voice of mind - by ルイランノキ


 紅蓮の灯光24…『餌を求めるルフ鳥』

 
裏口は仕入れた服が入っている段ボールが積まれた倉庫の奥にあった。小さな窓ガラスから外を見ると、隣の家との間が狭く、人ひとり通れる幅の通路がある。室外機がさらに道幅を狭くしている。
ルイは、もし魔物が店の中へ侵入してきた場合、3人一緒に狭い路地を走り抜けるのは困難に思えた。
 
「──なに考えてる?」
 と、アールが心配そうにルイの顔を覗き込んだ。
「え……?」
「難しい顔してたけど」
「なんでもありませんよ」
 ルイは笑顔を作ったが、アールは、嘘だね、と、困った顔をした。
「ルイ、もしかして魔物が入ってきたら、私とカイだけ逃がそうとか思ってる?」
 
ルイは驚いて、苦笑いをした。
 
「鋭いですね」
「やっぱり……。ダメだよ、一緒に逃げないと」
「しかしこの狭さでは、ひとりでも通り抜けるのは大変ですよ」
「……そうだけど」
「お二人が先に出て避難した後、僕もすぐに後を追いますから」
「でも……」
「大丈夫です。店内は狭すぎて魔物は飛ぶことが出来ませんので、捕まったとしても店内から引きずり出さないと連れ去れませんから、その間にどうにか逃げ出します」
「それなら私が残るよ。剣で戦ったほうが逃げられるだろうし」
「アールさん」
 と、ルイはアールの肩に手を置いた。「僕は大丈夫ですから、カイさんをお願いします」
 
アールは納得いかない様子で俯いた。
 
「あ、この服かぁわいーい!」
 と、カイは山積みにされていた段ボールを勝手に開け、ワンピースを取り出した。「アール似合いそぉー!」
「こんな時になにしてんの……脳天気なんだから」
「え? うーん……」
 と、カイはしばし考え、「いいこと思い付いた! 俺天才かも!」
「なぁに?」
 アールは半ば呆れたように訊く。
「たっくさん服を着込めばさぁ、もし捕まっても食べられちゃうまでに時間稼げるかも!」
「確かにそうかもしれません」
 と、ルイが言った。「ルフ鳥は器用に人が着ているものを剥いでから食事を始めるので、いい考えだと思いますよ」
「ほらねぇー!」
 と、カイは自慢げに笑う。「俺チョー天才!」
「そっか。でもこのお店、レディースしか置いてないよね」
「俺スカート履いちゃう!」
「そこはズボンでいいと思うよ。女性用でもLサイズなら入るだろうし」
「え……」
「スカート履きたいの?」
 と、アールは目を細めた。
「履きたいってゆーかさぁ、夢? スカート履いてぇー、風に吹かれてぇー、『キャッ!』とかやってみたくない?」
「よくわかんないけど、着込むなら早くしよう」
 と、アールは段ボールの中から着られそうなものを探した。
 
薄手のTシャツから、厚手のコートまで、季節感が全くない。この世界は突然真冬のような寒さが訪れたりするからだろう。
 
「厚手のロングコート1枚でも十分か」
 と、アールは、黒いコートを包んであったビニール袋を剥がした。
「それだけで大丈夫ぅ?」
「一応防護服着てるんだし、破れにくくて脱がしにくいこのコートで十分だよ。それに着込み過ぎると今度は動きづらくなるしね」
「頭はどうするー?」
「あたま?」
「脳みそ食べられたらおしまいだよ?」
「気持ち悪いこと言わないでよ!」
「本当に頭から食べられちゃうよ?」
「…………」
 
想像すると吐き気がした。
 
「まず、髪の毛を毟られて──」
「わかったもういい聞きたくない。帽子探そう……」
 と、アールはまた段ボールの中を漁る。
「覆面マスクないかなぁ」
「あるわけないじゃん小洒落たお店に……」
「ヘルメットはぁ?」
「ないよ……」
「じゃあ頭食べられちゃうねぇ……」
「やめてってば! ニット帽ならあるかな」
「仮面ならあるかな」
「真面目に探してよ!」
「違う違う、仮面なら持ってるよってこと。仮面ってゆーか、お面。ウサギとパンダとキツネとラクダ」
「お面は……どうなんだろ」
「ラクダは顔が横向きだから目の穴が一個しか開いてないからやめといたほうがいいかもしんない」
「全部やめとく」
「え?」
 
「──アールさん」
 と、ルイが段ボールを運んできた。「こちらに帽子が沢山入っていましたよ」
「あっ! ありがとう!」
「帽子より、頭からマフラーを巻き付けたほうが脱がされにくいかも!」
 と、今回のカイはなかなか冴えている。
「いいかも! じゃあマフラーを……」
 
アールがマフラーを探しはじめたとき、店の入口のガラス窓が割れる音がした。
 
「アールさん! カイさん! 急いで外へッ!」
 ルイは2人に背中を向け、ロッドを構えた。
「頭どうするのさぁ! あのデッカイクチバシで頭突かれたら脳みそ出てきちゃうよぉ!!」
「捕まんなきゃ問題ないッ」
 と、アールはカイの腕を掴み、裏口から外へ出た。「ルイ! 無理しないですぐに来てね!」
「わかりました!」
 
カイを先に行かせ、アールは後を追った。
 
「どこに行けばいいの?!」
 と、カイはパニックになる。
 
頭上ではルフ鳥が飛び交っているが、狭い通路のおかげか降りてくる気配はない。
 
「なんだ……余裕かも。カイ、どこかドアが開いてる建物の中へ」
「でもまた侵入してきたらどうすんのさぁ!」
「そしたらまた逃げる! とにかく外にいたほうが危険なんだか……ら……」
 
気配を感じたアールは空を見上げると、1羽のルフ鳥が翼を畳んで急降下してきた。
 
「伏せて!」
 
アールはカイにそう言って、急降下してきたルフ鳥に剣を突き立てた。剣の刃がルフ鳥の首に突き刺さる。
体長2メートルほどあるのルフ鳥の体重が2人に覆いかぶさった。
 
「おもぉーいっ!」
 と、カイが叫んだ。
 
アールは隙間から這い出し、潰されているカイを引っ張り出した。
 
「カイ急いで! また来る!」
「やっつけてよ!」
 と、横たわっているルフ鳥の上を通り、先を急ぐ。
「無茶言わないでよ! こんな狭いところで戦えるわけないでしょ!」
 
そうこうしていると、また1羽のルフ鳥が大きな体を壁に掠めながら急降下してきた。その度にアールは剣の刃を上に向けて突き刺すしかなかった。腕にルフ鳥の体重がかかるため、負担が大きい。
カイはとある一軒家の裏口を見つけ、ドアノブを回したが鍵が閉まっていた。
 
「もうだめだぁ!」
「しっかりしてよ! ていうかカイも刀抜いて!」
「こんな狭いところで抜けないよ!」
「鞘ごと腰から抜いて逆さまにすりゃあ抜けるでしょうが!」
 狭い通路に、アールが刺し殺したルフ鳥の死骸が積もってゆく。
「アール……口が悪くなったねぇ。シドの悪影響?」
「さっさと刀抜いてよ!」
「……あい」
 カイはモタモタしながら、刀を抜いた。
「自分のとこにきたやつは自分で仕留めて!」
 そう言いながらアールは、自分が仕留めたルフ鳥が邪魔になってルイが通れないのではないかと不安になった。
 

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©Kamikawa
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