voice of mind - by ルイランノキ


 相即不離16…『お返事ウサギ』◆

 
「なんなんだこのヘドロみたいなやつは……」
 
シドの視線の先には、ボウルに入ったどろどろの液体に沈められた海老、キャベツ、玉ねぎがあった。
 
「ヘドロじゃないよ、水と薄力粉と長芋とだし汁に卵を混ぜたやつ」
「見てるだけで吐きそうなんだが……肉は焼かねぇのか?」
 肉は傍らに置かれたままだった。
「肉は後で」
「焼くんだろうな……?」
「焼くから黙っててよ。今からソース作るんだから」
「ソース?」
「えーっと……ウスターソースとハチミツと……ケチャップだっけ? お醤油入れたっけ?」
 と、虚空を見遣る。
「なぁ、食えるもんつくれよ?」
「食えるよ!」
 と、アールはシドを睨んだ。「材料は食えるものなんだし、胃に入れば全部同じだよ!」
 
━━━━━━━━━━━
 
その頃ルイは一度カイが待っている場所に戻っていた。
 
「カイさん、スーさん無事でしたよ」
 結界の中にいたカイは顔を上げた。
「スーさん、カイさんを助けようと宝箱の鍵を開けていたようです」
「そうなの……?」
 
ルイの肩に乗っていたスーは、カイを囲んでいる結界の上に跳び移った。
 
「キーネロバッドはいなくなったのですね」
 いつの間にか姿を消していた。
「ありがとうスーちん……」
「カイさん、刀とお返事ウサギを回収してきますね」
 カイは黙って頷いた。
 
スーはルイの手の平に乗ってから、カイがいる結界の中へと入れてもらった。
 
ルイは急ぎ足でカイが刀を落としたという場所に向かった。
その場所はさほど離れてはいなかった。カイの刀を見つけると、辺りに白い綿が風に吹かれ、広範囲に散らかっていた。
 
カイの刀を持ち、少し困った。鞘がない為、シキンチャク袋に仕舞いづらいのだ。シキンチャク袋に入れる際には小さくなるが、刃が剥きだしだと他の物に傷を付けてしまう。また、刃が他の物と接触して欠けてしまう可能性もあった。
一先ずロッドを背中に装備し、刀は左手に持った。腰を下ろしながら散らばっている綿を拾い集める。
 
本体はどこにあるのだろう。少し不安になったが、すぐに見つけることが出来た。森の草木の間に横たわっていたのだ。耳も足も手もひきちぎられ、あらゆる箇所が破け、獣の唾液で湿っていた。
ボロボロになったお返事ウサギをそっと拾い上げ、辺りを見遣った。獣の姿はない。飽きてどこかへ行ってしまったのだろう。
ルイはもう一度お返事ウサギを見、破かれた腹部の綿の中に紙切れが入っていることに気づいた。
 
地面にカイの刀を起き、左の膝をつき、右の膝の上にぬいぐるみを乗せて中の紙を引き抜いてみた。開いてみると魔法円が描かれていたが、獣の牙が貫いたような穴が空いていた。
お返事ウサギは話し掛けた人間の心に反応し、希望通りの動きや返事見せてくれる。それらの仕組みは全てこの魔法円によるものだったようだ。
 
「カイさんが悲しみますね……」
 
ルイは出来るだけ散らばった綿やぬいぐるみの一部を拾い集め、カイの元へ戻った。
 
カイにとっておもちゃは、宝物だった。
幼い頃、なかなか友達が出来なかった彼の心の支えになったのはいつだっておもちゃだった。彼が友達をつくるきっかけを作ったのも、自分が持っていたおもちゃだった。
 
ルイはお返事ウサギを手放した経緯を、戻ってからカイに尋ねた。うなだれたまま、ボロボロになってしまったお返事ウサギを直視することが出来ないようだった。
ルイはお返事ウサギをビニール袋に入れてからシキンチャク袋に仕舞った。
 
結界を解いてからカイの肩に手を置き、言った。
 
「カイさん……みんなの所へ戻ったら、僕がお返事ウサギの手術を試みてみますね。僕はカイさんが酷いことをしたとは思いませんよ。お返事ウサギもきっと、わかっているはずです」
 
カイは俯いたまま、小さく頷いた。
そんな彼の頭の上に乗っていたスーが、心配そうに見下ろしていた。
 


[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -