voice of mind - by ルイランノキ


 紅蓮の灯光25…『緊急事態』

 
「アイツら……結構近くにいたんだな」
 と、シドはアパートの4階にいた。
 
窓のカーテンの隙間から外を覗くと、空からルフ鳥の何羽かが狭い路地裏へ入って行くのが見えたのだ。
 
「なにやってんだか……」
 
そう呟き、カーテンを閉め、ベッドへ横になった。助けに行く気は更々ないようだ。
 
「朝まで寝るか……」
 そう言って目を閉じた。
 
その頃ルイは、店内へ入り込んできたルフ鳥に苦戦していた。
割れた窓ガラスから続々と侵入してくる。いずれ戻ってくるかもしれない住人のことを考えると、下手に暴れて店内を荒らすことだけは避けたかった。
ロッドで追い払いながら、隙を見て逃げようとするが、気づけば取り囲まれてしまった。
 
「困りましたね……」
 
息を切らしながらそう呟き、自分を結界で囲んだ。結界の中で膝をつき、息を整える。
グレンデルを結界で囲んだ時に魔力を消耗したせいか、ロッドで追い払い続けただけで疲労を感じた。
シキンチャク袋に手をかけ、回復薬を使おうか悩む。──こんな場所で使うべきだろうか。アールとカイのことも心配だった。後の事を考えて節約すべきかもしれない。
 
ルフ鳥が結界を壊そうとクチバシで突いている中、ルイの携帯電話が鳴った。
開いてみると、アールの名前が表示されてる。ルイは少しホッとした。電話が掛けられる状況なら、心配はいらないだろうと思ったからだ。ルイは電話に出た。
 
「はい。アールさん? 大丈夫でしたか?」
『カイがッ……どうしよう! カイがさらわれた!』
 
 
──それは、5分前のことだった。
 
急降下して襲ってくるルフ鳥を、カイとアールは武器で対応しながら避難出来る建物を探していた。その途中、カイを目掛けて急降下したルフ鳥に、カイは刀を突き立てたが、刀の刃は急所を外してしまった。アールは気づかずに自分を目掛けて下りてくるルフ鳥から身を守ることで精一杯だった。
 
2人がいる場所から通路の出口まで10メートルほど。ルフ鳥はクチバシでカイの左腕を掴むと、ズリズリと後ろ向きに引きずり始めた。
 
「痛い痛い痛いッ!」
 
カイは振り払おうとしたが、体勢も悪く通路も狭く、クチバシの挟む力が強くて振り払えない。
カイはアールに助けを求めたが、彼が助けを求めるのはいつものことだ。アールは見向きもしなかった。
カイはそのまま通路の出口まで引きずられ、大声で叫んだ。
 
「ルイ助けてーッ!」
 
──え? ルイ?
漸くアールはカイに目を向けた。
 
「カイッ!!」
 狭い通路を、小さな体のアールが擦り抜ける。
 
通路の先は広い道に出る。カイが通路から引きずり出される前に、アールはカイの足を掴んだ。
 
「踏ん張って!」
「ど、どう踏ん張れっていうのさぁ!」
 
アールはカイの足を両手で抱え込み、通路側へと引っ張った。綱引きならぬ、カイ引きが始まる。
 
「痛い痛い痛い痛いッ!」
「カイも少しは抵抗しなよッ!」
「振り払えないんだよぉ!」
「反対側の手で目を突いてやればいいでしょ!」
「あ、そうか」
 と、カイは右手に持っていた刀を離し、思いっきりルフ鳥の目にパンチを食らわせた。「おりゃあ!」
 
ルフ鳥は悲鳴を上げる。クチバシが一瞬緩んだ隙をみて、カイは左腕を引き抜いた。
しかし安心したのもつかの間、アールの頭上斜め上から、彼女の背中を目掛けて斜めに急降下してくるルフ鳥がいた。アールが気づいた時には既に彼女の体は宙に浮いていた。急降下してきたルフ鳥に突き上げられ、通路の外へとほうり出されてしまったのだ。
地面にたたき付けられた痛みを感じながら、逃げなきゃ、と気持ちばかりが焦る。
飛び交う魔物の鳴き声がいっそう大きくなった。顔を上げ、向かい側にある一軒家に目を止めた。
 
──逃げなきゃ……逃げなきゃ!
 
バサバサと翼を羽ばたかせる音が空から近づいてくる。アールは痛みに耐えながら体を起こし、一軒家に走り込もうとした。しかしあと一歩というところで、一羽のルフ鳥の足がアールの背中をガシリと掴んだ。
 
「やっ……やだッ!」
 アールの足が宙に浮かび、バタバタと暴れる。
「アールを連れてくなぁッ!」
 背後からカイの叫び声が聞こえたかと思うと、アールの体は地面へと倒れ込んだ。
「カイっ!」
 カイが刀を持って、魔物の足を切り落としたのだ。
 
カイは一軒家のドアを蹴り開けてアールを家の中へと突き飛ばした。カイもすぐに入ろうとしたが、別のルフ鳥に襟首を捕まれてしまった。
 
「カイーッ!!」
 カイの体が浮き上がる。
 
カイは慌ててドアノブに手を掛け、勢いよくドアを閉めた。
アールだけを家の中に残して──
 

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©Kamikawa
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