voice of mind - by ルイランノキ


 相即不離15…『宝箱』

 
カイは尻餅をついていた。
蝙蝠の羽を持つ魔物は結界の壁に激突し、地面に落ちた。脳震盪を起こしているのか、ピクリとも動かない。
 
「カイさん!」
 ルイが走り寄ってきた。「間に合ってよかったです」
 
しかしカイは視線を落とした。
 
「カイさん?」
「捨てちゃった……」
「え?」
 と、ルイはカイに怪我がないか見遣り、気づいた。「刀……ですか?」
 
カイは首を横に振った。
 
「なにを捨てたのですか?」
「うさぎ……お返事ウサギ……」
「…………」
 
ルイは地面に倒れている魔物を警戒しながら、少し考えて口を開いた。
 
「どこにですか? カイさんはここにいてください。僕が取りに行きますから。刀もそこにありますか?」
 
カイは黙って頷いた。
 
「ところでスーさんはご一緒ですか?」
 
カイは横に首を振る。
 
「どちらへ?」
「…………」
 カイは道の先を指差した。
「先にスーさんを捜しに行ってもよろしいですか? カイさんは結界の中にいてくださいね」
 
カイが頷いたのを確認してから、ルイはカイが指差した方角へ走り出した。
それにしてもカイを襲った魔物が気になっていた。あれはキーネロバッドといって宝箱の中に住みつく習性がある。キーネロバッドの羽の先は尖っており、器用に宝箱の鍵を開けることが出来るのだ。
 
もしかしたら近くに宝箱があるのかもしれない。でも今はスライムのスーを見つけ出すことが優先だった。
 
暫く走り続けると、円状に開けた場所があった。その中心に鍵が開いた宝箱がある。
ルイは宝箱に近づき、中を覗き込んだ。小さな瓶がある。手に取ってみると、中には虹色に輝くアーム玉がひとつ、入っていた。
 
「これは……武器を強化できるアーム玉ですね」
 
──と、その時、足元からペチペチと音がした。
ルイが足元を見遣ると、細長くなっているスーの姿があった。よく見るとスーの体の半分は宝箱の鍵穴に入っている。
 
「スーさん! 鍵を開けたのはスーさんだったのですね」
 
ルイは一先ず瓶を脇に置き、スーに手を差し延べた。スーの体を鍵穴から引き出そうとしたが、引っ掛かっているのか引っ張れば引っ張るほど伸びてゆく。
 
「痛くありませんか?」
 スーはペチペチと手を鳴らした。
「柔らかい体で鍵を開けるだなんて、苦労したのでは?」
 ルイはシキンチャク袋から洗剤を取り出した。
「滑りをよくしてみましょう。洗剤大丈夫ですか? 食用油は食材のシキンチャク袋に入っていて、アールさんに渡してしまったのです」
 
スーは手をつくって必死に横に振った。やめてくれと言っている。
 
「そうですか……困りましたね。あ、確かハンドクリームがありました。使うのは少しだけですのでよろしいですか?」
 
スーは意思表示をしなかった。もう好きにしてくれと言っている。
 
ルイはチューブ型のハンドクリームを出すと、重量感のある宝箱を傾けて少量のクリームを流し入れた。
それから今度は麺棒を取り出してなるべく奥まで行き渡るようにクリームを押し込んだ。
 
「では引っ張りますね」
 
それでもなかなか抜けなかったが、10分程格闘した末に漸く鍵穴からスーの体が抜けた。
スーの体はすっかり鍵穴の形になっていたが、ルイがティッシュでハンドクリームを拭き取ってから、コップに注いだ水に入ると元の形を取り戻していた。
 
「スーさんはカイさんを助けようと鍵を開けたのですか? なにか役に立つものが入っているかもしれないと」
 
そう訊きながらアーム玉が入っている小さな瓶をシキンチャク袋に入れて、代わりになるものを探した。
スーは目をぱちくりさせて、手を叩いた。よくぞわかってくれましたと言っている。
 
「ですが魔物が飛び出してしまったのですね」
 
スーはしゅんとしたように手を引っ込めた。
 
「ですが、とても良いものを見つけてくださりました。なかなか手に入らないものですよ。代わりになるものなどありませんから」
 ルイは代わりに宝箱に入れる物を悩んでいた。
「カイさんを待たせていますし長居していられませんので、HM回復薬を入れておきましょう」
 
ルイが宝箱に入れたのは、回復薬の中でも魔力と体力共にMAXまで回復してくれるものだった。
 
「さ、次はカイさんの刀と、お返事ウサギの回収です」
 
スーはコップから出ると体を震わせて水気を払い、ルイの肩に乗った。
 

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