voice of mind - by ルイランノキ


 百花繚乱14…『魔法文字』

 
アールは机を借りて魔法文字と睨めっこをしていると、あることに気づいた。形がアルファベットに似ているのだ。
ぱっと見ではわからなかったが、特に「王」と同じ形をした文字は「E」に似ているような気がするし、「十」と同じ形をした文字は「T」に見えなくもない。
そうやって見ていくと、「I・I」これで一文字を表しているものは「H」、カタカナの「コ」の形のものは逆にして「C」とか。
三角マーク「△」の文字もある。これはなんだろう。「A」か「O」か。
 
そのままアルファベットとして見れるものもあった。
「X」「i」「U」だ。「U」に至っては曲線ではなく角ばっているが。
 
アールはシキンチャク袋からノートとペンを取り出した。
まず魔法文字を書き写す。書き写し終えてから数を数えてみた。全部で26。アルファベットと同じだ。
 
アールは少し興奮しながら、アルファベットに置き換えられそうな魔法文字の下に似たアルファベットを書いていった。ちょっとした謎解きのようで楽しい。
 
「N」が右斜めになっている文字はそのまま「N」。「>」の真ん中に「I」が重なっているものは「D」とした。
逆になっているものもある。「<」の真ん中に「I」が重なっている。縦線をちょっと左にずらすだけで「K」である。
 
そうしてゆくうちに、全てがアルファベットに書き換えることが出来た。
 
特に苦戦したのは「III」と、漢字の「丸」のような形の点の部分が小さな丸になっている文字だ。
最後に残ったのがこの二つで、アルファベットも最後に残ったのは「W」と「M」。
「M」だけずば抜けて変な形だった。
 
「ってことは……? ねぇシオン、ちょっと魔法文字でここに何か一言書いてもらえないかな」
 
シオンは部屋の隅で本を読んでいた。すぐに立ち上がり、アールからペンを受け取ると、ノートの端にスラスラと魔法文字を書いた。
 
「書いたよ? どうしたの?」
 と、ペンを返す。
 
アールは自分が書き換えたアルファベットと照らし合わせながら、シオンが書いた魔法文字の下にアルファベットを書いた。
そしてそれを読み上げる。
 
「“しどくんにあいたい”……なんじゃこりゃ!」
 と、思わずペンを放り投げた。
「だってシドくんいると思ったんだもん」
 シオンはふて腐れながら元の位置に戻り、また本をめくった。
 
アールは魔法文字を見遣り、思わず笑みが零れた。
 
──読めた……読めた読めた読めた!!
ん? でもこれがなぜ“魔法”の文字になるのだろう。ただアルファベットとちょっと形が違うだけなのに。
 
「ねぇ、魔法文字ってこの文字自体に魔法がかかってるの?」
 
アールがそう訊くと、「本に書いてるよ」と言われてしまった。
 
アールは本の目次を見遣った。魔法文字を教える本ということは、この本を使うのは魔法文字が読めない人であるから、目次は全て普通の字だった。ただ、漢字は殆どなく、平仮名ばかりだ。子供向けと言える。
 
本に書かれていたことを纏めると、魔法文字自体には魔法が掛けられていないが、魔法を掛けることが出来る文字、ということになる。
例えば、アールの世界と同じ文字である平仮名や漢字で「いなずま」、「稲妻」と書いて魔力を込めてもなにも起きないが、魔法文字でそれらを書き、魔力を込めたなら稲妻を起こすことが出来るというわけだ。
勿論、そのスペックを持つ人間に限るわけだが。
 
そして、魔力が込められたものには魔法文字を扱うように義務付けられていた。
例えば街の中で安全に暮らしている住人が使用する普通の頭痛薬などには魔法文字が使われていないが、旅人などの疲労回復を瞬時に行う回復薬には魔法文字が使われている。
 
「なるほど、やっぱり魔法円に使われてる文字は魔法文字だったわけか」
「魔法文字を知らなかったの?」
 と、シオンがアールの呟きに反応した。
「あ……うん、まぁね。でももう理解した」
「はやいね。私は魔法文字覚えるの嫌いだった。魔法使えるわけじゃないのになんでみんな学ぶんだろうね。いざという時のためらしいけど、いざという時ってどんな時だろう」
「そっか……そうだよね」
 
アールは背伸びをした。ふと、カイ達がいる隣の部屋が静かなことに気づいた。
立ち上がり、そっと引き戸を開けると全員眠っている。カイ達は勿論、デイズリーもテオバルトも、いつの間にか布団まで敷いて眠っている。
 
「お泊り……?」
「もう遅いからね、外はすっかり闇だよ」
「ルイたち、大丈夫かな」
 と、携帯電話を取り出して見遣った。着信はないようだ。
 
時刻は午後10時過ぎ。
アールのお腹の虫が鳴った。
 
「なにか作ろうか?」
 と、シオンが笑う。
「ううん、私だけ食べるの悪いし」
「そっか、優しいね。私ももう寝ようかな。お客さん用の布団あったかな……」
「あ、みんな自分のあるから大丈夫」
「そう?」
「私ちょっと外見てきていいかな」
 ルイ達が心配だった。
「危ないよ。周り真っ暗だし」
「大丈夫、長旅してきたから」
 
笑顔で言うと、ちょっと待っててとシオンは囲炉裏のある部屋を静かに抜けてどこかへ。
直ぐに戻ってきた彼女は、アールに懐中電灯を渡した。
 
「よかったら使って?」
「ありがとう! じゃあちょっと行ってくるね」
「うん、気をつけて。私は先に寝るね、朝弱くて。あ、でもシドくんも連れて帰ってきたときはたたき起こして?」
「あはは、りょーかい!」
 
シドのどこがいいのだろうと思いながら、アールはテオバルトの家を出た。
 
島のどこに岩山があるんだっけ。
そう思ったが奥へ続く道は一本しかない。随分と静まった闇に、懐中電灯の明かりが燈された。
 
「遅くなるならルイから連絡が来そうなものなのに……」
 
アールは岩山に向かったが、洞窟に入る気は全くなかった。
 

──ヴァイス
 
覚えてる? 初めてグリーブ島から見たの海のことを。
 
私は覚えてる。
月が綺麗で、月の光が水面に降りて、揺れていた。
 
ヴァイスにとっては何でもない時間だったのかもしれないけれど、私にとってはちょっとだけ、特別だった。
 
もしかしたらこの時から、私は背を向け始めていたのかもしれない。
 
何からだって?
 
それは……言えないけれど……


[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -