voice of mind - by ルイランノキ


 見知らぬ世界27…『第二章 完』

 
とは言うものの。
 
「おっせぇーよッ!!」
 
アールは、シドの超人並の足の速さについて行けず、一足どころか二足ほど遅れてしまった。
シドは先に魔物の群れへと走って行き、その勢いで斬り掛かろうとしたが……。
 
「……あ?」
「ゼェ……ゼェ……」
 息を切らしたアールが漸く追いついた。
「コイツら死んでやがる」
「ゼェ…ゼェ……そう……だね……」
「オメェは何で走っただけで息切れしてんだよッ!」
「体力が……無いんです」
「致命的だなそれ……」
 と、シドは呆れて怒る気力も無くしたようだった。
 
カイとルイが二人の様子に気付いて走って来た。
 
「あんれぇ? 死んでるー!!」
 と、カイはまだ警戒してルイの背中越しに言った。
「なぁルイ、どういうことだ?」

5匹の魔物は立ったまま、向かい合わせでお互いの体を支え合うようにして息絶えている。
 
「……隙間から何か見えますね、退かしてみましょうか」
 
ルイとシドが力任せに魔物を移動させると、その中央の地面に魔法円が描かれていた。
 
「これは……罠ですね。幻景の魔法円です。誰かが自分の幻をここに……」
 ルイが説明していると、魔法円が描かれている場所にだけ風が舞い、魔法円は跡形もなく消えてしまった。
「……消えちゃったね」
 と、不思議そうにアールが言った。
「まだ近くに誰かいるのかもしれませんね」
「もっと詳しく説明しろ」
 と、シドが言う。
「推測ですが……、誰かがこのバニファ達に襲われ、魔法を使って自分の幻をこの場所へと映し、惑わされたモンスターを背後から仕留めたのではないかと思うのですが……」
「仕留めた? 外傷はねぇぞ?」
「死因を調べてみましょうか」
「まぁ、気味わりぃしな……」
「分かりました」
 そう言うとルイは、魔物の体を診察し始めた。
「ドクターみたい」
 と、アールは呟いた。
「みたいってゆうかぁ、ルイは2級医師免許持ってるんだよぉー。頭良いんだ! 俺より!」
「凄い……多才だね」
 2級、ということはランクでもあるのだろうか。
 
「シドさん、すみませんが体を斬り裂いて貰えますか?」
 と、ルイが言った。
「あぁ」
 シドは躊躇うことなく刀を抜いた。
「うげぇ……」
 と、斬り裂く前からアールとカイは気持ちが悪くなり、えずいた。
「オメェらは向こう行ってろッ!」
「はい」
 
ルイが言っていた、“誰か”。こんな危険な場所で人とすれ違うことすら無かったのに、本当に誰かがいたのだろうかと、アールは辺りを見回した。

「どうなってんだ? 気持ちわりぃな……」
「心臓が無い……ですね」
「え……?」
 アールとカイは、斬り裂かれて胸がバックリと開いた魔物を目にした。「うえぇぇ!?」
「オメェら振り向くんじゃねーよ!」
 と、シドが呆れて言った。「つか見慣れてんだろーが」
「体の中、大分荒らされていますし、喉の中も削れてますね。口から……何かしたのでしょうね」
「ひでぇ殺し方すんだな」
「幻景魔法を使って敵を交わすのは初歩的な魔法ですが、殺し方といい……気になりますね」
「走ったら犯人に会えるかも」
 と、アールは言う。
「走ったらお前バテるだろーが……」
 と、シドが呆れ返って言った。
「……歩いてたらそのうち会えるかも」
「言い直してんじゃねーよ」
「そうですね。この先、この道を真っ直ぐ行けばルヴィエールに続いていますし、会えるかもしれません」
 と、ルイがロッドを構えて魔物を消しさりながら言った。
「美人なお姉さんとかいるかなぁ」
「カイはそればっかだね……」
「アール! 戦いの疲れを癒すには女の子だよ!」
「戦ってねーだろテメェはッ! 一度もなッ!!」
 と、シドがカイに怒鳴る。
「アールぅ……シドが虐める……」
「へぇ……」
「へぇ…ってヒドッ!! 俺傷ついた! さっきのモンスターみたいに!」
  
アールは、城にいた者達と、仲間以外にはまだ会ったことがなかった。仲間が言うルヴィエールという街とはどんな場所なのだろう。どんな人達が住んでいるのだろう。
 
一歩ずつ、ゆっくりではあるけれど、この世界の大地を踏み締め歩いていく。
重かった足取りが、仲間と少しずつ打ち解けるごとに軽くなり、歩きやすくなる。
歩幅を合わせるのは簡単なことではなかった。それでも遅れないようにと大きく一歩を踏み出す。
力強く、大地を蹴るように──

第二章 見知らぬ世界 (完)

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