voice of mind - by ルイランノキ |
「おい馬鹿どけッ! 邪魔だッ!!」
と、シドがアールに怒鳴った。
「ご、ごめんなさいっ!!」
アール達の前に立ちはだかったのは、コウモリのような巨大な翼を持った、象ほどの大きさの……
「ハァ…ハァ……何このニワトリ!!」
「アールさん! それはニワトリではなくイトウという魔物です!」
「え? 伊藤さん?」
大きな翼をバサバサと羽ばたかせ、宙を舞い、彼女達を威嚇している。
「シドさん、私飛ぶ奴ムリです……絶対」
「下がってろ!!」
彼に言われるがまま離れ、ルイの元へと駆け寄った。その際、ルイがカイを囲んでいた結界を一度外し、アールはカイの隣にしゃがみ込んで一緒に結界の中へ身を隠したのだが、待っていたカイが「痛ぁー!」と叫んだ。くるぶしを押さえ、苦痛な表情を浮かべている。どうやらアールが腰に掛けていた剣の鞘が、彼のくるぶしに、ガンッ!と、命中したらしい。
「ごめっ……大丈夫?」
「気をつけてよぉー…」
と、カイは目に涙を浮かべていた。なぜか捲くっていたズボンの裾を下ろした。
「ごめんなさい、まだ慣れなくて……」
「それとぉ、アールが結界に入る度に一度結界解くからその隙に狙われたらどぉーすんだよぉ」
「……ごめんなさい。でもカイさんは戦わないの?」
「え?! 何言っちゃってんの。俺死にたくないもん!!」
死にたくないのは私も同じなんだけど……。
「じゃあ、何の為に刀を腰に掛けてるんですか?」
と、アールはちょっと意地悪な質問をする。
「いざとゆう時の為だよぉ!!」
それは今ではないのね……?
アールは、ますます何故カイが仲間なのか疑問が湧いてきた。
一方、シドはなかなか攻撃して来ないイトウに苦戦していた。助走をつけてジャンプするも、あと一歩のところで交わされてしまう。それでもアールからして見ればシドのジャンプ力は超人並だ。どう見ても4メートル以上の高さは軽々と跳んでいる。ここの世界の重力は軽いのだろうかと思ったが、自分の体は相変わらず重い。
「シドさん、援護します!」
と、ルイはシドの元へと駆け寄った。
結界はルイが離れても、アール達を覆い、守り続けている。
「え……ルイさんも戦うの?」
と、アールは隣にいるカイに訊く。
「ルイは攻撃魔法も使えることは使えるよー。でも……」
ルイがロッドを空高く掲げ、スペルを叫ぶと、イトウの頭上に魔法円が浮かび上がり、爆音と共にイトウを目掛けて稲妻が落ちた。アールは飛び上がって驚いた。
「ひぃやぁ?! なに今のッ?! 怖いっ!!」
と、思わず耳を塞ぐ。
「え? どう見ても雷だよぉ」
と、カイがヘラヘラしながら答えたものの、耳を塞いで興奮しているアールには全く聞こえていなかった。
しかし雷が落ちたということくらいは、見れば一目瞭然だ。イトウはあまりの衝撃に地面へとたたき落とされた。起き上がろうとしているものの、ジタバタと地面で暴れ、体から煙が出ている。
「ルイ下がってろ! あとは任せろ!!」
「はい!」
ルイにあれほどの力があったなんて……と、アールは意外に思った。
ルイが地面にたたき落としたイトウをシドが仕留めたあと、一行は休む暇もなく再び歩き出していた。カイは道端に落ちている小石を蹴りながら歩き、無駄に体力を消耗している。
「ルイさん、汗凄いけど、大丈夫ですか?」
と、アールは言った。
いつもは爽やかな表情をしているルイが、額に汗を滲ませ、少し辛そうに見える。
「えぇ……大丈夫です。すみません」
「お前無理すっからだろ」
と、先頭を歩いていたシドが振り返りながら言った。足は止めずに先を急ぐ。
「無理……?」
と、アールは心配そうに訊く。
「攻撃魔法に向いてねんだよルイは」
「そうなんですか?」
「え、えぇ……」
と、少し気まずそうにルイは答える。「僕は一応治療魔法専門ですので……攻撃魔法を使うと体にかかる負担が……大きく……」
一言一言喋るたびに、ルイは息苦しそうにする。
「説明はいいですよ、少し休んだほうがいいんじゃ……」
「いえ……、僕は大丈夫です」
ルイは心配かけまいと、無理して笑顔を作った。
ルイはいつでも自分のことは二の次だった。シドは足を止めることもなく黙々と先頭を歩き続け、カイは鼻歌を歌いながら歩いていた。
アールは彼らを後ろから眺め、ため息をついた。
誰もルイさんのこと心配してないの? 心配しても何も出来ないけど。
アールは少しテンポが落ちているルイの歩幅に合わせた。シドもカイもスタスタと歩き、少しずつ二人との距離が開いていく。
「アールさん……、先に行っていいですよ」
「え?」
「僕は大丈夫ですから……」
「私、足遅いんですよ。ほら、足短いし」
と、アールは気を遣わせないように言葉を選んで言った。蹴るように片足を上げてみせる。
彼女の言葉に、ルイは優しく笑って、
「そうですか」
と、返事をした。ルイはアールの優しさに気付いていた。
「おっせーぞッ!!」
と、遥か前方からシドが振り向いて叫んでいた。
「あんたが早いんだっつの」
と、アールは口を尖らせて小さな声で言うと、ルイはクスクスと笑った。
「聞いてんのかぁ?! さっさと歩けッ!!」
「あれだけ怒鳴ってりゃ嫌でも聞こえてるっつの」
と、アールはまたシドには聞こえない声で、ふて腐れたようにボソッと言うと、やっぱりルイはクスクスと笑っていた。
「……面白いですか?」
「えぇ……少し」
いまいち何が面白いのか分からなかったが、苦痛な表情でいたルイの顔に、少し笑顔が戻ったことが嬉しかった。そして、「おせーぞ」と叫びながらも、立ち止まって二人を待っているシドの不器用な優しさに気付いた。
「なんだかんだで待っててくれてるんですね、シドさんって……」
「えぇ、彼はそういう人です」
先を歩いていた二人と合流してからは、ぶつぶつと文句を言いながらも、シドとカイはルイの歩幅に合わせて歩いていた。
「ったく……時間がねえっつのに」
「すみません……」
謝りながらもルイは笑顔だった。彼はシドの不器用な優しさを知っているのだ。
Thank you... |