voice of mind - by ルイランノキ


 相即不離6…『死を覚悟』

 
アールと詩人の元にやってきたのは、ルイとヴァイスだった。
アールはヴァイスを見て、詩人と雰囲気が似ているような気がした。
 
「アールさん! ご無事でしたか!」
 アールの姿を確認したルイが、走り寄る。
「うん、ルイも無事でよかった。ヴァイスも」
 
ヴァイスは小さく頷いた。
ルイは詩人に目を向け、言った。
 
「あなたは……?」
「詩人さん」
 と、アールが代わりに答えた。「吟遊詩人だから詩人さん。名前は無いんだって」
「迷いの森の吟遊詩人……。噂には聞いたことがあります」
 そう言ってルイは詩人に頭を下げた。
 詩人も軽く頭を下げ、
「私も有名になったものだな」
 と呟いた。
「ねぇ、シドとカイは? 途中で会わなかったの?」
 アールはルイ達が来た道を見遣った。
 
ここに辿りつく道は、自分が通ってきた道しかないようだ。ここから更に奥へ続く道は森の出口に向かってのびている。
 
「えぇ。何度かカイさんの悲鳴とシドさんの雄叫びは聞こえたような気がしたのですが。分かれ道に印しをつけたのは、アールさんだったのですね」
「あ、気づいた? カイと方向音痴の自分のために描いたんだけど」
 
ふたりの会話を聞いていた詩人が口を開いた。
 
「他にも仲間がいるのなら、ここでゆっくり待つといい。ここだけは惑わせる魔法の対象外だ。逸れることはない」
 
━━━━━━━━━━━
 
生い茂る森の中に線を引いたような道の上を、ぷるぷるとした丸くて大きな物体がゆっくりと転がってゆく。その柔らかく半透明な物体の中に、四つん這いになったカイがいた。
 
「凄いよスーちん、無敵だよぉ」
 
丸い物体はスライムのスーだった。体を風船のように丸く膨らませ、カイを守っている。
 
「スーちんにこんな力があったなんてぇ、俺見直しちゃったなぁ」
 
そうしみじみ感じていた矢先に獣が現れ、パンチをくらったスーは、カイを連れたまま弾き飛ばされてしまった。
 
「ぎゃあああぁあぁあ!」
 
スーは飛ばされた勢いで体が縮み、カイを放り出した。カイは木の枝に引っ掛かり、足は宙ぶらりんになった。そんな彼の頭に、ペチャッとスーが落ちた。
 
「耐久性なさすぎだよスーちん!」
 
──と、今度はブーンブーンと嫌な音が聞こえてきた。
 
「今度はなに……?」
 カイが後ろを振り向くと、木々を避けながら無数の蜂が襲い掛かってきた。
「ぎゃああぁああぁあぁッ!」
 カイは慌てて飛び降りた。「スーちん! また俺を包んで!」
 
しかしスーは体からニュッと手を作り、横に振った。「いやいや」の意思表示。
 
「なんでだよぉっ!」
 
カイはスーちんを連れて走り出した。どっちの方角に走ればいいのかわからず、とにかくがむしゃらに走っていると、道の前方に2メートルほどのコウモリのような魔物の姿が見えた。
 
「ぎゃああぁああぁあぁッ!!」
 
カイは叫びながら道から外れ、道のない木々の間を縫うように走ってゆく。生い茂っていて足場が悪く、岩に躓き転倒──。
 
「んぎゃぶんッ?!」
 
バタバタとコウモリの魔物が近づいてくる音。ブーンブーンと蜂の魔物が近づいてくる音が迫ってくる。
 
「……さよなら。俺、勇敢に戦いました」
 
カイが死を覚悟したとき、ズバズバと魔物を斬り裂く音がした。
 
体を起こし、恐る恐る後ろを見遣ると、シドが立っていた。その後ろには山積みにされた蜂の魔物。そのてっぺんには飾りのようにコウモリの魔物が羽を広げてのびている。
 
「シドぉ……愛してるぅ」
「お前、なにが勇敢に戦っただよ」
 と、シドは刀を仕舞う。
 
カイは立ち上がり、服についた土や草を払った。
 
「気持ち的にだよぉ。それに逃げるというのも戦いの選択肢のひとつだよ。逃げるが勝ちって言葉あるだろー?」
「俺ん中にはねーよ。逃げたら負けだ」
「口だけは達者なんだからもぉー」
 
カチンときたシドは黙って刀を抜いた。
 
「冗談だよぉ! それより俺を見つけてくれてありがとねー、せっかくならアールに見つけてもらいたかったけどさぁ」
「別に見つけたくて見つけたわけじゃねーよ。お前俺から目を離すなよ?」
 
そう言ってシドは辺りを見回した。
 
「え、『俺のこと見つめてろ』って、シドそんなに俺のこと……」
「ぶぁーか! また強制転移しかねねぇから目ぇ離すなっつってんだよ!」
「あぁ! オッケー。でもモンスターには転移魔法効かないみたいだねー」
「モンスター?」
「スーちん」
 
カイの服の中からスライムが顔を出した。
 
「まだそいついたのたよ」
「まだって、スーちんは仲間だよ!」
「んなことよりさっき何か聴こえなかったか?」
「え、俺のおなら聴こえてたの?! 恥ずかしい!」
「弦楽器のような音だ」
「俺のおなら弦楽器みたいな音したかなぁ……」
「まぁここからそう遠くなさそうだな」
「おならの匂いが広がった範囲?」
「いくぞ。俺から目ぇ離したらもう知らねぇからな」
「無視? おならのくだり無視?」
 

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©Kamikawa
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