voice of mind - by ルイランノキ


 百花繚乱13…『繋がり』

 
デイズリーの戻りが遅かった。
デイズリーが船から荷物を運び出しに行ってから1時間以上は経っている。
 
「どこまで行ったんじゃろな」
 と、テオバルト。
 
カイは鼻を治療してもらい、すぐに大の字になって寝はじめた。まるで自分の家のように遠慮がない。
 
「僕が様子を見てきましょうか」
 と、ルイが気を利かせて言った。
「いや、直に戻るじゃろ。──それより少し頼まれてくれんか」
「なんです?」
 
アールは寝ているカイの寝顔を見遣った。落書きしたくなる顔である。
 
「この島の北東に、岩山があるんじゃよ。上部は平らになっておってな、ちょうど島を囲んでおる堤防と同じ高さで、堤防の上に渡る吊橋が掛けられておるんじゃ。それはともかく、その岩山には地下へと続く洞窟が作られておる」
「洞窟?」
 と、一番興味を示したのはシドだった。
 
洞窟と聞いてわくわくするのは冒険心がある男ならではかもしれない。
 
「その洞窟の中は一見迷路のようになっておってな、いくつか部屋があるんじゃが……一番奥の部屋にある宝箱を持ってきて欲しいんじゃよ」
「すみませんが」
 と、ルイは口を挟んだ。「なんの部屋ですか? その洞窟は何に使っているのです?」
「わしゃ使っておらん。随分と前に牢獄として使われていたそうじゃ」
「牢獄?」
 と、アールが訊いた。
「流罪じゃよ。此処は罪人が送られた島だったようじゃ。島の東奥には罪人達の墓が立てられておる」
「死体とか……残ってるの?」
 と、アールは不安げに言った。
「綺麗に喰われとるかもしれんのぉ」
「え、何に……?」
「魔物が居着いとるんじゃよ。洞窟から出て来て悪さをするわけじゃないから追い出すわけにゃいかんかったが……このままじゃなんの為にこの島に移住を決めたのかわからんようなるからのぉ」
 
話によれば、自分は死んだことにして姿をくらましていたテオバルトは街を転々としながら伝説の武器を探していた。
 
その中のひとつは、このグリーブ島に眠っているとの情報を掴み、岩山を残して島全体を調べたが見つからなかった。
となるとやはり岩山しか考えられないが、中には魔物が住み着いていたため、近づけずにいたのだという。
 
「わしは武器をつくる専門じゃ。扱えやせんからの」
「だから俺らに頼むってか」
 シドは手の指をポキポキと鳴らした。
「お供します」
 と、ルイは言った。
「おまえはどうする?」
 シドはアールを見遣った。
「……船酔いがまだ」
 
“嘘”をついた。
迷宮の森で見たアンデッドを思い出したからだ。いかにもアンデッド系がいそうで立ち寄りたくはない。
 
「ではちょっと行ってきますね」
「今から? もう外暗いよ?」
「洞窟の中には松明が置かれておる」
 と、テオバルトが説明する。「入口の両端にある松明に火を燈せば、洞窟の中にある全ての松明に火が燈るようになっておる」
「へぇ、便利だな。魔法か?」
 と、ルイを見遣るシド。
「恐らく。ではアールさんは待っていてください。デイズリーさんが戻って来たら──」
「うん、説明しとく」
「ありがとうございます」
 
シドとルイはすくと立ち上がった。
シドが部屋の隅に腰を下ろしているヴァイスを見遣った。
 
「おまえは?」
「面倒だ」
 
シドは鼻で笑い、外へ出た。
思い出したかのようにシドの声がした。
 
「じいさん、報酬は貰うからな!」
「結構です」
 と、まだ部屋にいたルイが頭を下げ、シドの後を追った。
 
しばらくして、ヴァイスが立ち上がる。
 
「どこ行くの?」
 アールが尋ねると、
「静かな場所だ」
 と答えて外へ出て行った。
 
「おじょうさん、俺はそんなことを言ってるんじゃない。俺はおじょうさんも大事だし、おもちゃも大事なのだよ」
 そう言ったのはカイである。
「随分と長い寝言じゃのぉ」
 驚くテオバルト。
「いつものことです」
 と、アールは笑った。
 
眠るカイの横では仲睦まじそうにマスキンとスーも眠っていた。
気づけば同じ部屋にいて起きているのはアールとテオバルトの2人だけだ。
 
「クロエは……」
 と、アールは口を開いた。「未練があるのでしょうか」
「ふむ……愛する人を救えなかった未練があるようじゃな」
「わかるの?」
「わかるとも。わしを誰だと思うとる。わしは武器の声が聞けるのじゃよ。アーム玉に移された魂の声もな」
「じゃあ、クロエは今なにを思ってるの?」
「小さくなるのは不快じゃと言うておる」
「え?」
 
ペンダントトップにされることを嫌がっていたらしい。
 
「そんなことなの……?」
「ふむ。──お前を信じておる。仲間意識もあるようじゃな」
「ほんと?」
 
アールは嬉しくなって笑った。──と、その時、玄関の戸が開く音がした。
 
「じいちゃーん」
 と、女の子の声。
「おやおや、シオンじゃな」
「え?」
 
アールは思わず立ち上がると、部屋にシオンが顔を出した。
 
「あ、アール! ごめんね旅の邪魔して。ちょっと友達に借りてた本、ここに忘れちゃって。村からライトで知らせてデイズリーさんに頼んで送ってもらったの」
「ううん、大丈夫」
 
すぐにデイズリーも家の中に入ってきた。
 
「遅くなってすまない……って、あれ? 人数足りねぇな」
「あ、シド達は今──」
 
アールはテオバルトに頼まれたことを話した。
デイズリーは最初心配していたが「まぁあいつら強そうだし大丈夫か」と直ぐに納得した。
 
シオンは隣の部屋に移動した。
隣の部屋には大きな棚にぎっしり本が並べられている。本棚に背を向けるように置かれた小さな机と椅子。
 
机の上に置かれた本に手を伸ばしたシオンに、アールは声を掛けた。
 
「テオバルトさんと知り合いだったの?」
「え? あ、うん。私がカスミ街にいたときまだ7才だったんだけど、もう婚約者を決められそうだったの。聞くところによると相手は金持ちらしいんだけど、30代後半のデブおやじよ」
 と、シオンは机に寄り掛かった。
「最悪だね……」
「うん。で、逃げ出そうと思ったんだけどまだ子供だったし、うまくいかなくて。そんなときにボーゼじいちゃんと会ったの。武器をつくる材料を調達していてさ、私こっそりじいちゃんを人がいないところに連れて行ってお願いしたの。なんでもするから私をカスミ街から連れ出してって。今思えば博打だよね」
「それで助けてもらったんだね、見る目あるね」
 アールが笑うと、シオンも笑い返した。
「でしょ? で、たまに島に来て畑の手伝いとか家の掃除とかしてんの」
「そっか。ここの本は全部シオンの?」
 
アールは天井の高さまである棚の本を見遣った。
 
「半分はね。私孤児だったから学校とか行けなかったし、ろくに勉強してなくてさ、それを知ったじいちゃんが買い集めてくれたの」
 
そう言ってシオンは本棚から一冊の本を引き抜いてパラパラとめくった。
 
「ほら見て。魔法文字を勉強する本。懐かしい」
「魔法文字……」
 
アールは本を覗き込んだ。魔法文字と思われる記号が、まるでアルファベットのように全て並べられている。
 
「──シオン、この本よく見せてもらってもいい?」
 
暫くルイ達は帰って来ないだろうし、と、アールはまじまじと魔法文字を見遣った。
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -