voice of mind - by ルイランノキ


 見知らぬ世界26…『謎の魔導士』

 
「やっべーな……食い過ぎたか……」
「シドさん、もう少し休んで行きますか?」
 
 今、何時くらいだろう。
 
旅に出てからというもの、アールは一度も時間を見ていなかった。この世界に来たときには腕時計をしていたものの、お風呂に入った時に外してそれっきりだった。多分シキンチャク袋に入っているはずだ。
 
旅に出てから朝食はきちんと食べ、昼食はおにぎりなどの軽食が多い。夕方はまたルイの美味しい手料理が待っている。
寝床を探すのはすっかり暗くなった頃で、朝は何時に寝ようが基本は5時には起き、1時間後には出発する。短いようにも思えるが、1時間あれば十分だった。着る服で悩んだり、髪型に悩んだり、テレビを観たり、メイクをして時間を使っていたあの頃とは違う。朝が苦手で朝食を食べたり顔を洗っても眠気が覚めないアールだったが、さすがにこの世界に来てからは嫌でも直ぐに目が覚める。
 
「休んでる暇はねーよ。動いてりゃ消化すんだろ」
 と、シドは言った。
「無理はしないでくださいね? 街までもうすぐですが」
 
街に着いたからと言ってそこがゴールなわけではないが、一行は逸る気持ちを押さえ、最初の街、ルヴィエールを目指して歩いていた。
 
「可愛い子いるかなぁ! ヘヘッ楽しみーっ」
 と、カイは妄想しながら顔を緩めている。
「良い食材があればいいですね」
 と、ルイは食材を気にし、
「俺は武器屋が見てぇ」
 と、シドは言った。
 
皆、それぞれ目的があるようだ。街が近づくにつれ、そんな会話が多くなる。
 
「美人なお姉さんでもいいなぁ。あ、アールは? 街に着いたら何したいー?」
「えっ……あ、お風呂に入りたいかな」
「なんだそれぇー」
「温かいお風呂に……」
「あー分からなくもないけどぉ」
「街に着いたら宿に泊るので、共同ですがお風呂、ありますよ」
 と、ルイがカイとアールの会話に入って来た。
「……共同?」
「ルイはケチだからな」
 と、シドが言う。「安い風呂無しの部屋を借りやがる」
「シドさん? ケチなわけではなく、節約ですよ?」
「同じだろッ!」
 
長い道を歩きながら会話が弾む。アールはシドとも自然に話せるようになってきた。
 
「共同でも男女別だから安心していーよぉ」
 と、カイがニヤニヤしながら言う。
「う、うん……」
「アールは男女一緒でも平気そうだけどぉ……て、あれぇ? 俺の裸見て叫んでたよねぇ? 俺達とためらいもなく一緒にお布団並べて寝てたから、男に慣れてんのかと思ったのにぃ」
「いや……だって寝るとこ他に無いじゃない」
「そうだけど普通ためらうでしょー、布団ひとつ分空けてアールの布団敷いてるとはいえ……『いやーん襲われちゃうかもぉ! やだやだぁ』とか思わないのぉ?」
 そう言ってまたニヤニヤと笑うカイ。
 
言われてみればそうだ。彼等と生活することに、さほど抵抗は無かった。気にする余裕が無かったというのもあるが、今指摘されても、特に抵抗は感じない。
 
「思わないよ、私を襲う物好きなんていないだろうし、みんな……」
「みんな?」
「そうゆう人じゃないだろうから?」
「ふぅーん? それって俺達がすんげー良い人に見えるからでしょ? ね? そうでしょー?」
 と、食い気味に「そう言って」と思いながらカイは満面の笑みで訊いた。
「……うん」
「やっぱりー! 俺よくいい人そうって言われる! 実際いい人だし!」
「ふふっ、そうだね」
 
カイは本当に無邪気というか脳天気というか、見ていて面白いから思わず笑みがこぼれる。
 
「おい、馬鹿な会話してる場合じゃねーぞ。前方にモンスターの集団がお出ましだ」
 と、シドが言った。
 
一行が歩いている道の遥か先に、数匹の獣の姿が見えた。
 
「あれって……」
 と、アールは呟く。遠くてハッキリとは見えないが、以前見たことがある魔物だ。
「アールさんが初めて見たモンスターですね。バニファといいます」
 と、ルイ。「でもおかしいですね、あのモンスターは群れで行動しないはずですが」
 
カイはというと、既にルイの背中にしがみつき、身を隠していた。
 
「なんでもいい。一気に行くぞ!!」
 と、シドが声を張り上げた。
「え……? 私に言ってる?」
 と、アールは目をパチクリさせた。
「オメェ以外に誰がいんだよ!」
「……カイとルイ?」
「使えねぇー……」
 シドは二人を見遣って遠い目をした。
「なんだとぉー?!」
 と、カイが叫ぶ。
「ばか叫ぶなッ!!」
 
魔物が一行に気付いたのではないかと前方を見るが、動いた気配が無い。
 
「あいつら……何やってんだ??」
「遠くて見えづらいけど、何かいるんじゃ……? モンスター、円になってない? 中央に何かあるのかも」
 と、アールは目を細めて言った。
「オマエ目が良いな。あいつら飯でも食ってんのか?」
「わからないけど……行きますか」
「足引っ張んじゃねーぞ?」
「……はい」
 

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©Kamikawa
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