voice of mind - by ルイランノキ |
とは言うものの。
「おっせぇーよッ!!」
アールは、シドの超人並の足の速さについて行けず、一足どころか二足ほど遅れてしまった。
シドは先に魔物の群れへと走って行き、その勢いで斬り掛かろうとしたが……。
「……あ?」
「ゼェ……ゼェ……」
息を切らしたアールが漸く追いついた。
「コイツら死んでやがる」
「ゼェ…ゼェ……そう……だね……」
「オメェは何で走っただけで息切れしてんだよッ!」
「体力が……無いんです」
「致命的だなそれ……」
と、シドは呆れて怒る気力も無くしたようだった。
カイとルイが二人の様子に気付いて走って来た。
「あんれぇ? 死んでるー!!」
と、カイはまだ警戒してルイの背中越しに言った。
「なぁルイ、どういうことだ?」
5匹の魔物は立ったまま、向かい合わせでお互いの体を支え合うようにして息絶えている。
「……隙間から何か見えますね、退かしてみましょうか」
ルイとシドが力任せに魔物を移動させると、その中央の地面に魔法円が描かれていた。
「これは……罠ですね。幻景の魔法円です。誰かが自分の幻をここに……」
ルイが説明していると、魔法円が描かれている場所にだけ風が舞い、魔法円は跡形もなく消えてしまった。
「……消えちゃったね」
と、不思議そうにアールが言った。
「まだ近くに誰かいるのかもしれませんね」
「もっと詳しく説明しろ」
と、シドが言う。
「推測ですが……、誰かがこのバニファ達に襲われ、魔法を使って自分の幻をこの場所へと映し、惑わされたモンスターを背後から仕留めたのではないかと思うのですが……」
「仕留めた? 外傷はねぇぞ?」
「死因を調べてみましょうか」
「まぁ、気味わりぃしな……」
「分かりました」
そう言うとルイは、魔物の体を診察し始めた。
「ドクターみたい」
と、アールは呟いた。
「みたいってゆうかぁ、ルイは2級医師免許持ってるんだよぉー。頭良いんだ! 俺より!」
「凄い……多才だね」
2級、ということはランクでもあるのだろうか。
「シドさん、すみませんが体を斬り裂いて貰えますか?」
と、ルイが言った。
「あぁ」
シドは躊躇うことなく刀を抜いた。
「うげぇ……」
と、斬り裂く前からアールとカイは気持ちが悪くなり、えずいた。
「オメェらは向こう行ってろッ!」
「はい」
ルイが言っていた、“誰か”。こんな危険な場所で人とすれ違うことすら無かったのに、本当に誰かがいたのだろうかと、アールは辺りを見回した。
「どうなってんだ? 気持ちわりぃな……」
「心臓が無い……ですね」
「え……?」
アールとカイは、斬り裂かれて胸がバックリと開いた魔物を目にした。「うえぇぇ!?」
「オメェら振り向くんじゃねーよ!」
と、シドが呆れて言った。「つか見慣れてんだろーが」
「体の中、大分荒らされていますし、喉の中も削れてますね。口から……何かしたのでしょうね」
「ひでぇ殺し方すんだな」
「幻景魔法を使って敵を交わすのは初歩的な魔法ですが、殺し方といい……気になりますね」
「走ったら犯人に会えるかも」
と、アールは言う。
「走ったらお前バテるだろーが……」
と、シドが呆れ返って言った。
「……歩いてたらそのうち会えるかも」
「言い直してんじゃねーよ」
「そうですね。この先、この道を真っ直ぐ行けばルヴィエールに続いていますし、会えるかもしれません」
と、ルイがロッドを構えて魔物を消しさりながら言った。
「美人なお姉さんとかいるかなぁ」
「カイはそればっかだね……」
「アール! 戦いの疲れを癒すには女の子だよ!」
「戦ってねーだろテメェはッ! 一度もなッ!!」
と、シドがカイに怒鳴る。
「アールぅ……シドが虐める……」
「へぇ……」
「へぇ…ってヒドッ!! 俺傷ついた! さっきのモンスターみたいに!」
アールは、城にいた者達と、仲間以外にはまだ会ったことがなかった。仲間が言うルヴィエールという街とはどんな場所なのだろう。どんな人達が住んでいるのだろう。
一歩ずつ、ゆっくりではあるけれど、この世界の大地を踏み締め歩いていく。
重かった足取りが、仲間と少しずつ打ち解けるごとに軽くなり、歩きやすくなる。
歩幅を合わせるのは簡単なことではなかった。それでも遅れないようにと大きく一歩を踏み出す。
力強く、大地を蹴るように──
第二章 見知らぬ世界 (完)
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