voice of mind - by ルイランノキ


 離合集散18…『ポジティブ』

 
『ただいま、電話に出ることが出来ません。ピーッという合図が鳴りましたら、20秒以内にご用件をお話しください』
 
   ピーーーーッ
 
「もしもし、ルイ? 私だけど……」
 
アールは携帯電話を両手で持ち、耳に当てながらメッセージを吹き込んでいる。
 
「忙しいかな……まだ夕方だし……」
 緊張のあまり、どうでもいいことを話してしまう。落ち着かせるように深呼吸をし、言った。
「電話に出れなくてごめんね……。私は大丈夫だから、心配しないで……」
 
   ピーーーーッ
 
『メッセージを録音しました』
 
アールは電話を切り、テーブルに置いた。たかが留守番電話に、異常なまでに緊張した。
それから一人、部屋を出て食堂へ向かった。
 
━━━━━━━━━━━
 
「ふざけんな! なんで早々休むんだよ!」
 と、休息所に着いたシドが言う。
「気候を調べたいのですよ」
 と、ルイがテントを広げると、カイはそそくさと潜り込んだ。
「女のせーでロスした時間を取り戻してーんだよ俺は!」
「明日天気が良ければ早めに出発しましょう」
 そう言いながら、キツネのお面を外すルイ。
「天気悪かったらどーすんだよッ!」
 シドはまだウサギのお面を付けているせいで、いくら怒鳴っても迫力がない。
「様子をみましょう。無理はいけませんよ」
「ふざけんなッ!」
「そうですね、天候が良くなってシドさんのウサギ姿を見れなくなるのは寂しいですが」
「──ッ?!」
 
シドがイラッとしたその時、テントからカメラを持ったカイが顔を出して、シャッターを切った。
 
「……おいテメェ」
「俺もシドウサギ見れなくなるのは寂しいから写真に収めることにした」
 
そう言いながらニヤニヤと頬を緩ませるカイに、シドは声を荒げてテントに逃げ込んだカイを追い掛けて行った。
 
「さて……と」
 ルイはテント内から聞こえる二人の言い争いをよそに、ポケットから携帯電話を取り出した。
 
【着信 1件 メッセージ 1件】
 
誰からだろうと着信履歴を見ると、アールの名前があった。ルイは逸る思いでメッセージを聞いた。
沈黙が多く、心配しないでと言ったアールの声は、物悲しそうだった。
 
ルイは携帯電話を手にしたまま、暫く考え込んだ。着信があったのは10分ほど前だ。今すぐにかけなおせば電話に出てくれるかもしれない。だけど、心配しないでと言っていたのだから、電話は必要としていないのかもしれない。
 
「あーーーっ!」
 と、カイの歓喜に満ちた声がテントから響いた。
 
ルイはひとまず携帯電話を仕舞うと、テント内へと入った。
 
「どうしました?」
 
シドはいじけたように床に寝転がり、腕を組んで目を閉じている。
カイの手には携帯電話が握られていた。
 
「繋がった! アールに繋がったよ!」
「電話に出たのですか?」
「ううん、まだ。でも呼び出し音がなってる。出ないなぁ……」
「嫌われてんだろ。おめでとー」
 と、シドはカイに目を向けずに笑った。
「嫌われてんのはシドだろぉ?!」
「カイさん、もしアールさんが出たら、なにを話すおつもりですか?」
「え? そりゃ決まってんじゃん! 会いたいから早く戻ってきてーって」
「バーーカ」
 と、シドが言った。
「なんとでも言ってよ!」
「カイさん、アールさんを急かすのはやめましょうね……」
「え、なんで?」
 カイは首を傾げる。
「お前の脳みそはノミ以下だな」
「ひどいっ!」
 
そうこうしてる間も、呼び出し音は鳴り続けている。
 
「出ないなぁ……」
「手元にないのかもしれませんね」
「そっかぁ……」
 
ルイはテントの中央に座卓を出した。データッタを見遣り、明日の気象を調べる。
 
「あ、いいこと考えた!」
 と、カイは携帯電話を閉じた。
「お前のいいことって大概くだらねーことだろ」
「シドがアールに電話すればいいんだよ!」
 その言葉に、そっぽ向いていたシドが上半身を起こしてカイを見やった。
「はぁ? なんで俺がッ!」
 
ルイも同じく疑問に思い、カイに目を向けた。
 
「だからだよ。まさかシドから掛かってくるとは思わないじゃーん? びっくりして電話に出るよ。それかかけ直してくる! そこですかさず俺が出る!」
「俺をダシに使うなッ」
 と、シドはカイに背中を向けて横になった。
「えー、電話してくんないのぉ?」
「なんで俺が。なんの利益もねぇのに」
「俺の心のこもった『ありがとう』が聞けるよ」
「いらね」
「一生に一度の最強笑顔付き」
「いらねーよ」
「んまぁー贅沢!」
「どこがだよっ」
「あの……カイさん」
 と、ルイが言う。
「あ、ルイでもいいかもねぇ。電話すんの」
「僕は何度か電話しましたよ」
「そうなの? やっぱルイからの電話にも出ないのかぁ」
「…………」
「え? なにその沈黙」
 カイは訝しんだ。
「留守電にメッセージがありました」
「えぇッ?! なぜそれを早く言わない?!」
 と、驚くあまり、普段と口調が変わるカイ。
「今さっき気づいたので。心配はいらないそうです」
「なにそれショッキング。沢山電話してる俺にじゃなくルイにメッセージ? あっ、照れてるのかぁ!」
「すんげーポジティブだな……」
 と、シドは呆れた。
「他に考えられないじゃん!」
「お前は無神経だしうるせぇからだろ」
「そんな馬鹿なことあるかぁーい!」
 と、カイはひとり大笑いした。
 

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©Kamikawa
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