voice of mind - by ルイランノキ


 百花繚乱7…『女の子』

 
「シドさんは行かないのですか?」
 
ルイは海の家の前に出された椅子に腰掛け、森へ向かう猟師達の背中を見遣った。
 
「つまんなそうだしな」
 シドも腰掛けると、テーブルに片肘をついた。
「俺ももう限界……」
 と、カイがふらふらしながらルイ達の元に来た。「女の子5人も一度に相手するなんて体力持たないよぉ……」
「だろうな」
 シドは笑った。
「アールさんは?」
 と、ルイ。
 
浜辺に目をやると、打ち上げられた流木に腰掛け、なにやら女の子達と楽しそうに話していた。
ルイははじめ、何気なくそれを眺めていた。
その横でカイとシドは下ネタで盛り上がっている。
 
「アールちゃんも水着になりなよ。貸すよ?」
 水着の女の子にそう言われたアールは、困ったように笑った。
「えっ、いいよ私は……似合わないし青痣だらけだし寒いし」
「そう? ──ねぇシドくんて彼女いるのかなぁ」
「あ、私も知りたーい!」
 
アール達の中に、久美に似ているシオンの姿はなかった。
 
「どうだろ……いないんじゃないかなぁ」
 と、首を傾げる。
「どうしようアプローチしてみようかなぁ」
「えーっ、私も仲良くなりたーい」
 シオンが言っていた通り女の子達にはシドが一番人気だった。
「ねぇ、シオンはいないの?」
 と、アールは訊く。
「シオンは後から来るみたい。今日掃除当番なの。明日は私」
「そっか」
 
彼女達の会話はルイ達には距離と波の音であまり聞こえていなかった。
ただなにか楽しそうな雰囲気は伝わって来る。
 
「アールちゃん、旅の話し聞かせてよ」
 女の子の一人がそう言うと、そこにシオンがやってきた。
「私も聞きたいな」
「シオン!」
 アールは思わず立ち上がる。やっぱり久美に似ている。
「仲間の面白い話とか、ない?」
 骨格が似ているからか、声まで似ている。
「カイの話なら沢山あるけど?」
 と、アールが笑うと女の子たちは興味津々に身を乗り出した。
 
「──女は長話好きだよな」
 シドが呆れたように遠くのアールを見遣った。
「俺も参加してこよっかなぁ」
 カイがそう言ったとき、アール達の笑い声が風に乗って聞こえてきた。
 
3人は遠目にアールを見遣った。アールは3人が見たことのない笑顔で笑っていた。彼女を取り巻く女の子達に負けないくらいの明るい笑顔だった。
その表情を見ると、戦いを知らない普通の女の子と何ら変わりはなかった。
 
「ああゆう顔で笑うんだな」
 シドが何気なくそう呟いた言葉に、ルイは彼女から目が離せなくなった。
 
この世界へ来る前の彼女はもっともっと楽しそうに明るく、幸せも含んだ笑顔で笑っていたのだろう。
自分達には絶対に見せることのない笑顔のような気がして、彼女は別世界の人間であることを再認識させられる。
カイもどこか寂しそうにアールを見遣っていた。彼女達の間に入り込む隙がないように思えた。
 
海の波が押し寄せては引いていく。
陽の光が強まり、水面をよりいっそうキラキラと輝かせている。
砂浜にまじって輝く貝殻のカケラも、この和やかな時間を演出している一部のように、辺り一面に散らばっている。
 
アールは旅の話に夢中になった。
辛かった出来事も、この村の女の子達は目を見開いて驚いたり、散々だった出来事も、彼女達はお腹を抱えて笑ったり、興味を示してくれた。
 
「アールちゃん凄いね、私達がずっとこの村でのんびり過ごしていた間、色んな経験してきたんだね。私たちも頑張らなきゃ」
 
二十歳になれば彼女達はこの村を出て行く。
彼女達が胸に描く未来は明るくて輝かしかった。それらを無くしてはいけないと、取り上げてはいけないと、アールは思った。
 
 世界中の笑顔は君の手の中にある
 
あの紙に書かれていた言葉を思い出す。
 
「ところでアールは、なんで旅をしてるの?」
 シオンが言った。
 
他の女の子達もこれまで以上に興味を示し、アールに目を向けた。
 
「……自分探しの旅かな」
 
そう答え、彼女たちがそれぞれどう捉えたのかはわからないが、皆、納得したように頷いていた。
本当に自分探しの旅だと思った女の子もいるだろうし、言いたくないからそう答えたのだと察した人もいただろうし、ちゃんとした目的はあるだろうが遠回しにその言葉を選んだのだろうと解釈した女の子もいるに違いなかった。
 
アールは時折、盗み見るようにしてシオンを一瞥した。久美の面影が浮かぶ。久美と話しているような感覚に浸り、心地がよかった。
久美と同じ声で違う名前を呼ばれて、ふいに違和感を覚える。
 
「“アール”はカッコイイね、くじけそうになるときもあるだろうに、ちゃんと立ってる」
 
かっこよくなんかない。
きっと立ち姿は不様に違いなかった。
それでもシオンの言葉はストレートに嬉しかった。
きっと久美も、同じ言葉を投げかけてくれるような気がした。
 

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