voice of mind - by ルイランノキ


 紅蓮の灯光15…『話し合い?』◆

 
「ルイぃ、早くアールに俺たちの存在気づかせてよぉ。俺寂しいよぉそばにいるのに気づいてもらえないなんてぇ」
 
カイはルイの裾を引っ張りながらそう言った。
 
「謎の男が使った魔法、一瞬しか見えませんでしたが、浮かび上がった魔法円に書かれていた文字からなにか手掛かりはないかと考えてはいるのですが……」
「なにか読み取ったのぉ?」
「ものを消す魔法の一種である言葉が見えた気がするのですが、魔法は無限にありますからね……。彼が自分の姿をも消し去る魔法が使えるのであれば、シドさんがおっしゃる通り、どこかで僕らを監視している可能性は高い」
「消した姿を見る方法はないの?」
「それを今考えているところです。僕たちのように体に触れることさえ出来ないのであれば難しいかと。ただ姿を消すだけならば足跡はつくはずですしね」
「なんか面倒くさぁい……」
 と、カイは頭を掻きむしった。
「今のところ、攻撃を加えてくる気はなさそうですね」
 
カイは考えるのをやめた。面倒になったからだ。考えるのはルイに任せたほうがよさそうだ。
アールの後ろ姿を眺めていると、カイの服の中にいたスライムがもぞもぞと顔を出した。
 
「わぁ?! なんだよぉ、そんなとこにいたのー?」
 
カイも知らない間に潜りこんでいたようだ。スライムはカイの頭の上にのぼると、背伸びをするように体を伸ばした。そして、体の一部を伸ばして手を作ると、ルイの後ろを指さした。
ふたりは背後を見遣ったが、なにもない。
 

 
「……そこに、いるのですか?」
 と、ルイはロッドを構えた。
 
シドはアールが魔物を仕留めたのを確認してからルイが見遣る方角に刀を向けた。
 
「モンスターの目は欺けない……か」
 
突然、男の声がした。そして、誰もいなかったその場所に、ぼんやりと男が姿を現した。
 
「髭面の男ッ! テメェ俺たちになにしやがった!」
 シドが声を荒げると、男は不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。
「知っているか? 人間の目と魔物の目は、ものの見え方が違う。魔物の種類によっても異なるようだが。スライムの目に私はどう映っていたのだろうな……興味深い」
「質問に答えろ!」
「シドさん」
 ルイはアールに目を向け、言った。「男が姿を現したというのに、アールさんには見えていないようです……」
 
アールは魔物と戦っていた。ルイ達を気にも止めない。
 
「俺達にしか見えてねぇのか……ん? 女は俺達も見えねんだよな……で、この男も見えてねぇんだよな。けど俺達には……あ? ややこしいなクソめんどくせぇ」
 シドも考えるのをやめた。
「共に消えた者同士にしか見えぬ。なかなかおもしろい魔法だろう? かくれんぼをして負けたことはない」
「そりゃそうだろうよ。つかいい年してかくれんぼとかしてんなよ……」
「あなたは一体、なにが目的でこんなことを……?」
 と、ルイが訊く。
「私は依頼を受けてここにいる」
「依頼?」
「お前達には興味が沸かんが、あの女……アールといったか。彼女を殺せという依頼をな」
 
ルイたちは顔を見合わせた。
 
「貴方は何者ですか?」
 ルイは注意深く男を観察しながら、そう訊いた。
「さぁな。──殺しの依頼を受けたが、私は殺しが嫌いでね。自ら命を落としてくれるのを待っている。いい暇潰しだ」
「そうはさせません」
 と、ルイはロッドを構えた。
「無駄だ。私に攻撃は効かん」
「試してみねぇとわかんねぇだろーが!」
 シドは刀を振り下ろした。
 
男は微動だにしなかった。刀は男の体を通り抜け、空を斬った。
 
「言っただろう。私に攻撃は効かんとな」
「……なぜアールさんの命を狙うのです?」
「詳しいことは知らん。興味もないからな。私は報酬を得たいだけだ。これまでは強力なアーム玉を集めることが主な仕事だったが、上の連中はあの女を抹殺したくてしょうがないようだ。報酬は桁違いだ。お前達の方が、知っているのではないか? 彼女が狙われる理由を」
   
──選ばれし者、グロリア。
唯一、シュバルツを倒せる力を持つ者。そのことを知っていて抹殺を企てているのだとすれば、連中はシュバルツの崇拝者だろう。
 
「貴方は報酬が欲しいけれど、殺しは嫌い。ですが、人を精神的に死に追いやるのは簡単なことではありません。貴方がのんびりとしている間に、他の誰かが彼女の命を狙うかもしれない。それなのに貴方はのんびりと彼女が自ら死ぬときを待とうとしていると? 他になにか理由があるように思えてなりません」
 
動揺を抑え、ルイは訝しんだ。
すぐに殺そうとしないのはなぜか。他に理由があるのではないだろうか。なければそれでもいい。時間稼ぎが出来れば、この悪状況から抜け出す手だてが見つかるかもしれない。
 
「私が殺しを嫌いとする理由がわかるか?」
 と、男は鼻で笑うように言い、こう続けた。
「殺そうと思えば“簡単”に殺せるからだよ。現に君達は私に手出し出来ず、あの女を守れずにいる。姿も気配も自由に消せる私はいつでも人を殺せるんだよ。つまらないじゃないか。だから、嫌いなんだよ」
 殺しはもう飽きたんだ、と言わんばかりにため息をこぼした男。
「とにかく……正々堂々と戦え!」
 と、シドは血相を変えた。
「頼まれなくても暇つぶしが面倒になったらすぐにでも彼女の前に姿を見せて殺してやるさ。手出し出来ない君たちの前でね。それもまたこの力の醍醐味だ」
 
男とシドの睨み合いが続く中、ルイは頭をフル回転させていた。物理攻撃が効かない今、一刻も早く解決策を考え出さなければ。
 
「ねぇねぇ……アール行っちゃうよぉ?」
 カイはアールが戦闘を終えて歩いて行く背中を指さしながら言った。
「うるせぇな今それどころじゃねーだろうが! 心配ならお前ついて行けよっ。今の状態じゃお前も魔物に攻撃されることも喰われることもねぇんだから」
「うぅーっ、わかったよ……行ってくるっ」
 と、カイはアールを追い掛けた。
「つまらない戦いも嫌いなんだかな」
 と、男はけだるそうに言った。
「いいから武器構えろッ! テメェが負けたら元に戻してもらうからなッ」
「武器など持っておらん。消したいものを消す。それが私の武器であり、やり方だ」
「うそつけボケ! さっき面倒になったらすぐに殺すって言ったろーが!」
「シドさん、落ち着いてください」
 と、ルイはシドの肩に手を置いて宥めた。「物理攻撃はダメでも、魔法攻撃なら効くはずです」
 
そう言って結界を発動した。たちまち男は結界の壁に囲まれ、身動きがとれなくなった。
 
「大概、物理攻撃が効かない場合は魔法攻撃が効くのですよ」
「じゃあさっさと懲らしめろよ」
「僕も、人との争いはあまり好きではありません。アールさんに危害を加えたわけではありませんし、手荒な真似はしたくありません。ですから僕は僕なりのやり方で」
 そう言ってロッドを胸の前で構え、呪文を唱えた。
 
男はその呪文を聞き、ため息をついた。
呪文を言い終えたルイは男にロッドを向けた。ロッドにはめ込まれた石が光を放ち、男を包み込んだ。男の姿がより鮮明に見えるようになった。
 
「なにしたんだ?」
 と、シドが訊く。
「この男性が自分にかけた魔法を解除しました。これでアールさんにも彼の姿が見えるはず……」
 と、振り返ると、カイとアールはすっかり50メートル先まで歩いていた。
「とにかく、結界の中では再びご自身に魔法を掛けるのは不可能ですよ」
「んじゃ、その魔法で俺らにかけられた魔法を解きゃいいじゃねーか」
 と、シドは言った。
「残念ですが、自分自身にかける魔法と、人にかける魔法は根本的に違うのですよ。僕が使えるのは、敵が敵自身にかけた魔法を解除することだけです」
「使えねぇ奴だな……」
「制御されていなければ、自分たちにかけられた魔法を解除することも可能だと思います」
 と、ルイは手首のバングルを見た。
 
「……まぁいい。とにかくどうにかこいつをとっちめようぜ」
 シドはそう言って男を刀で差した。
「いえ、ここは話し合いとしましょう」
「はぁ?! 話し合いで通じる相手だと思ってんのか?! お前バカだろッ!」
「とにかくここは僕に任せて、シドさんはアールさんを追ってください」
「話し合いとか生温いこと言ってるテメェに任せられるかっつんだよ!」
「いざとなったらとっちめますから」
「絶対だな? 絶対とっちめろ!」
「はい。とっちめます」
「……おし。任せたぞ」
 
腑に落ちない様子で、シドはルイを気にかけながらもアールを追って行った。
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -