voice of mind - by ルイランノキ


 百花繚乱6…『猟師』

 
「では、襲ってきたのは最終手段のようなものですね」
 と、ルイが言った。
 
小川に添って海へ向かう。
小川には小魚が泳いでいる。気持ち良さそうに風に揺れる菜の花。空は晴天だ。
 
「えぇ。よほど知られたくなかったのでしょう。あの場所はおそらく山賊が先に見つけたんです。あの場所への出入り口から出入りしているところを魔術師に見つかり、塞がれた。魔術師のほうがエテルネルライトの価値を知っていたからですけど。え?」
「山賊は知らなかったの?」
 アールは首を傾げた。「価値を知らないのにどうしてたの?」
「当時エテルネルライトの力はまだ判明されていませんでしたが、珍しい石としての価値はありました。山賊がその綺麗な石を少しずつ削って、ダイヤモンドに近い価格で売り捌いていたのではないかと。勿論今ではエテルネルライトのほうが高くつきますが?」
「なるほど……」
 アールとルイは声を揃えた。
 マスキンはこう続ける。
「しかし不思議な力を感じとった魔術師に全てを奪われてしまう。その後ですよ、ただの森が迷宮の森と化したのは。山賊を恐れる村人から元々依頼を受けていましてね、罠を仕掛ける前に一通り下見をしていたら見つけたようです。エテルネルライトを知っている山賊を口封じに殺すことも出来たでしょうが、彼女はそうしなかった」
「閉じ込めたんだ、森の中に」
「そういうことですけど。は?」
 
マスキンは知っていることを二人に全て話した。
閉じ込められた山賊はどうにかして森から抜け出そうと試みた。そのひとつが地下の洞窟である。
洞窟を掘り続けている途中で気づいた。もしかしたら下からならエテルネルライトが眠る場所に侵入出来るのではないかと。
実際、侵入することができた。その穴はアール達が使用した穴だ。
 
けれどもエテルネルライトの存在が口外されていないところをみると、穴は気づかれないままに、結局山賊はエテルネルライトを運び出すことも出来ずに命を落としたと思われる。
命を落とした原因はわからない。魔物にやられたか、魔術師に怪しまれて殺されたか、はたまた脱出出来たがエテルネルライトの存在についてはなにかしらの理由で第三者に漏らすことはなかったか。
 
今となってはわからない。
 
「それであの場所……ゼンダさんに報告したの?」
 と、アール。
「えぇ、先程宿を出る前に」
 ルイはそう答えた。
「そっか……魔術師は……捕われちゃうのかな」
「黒魔術師ですからね。アンデッドも排除され、仕掛けられた罠も取り外され、数百年ぶりに元の森へと戻されると思います。エテルネルライトは国によって管理されるかと。黒魔術師などの手に渡ってしまえば悪用されかねませんから」
「誰でもあの森に入れるようになってしまうの? 銀遊詩人さんは、騒がしくなるのを好まないかもしれないね」
 
アールは風に靡く髪を押さえた。結べばよかったかなと思ったが、休息日のような時間くらいは窮屈でいたくない。
 
「彼についても一応ゼンダさんに伝えておきました。配慮してくださるかと」
 
途切れた道の先に、キラキラと光るものが見えた。太陽の光を反射させて輝く海だった。
 
「海だ!」
 
アールは子供のように駆け出した。
砂浜ではカイが女の子達とボール遊びをしている。
 
「アールぅ! 遅いよぉ!」
 
その傍らには海の家が建っていた。筋肉質で色黒の猟師が数名、その中にシドの姿もあった。
 
アールは直ぐにカイと水着の女の子達に加わった。アールはカイとチームを作り、バレーボールが始まる。
参加している水着の女の子たちは5人。5対2だったが、日頃魔物を相手にしながら走り回り動き回っているアール達に敵うわけもなく。
 
「──ルイ、お前大丈夫なのか?」
 と、ルイに歩みよるシドはタンクトップだった。
「えぇ、もう十分よくなりました。それより日焼けしますよ。日焼け止め塗りましたか?」
「夏じゃねんだから。つか夏だろうが日焼け止めなんかいらねぇよ」
「紫外線は夏だけが強いわけではないのですよ」
「テメェは自分の心配だけしてろよ」
 シドは面倒くさげにため息をついた。
「彼女たちは寒くないのでしょうか」
 
ルイは水着の女の子たちを気にかけながら、海の家に歩み寄ると、猟師たちに頭を下げた。
40代以降の筋肉質な男たちが10人、海の家の前に出されたテーブルに座っている。家の壁には火繩銃が立て掛けられており、皆髭づらだ。
 
「おはようございます」
 ルイが挨拶をすると、猟師たちは軽く片手を上げた。
「シドの仲間か。シドと違ってひょろひょろだな」
 服の上からでも筋肉の盛り上がりがわかるほどの彼等からしてみればルイはひょろひょろに見えるようだ。
 
シドは昨日の晩に海へ来て、一足先に彼等と出会っていた。
 
「魔法は使えねぇが、魔物が現れたときのために昔ながらの罠は仕掛けてある。くくり罠、箱罠、網罠とかな。だからむやみやたら森に入るんじゃねぇぞ? 魔物からしてみりゃ足止めを食らう程度だろうが、その間に俺達が駆け付けて仕留めるわけだ。──この村は小さいからな、俺らだけで十分だ」
 猟師の一人がそう言うと、全員が声を揃えて笑った。
「そうでしたか。頼もしいですね。皆さんはこの村の住人なのでしょうか?」
 
全員同じような体型で、年齢も同じくらいだろう。小さな村でこうも揃うとは思えなかった。
 
「いや、俺らは仕事だよ。こういう小さな村にやって来ては1ヶ月ごとに入れ替わり立ち替わり村を守るんだ。金は国が支払ってくれてる。最終的には村人を結界のある街に移り住んでもらうことなんだが、なかなかうまくいかないもんでね」
 
ルイ達がそんな会話をしていると、水着の女の子達が悲鳴を上げた。
 
海から魚の魔物が飛び出してきたのだ。
猟師の一人が火繩銃を構えて歩みより、撃ち殺した。
 
「もう魔物は出ないって言ったじゃないですかぁ!」
 と、水着の女の子。
「水中の罠が流されたかな。悪いがまた暫く海には入らないでくれ」
「えーっ、女の子と水のかけっこしたかったのにぃ」
 と、カイが絶望に打ちひしがれた。
 

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