voice of mind - by ルイランノキ


 離合集散17…『聞こえない』

 
次の目的地へと向かう一行は、なかなか前へ進めずにいた。
砂煙りが舞い、木々がミシミシと今にも折れそうな音を出す。耐え切れずに枝から吹き飛ばされた葉が砂煙りにまじって襲い掛かってくる。激しく吹き荒れる暴風。
 
「くっそ……息すらまともにできねぇ!」
 シドは両腕で顔を覆いながらそう言った。
「やはりどこかで待機すべきだったのでは?!」
 と、ルイも顔を覆いながら言う。
 
その背中に身を隠すカイは、マスクを装着している。といっても、お祭りなどで売られているキャラクター(パンダ)のお面である。
 
「あ"ー? 聞こえねーなぁ!」
「ですからっ……村で待機をッ!」
「ぜぇーんぜん聞こえねぇーッ!」
「風音が……うるさくてシドさんに聞こえない……」
「聞こえてるよ絶対」
 と、カイが言う。
「おいカイ! マスクあんなら貸せッ!」
「ウサギのお面ならあるけどーッ?!」
「……なんでもいいから貸せッ!」
 と、シドは少し躊躇してからそう答えた。
 
カイの“ガラクタ”も時に役に立つ。
シドはウサギを、ルイはキツネのお面を身につけた。鼻の部分には小さな穴がいくつか空いていて少なからず息はしやすくなったが、目の部分は大きめの穴が開けられ、砂が入る。
 
「よし。次サングラス貸せ」
 と、カイに手を差し出す。
「サングラスなんかないよぉ」
「よし……じゃあルイ、ラップ出せ」
「……本気ですか?」
「なにがだよ」
「ものすごく、おかしなことになりますよ」
「いいか? よく聞け。俺は草食動物であるウサギのお面を身につけた時点で屈辱を味わい苛立ってんだよ。けど今はこんなお面ごときにイラついてる場合じゃねぇ。ウサギにラップがプラスされようが、変わんねーよ」
「よくわかりませんが……ラップですね」
 と、ルイはシキンチャク袋からラップを取り出した。
「よし。ピンッと張って目の部分に巻け」
「よろしいんですね……?」
「はやくやれ」
「はい……」
 と、ルイは渋々シドのお面にラップを貼った。
「……視界が悪いが目が開けらんねぇよりはいいな」
「俺も巻いてー!」
 と、カイが言う。
「では……あとで僕にもお願いします」
 
一行は動物のお面とラップを装備し、砂嵐の中を歩き進めた。
さすがに砂が舞う暴風の中では魔物も大人しくしているようで、なかなか姿を現さないが、中には平然と襲ってくる魔物もいる。
 
「うわぁッ?!」
 と、シドは後ずさり、すぐに刀を構えた。「魔物だ! 下がってろ!」
 
ルイは急いでカイを結界で守った。
砂煙りのせいで視界が悪く、暴風のせいで魔物が近くにいてもすぐには気づけなかった。
その魔物は二本脚で立ち、2メートルほどはある。緑色の鱗のような固い皮膚に、トカゲと恐竜を合わせたような顔をしている。
突如シドの目の前に姿を現したと思えば、余程腹が減っているのか、ところかまわず左腕を振り下ろし、鈎爪で獲物の皮膚をえぐろうとした。しかしシドが刀で交わし、魔物から距離をとった。
 
──視界が悪すぎる……。
 
よかれと思って巻いたラップのせいで、目に膜が張ったかのようにもやもやする。
手当たり次第刀を振えば自分が怪我をしかねない。
 
「シドさん! 僕が結界を張ります!」
 と、ルイが叫んだ。
「頼む!」
 シドは珍しく、悩む間もなくルイを頼った。
 
向かい風の暴風では刀も重くなる。不利な条件がこれほど揃うことはない。
ルイはシドと魔物を囲むように、大きな結界を張った。結界の中は密閉された空間が出来、風がなくなった。舞っていた砂がゆっくりと地面に落ち、見えづらかった魔物の姿があらわになる。
 
「俺の勝ちだな」
 
シドはニッと笑い、魔物が振り下ろしてきた腕をさけながら結界の壁を蹴り上げ、頭上から魔物の頭を斬り落とした。
魔物は声を上げることなく倒れ、地面に青い血が広がった。
 
「シドかっちょいーっ!」
 と、目を細めながらシドを見ていたカイが言う。
 
ルイは結界を外しながら、この場にアールがいなくてよかったと思った。──自分は見慣れている光景ではあるが、首を斬り落とすなど彼女からしてみれば残酷に映るだろう。
 
「急いで休息所へ行きましょう!」
「はぁ?! まだ夕方だろーが!」
「朝から夕方までこの気候の中進んでこれただけでも十分ですよ!」
「あ"?! きっこえねぇなぁ!」
「……ですからっ! もう十分ですって! 一端非難して明日の天気を調べましょう!」
「……いや、ルイ」
 と、カイがルイの袖を掴んだ。「絶対聞こえてるって」
「あ"ー?! 聞こえねぇー! 全然聞こえねー?!」
「……シドさん、ウサギお似合いですよ」
「あ"?! テメェなぶり殺す!」
「──ね? 聞こえてるでしょ」
「はい……」
 

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©Kamikawa
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