方』

 
昼食が出来たとシオンを捜しに出たアールは、結局テオバルトが作業場から出て来なかったため、クロエのことを訊けずにいた。
 
森の道を抜けて海岸へ出ようとしたところでカイと遭遇。カイはお腹を摩っていた。
 
「お腹の虫が鳴ったんだよねー。ごはん出来た?」
「うん、カイの腹時計は正確だね。シオンは?」
「シオンちん? 知らないけど」
「え? 1時間くらい前に来なかった?」
「シオンちん? 来てないけど」
「でも海辺に向かって走ってったよ? この道は一本道だから海辺にしか繋がってないのに」
「シオンちん? 洞窟のほうに行ったんじゃないのん? だって俺シオンちんが来たら気づく自信あるしぃ」
「そうだよね……」
 
カイが気づかないはずがない。じゃあシオンは何処へ消えたのだろう。
 
アールはカイと別れ、一応海岸へ行ってみることにした。
見通しはよく、誰もいないのは一目瞭然だった。それでも何となく海に近づくと、浜辺に手の平サイズの石がいくつも並んでいた。
 
「なにこれ」
 
アールは石に近づき、その全体を見遣った。
石で文字が書かれている。
 
《 スーちん ラブ 》
 
カイが暇つぶしに作ったのだろう。アールはクスリと笑い、堤防に目を向けた。船を入れるために途切れている、島の西側に見える堤防に人の姿はない。
くるりと体の向きを変えて森を見遣った。もしかしたら森の中にいるのかもしれない。もしくは森の周りを通って海岸とは反対方向に行ったとも考えられる。
 
テオバルトの家を出てすぐに横に伸びる道がある。右に行くと東側へ曲がり、洞窟やお墓がある場所へ行ける。
 
一方、左の道に行くと一度海岸方面の右へ曲がり、更に横に伸びる道に出る。右へ進んでも左へ進んでも目の前の森を避けて通るように海岸へ行けるが、左右に抜けて島の周りを歩く道があるため、海岸とは逆の東側へ行くことも出来る。
 
アールは海岸から左周りに島を回ってみることにした。
 
 
その頃ルイは、玄関の外に出てアールが戻ってくるのを待っていた。
 
なかなか戻ってこず、アールに電話を掛けた。洞窟内は圏外だが、島自体は電波が入る。
アールは直ぐに電話に出た。彼女から島をぐるっと見て回って来ると言われ、自分も行こうかと思ったが、ここでシドに言われた言葉が頭の中で再生され、思い止まった。
 
 お前の優しさは、重いもんな
 
「……わかりました。危険な生き物はいないはずですが、武器を預かっているので念のため洞窟付近では気をつけてくださいね。中には絶対に入らないで下さい」
『うん、わかった。じゃあまたあとで』
 
ルイは囲炉裏のある居間に戻ると、作業場から戻って食事に手をつけていたテオバルトに尋ねた。
 
「シオンさんは携帯電話をお持ちではないのでしょうか」
「そんなハイカラなもん持っとりゃせん」
「そうですか……」
 
居間で昼食をとっていたのはシド、マスキン、水に浸かるスー、カイだけだ。
 
「デイズリーさんは?」
「墓場の掃除じゃ」
 と、テオバルト。
「墓場の?」
「放置しておると草が生い茂るからな。たまに掃除をしてくれるんじゃよ。あそこにはデイズリーの知り合いの墓もあるようじゃからな」
「そうですか……」
 
ルイは再びアールに電話を掛け、デイズリーさんを見かけたらごはんが出来たと伝えてほしいと伝えた。
 
『島の周りを歩いてるんだけど、外側の道から墓場に行く道はあるの?』
 と、アール。
「わかりません。見かけたら、でいいですよ」
『了解』
「それと一応ヴァイスさんも見かけたら声を掛けてみてください」
『あぁ……うん』
「どうかしましたか?」
 
アールが言葉を詰まらせたような気がして、ルイは尋ねた。
 
『ヴァイスってごはん食べないのかな。あ、お好み焼きは食べてたよね。自分用の食材、持ってるのかな。でも外見は人間に戻ったけど、外見が戻っただけってことは……』
 
アールは足を止めて顔を上げた。堤防の上にヴァイスがいたからだ。
海を眺めているその寡黙な後ろ姿は、何かを拒絶しているように思えた。
 
『ヴァイスさんは……』
 と、アールの携帯電話からルイの声がする。『謎だらけですからね』
「そうだね、でも──」
 
ふと、堤防の上からなら島全体が見渡せるのではないかと思った。
 
『でも?』
 と、ルイが訊く。
「あ、なに言おうとしたんだっけ」
 アールは笑った。「とにかく一応ヴァイスも昼食に誘ってみるね」
 
アールはルイとの電話を終えると、洞窟のある岩山に近づき、錆び付いている梯子を上って堤防へ繋がる吊橋を渡った。
 
思った通り堤防の上からなら全体とまではいかないが、見通しはいい。
生い茂る樹々の高さがあって向こう側の堤防は見えないが、島の半分は見渡せた。
 
アールはシオンを目で捜しながら、ヴァイスに歩み寄った。
 
声を掛ける前に、ヴァイスは答えた。
 
「昼食は結構だ」
「あ、聞こえてたの?」
 と、アールは足を止める。「シオン見なかった?」
 
アールの問いに、ヴァイスは一度アールを見遣ってから海辺の方に視線を送った。
 
「え?」
 
アールは覗き込むようにして海辺の方を見遣ると、堤防と島の間に止めていたデイズリーの船の前に人影が小さく見えた。
 
「あれ? さっきはいなかったのに」
「すれ違ったようだな」
「あぁ……おーいっ!」
 と、アールは叫んでみたが、聞こえそうにない。
「堤防の上を歩いて行けばいい」
「あ、そっか。──じゃあヴァイスはお墓があるとこにいるデイズリーさんに昼食出来たって行ってきて」
「…………」
 
アールはヴァイスの返事を聞かずに走り出したため、ヴァイスは小さくため息をついた。
 
「……仕方ない」
 
ヴァイスは堤防の上からひょいと軽々島に降り立つと、島の南東にある墓場に向かった。
 

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