voice of mind - by ルイランノキ


 シャットダウン53…『三人の旅』

 
──アールがいなくなって、3日が過ぎていた。
 
降り続けていた雪は、いつの間にか止み、顔を出した陽の光が積もった雪を溶かした。木陰の雪だけはまだ残ってキラキラと光を反射させている。
 
アールがいたころとは明らかに会話が減っている。カイはつまらなそうにただただ歩みを進めていた。
 
「もうすぐ花美の森に入りますよ」
 と、心なしか、元気のない声でルイが言った。
 
カイもシドも、返事はしなかった。
行く手に魔物の姿が見えると、シドは真っ先に刀を抜いて走り出す。カイは黙ってルイの背中に身を隠すのだった。
 
「……アール、なにしてるかなぁ」
 と、カイは呟く。
「連絡が来ませんね……」
 ルイは戦闘中のシドを目で追いながら答えた。
「俺、何回もアールに電話したんだ。そしたら昨日の夜、呼び出し音もならなくなった」
「……どういうことです?」
「携帯電話の電源、切ったみたい」
「…………」
 シドが魔物を仕留め、再び歩きだす。
「電池が無くなったのかもしれませんよ」
 そう言ったものの、それは有り得ないことだった。
 
充電シールを貼っているため、余程長電話でもしていない限り、まだ切れるはずがないのだ。
 
たったひとりいなくなっただけで、物悲しさを感じる。3人で旅路を行くのは2度目だ。今とは違う、別のルートで目的地を目指していた。
 
 
それは、丈瑠が召喚される、もっと前の話。
 
「ねぇねぇ、ルーって呼んでいいー?」
 人懐っこくそう訊いたのは、ルイとまだ顔を合わせたばかりのカイだった。
「ルーですか? 出来れば普通に呼んでいただきたいのですが……」
 と、ルイは答える。
「えー、せっかく仲間になるんだからさぁ、ニックネームで呼び合おうよぉ。──ねぇ、シドっち!」
「はぁ? てめぇ今までシドっちなんて呼んでなかっただろーが!」
「心機一転ってやつだよぉ」
「気持ちわりぃからやめろ。ルイはルイでテメェはバカでいいだろーが」
「シドさん……口が悪いですね。お二人は古くからの付き合いなのですか?」
「俺とシドはねぇ、親友なんだ!」
「親友になった覚えはねぇーよ!」
 と、シドは怒鳴ると足速に歩き出した。
 
──ゼフィル城から南ルートを出発して数キロ地点。
 
「怖い方ですね……」
 と、ルイは呟く。
「シドは怖くないよぉ? 優しいとこあるし!」
「そうですか」
 と、ルイはホッと笑顔を見せた。「カイさんがそうおっしゃるなら心配はいりませんね」
「あ、信じてくれんのぉ?」
「えぇ。シドさんのことはよくご存じのようですし」
「シドのことなんでも訊いて! 俺が答える!」
「ありがとうございます」
 と、ルイは微笑んだ。
 
地図を広げ、目的地までの道を確認する。南ルートからが一番最短距離だが、事情があってあくまでも下見だった。
 
「この道ってさぁ、また通るんだよねぇ。今度は選ばれし者と!」
 と、カイが言う。
「この道が目的地まで続いてりゃな」
 と、シドが言った。
「それさぁ、俺話し聞いてなかったからよくわからないんだけど。道なくなってんのー?」
「半年前に大震災がありましたよね、崖沿いの道なので崖崩れがあって道が閉ざされている可能性があるのですよ」
「崖越えていけばー? 面倒くさいけど」
「“声涙の崖”をご存知ないのですか?」
「なにそれー知らない!」
「声涙の崖の上に生息しているワタリガラスという魔物がいるのです。本来は崖の上から下りてくることはありませんが、その崖が崩れたとなると危険です」
「今までは下りてこねーから野放しにされてたんだろ。まぁ俺の力がありゃ簡単に追い払えるけどな」
「……シドさん、モーメルお婆さんの所で魔力を授かりましたよね」
「だからなんだよ」
「まだ使いこなせていないのでは?」
「魔力なんか使わねーでも楽勝だって」
「魔力を授かった者は使い熟せるまで元の力も半減されますよね」
「えぇー?!」
 と、カイが叫んだ。「そうなのぉ? シド弱っちくなったの?!」
「なるかよッ! ──見てろ。今ぶっ倒してやっから」
 シドは辺りを見渡しながら魔物をさがした。
 
標的となる魔物を見つけ、刀を抜くと斬りかかって行ったが、予想以上に時間がかかってしまい、シドは体力の消耗を感じた。
 
「シドさん、やはりまだ……」
「うっせぇ……すぐ慣れる……」
 シドは息を切らしながらそう言った。
「今なら俺のほうが強いかも……」
 と、呟いたカイを、シドは睨みつけた。
 
声涙の崖が見えてきた所で、ルイが先頭を歩くシドを呼び止めた。
 
「シドさんッ! これ以上先へ進むのは危険です!」
「はー?」
 と、シドは不満げに振り返った。
「なんでー?」
 と、カイは首を傾げる。
「強い魔力を感じます。やはりワタリガラスが崖下にいるようです」
「へぇ、さすが魔導師だな。けど俺はこの目で確かめねーと信じね……?!」
 シドは行く手に目を向けた。「なんだ? 魔物の気配がしたと思ったんだが……」
「全身が痺れたようにピリピリしてきませんか?」
「……言われてみりゃ少しな」
「それがワタリガラスの魔力ですよ。僕は強く感じます」
「これが……?」
「なになに? 俺なにも感じないよぉ」
 と、カイは膨れっ面で言った。
「カイさんは魔導師ではありませんし、魔力を授かってもいませんから」
「なにそれぇ……俺だけ仲間外れ……」
「魔力を手にいれると人の魔力を感じ取れるようになんのか……」
 シドはそう言ってピリピリと感じる両手を見やる。
「人によっては魔力を消すことも可能ですから、必ずしも魔力を持った人間を見極められるわけではありません。それに比べて魔物は分かりやすいですね」
「魔導師のお前と俺とじゃ感じ方は違うのか?」
「えぇ、僕のほうが強く感じ取れると思います」
「なるほどな。姿は見えねぇが、ヤな感じがすんぜ。引き返すのは性に合わねぇが……今の俺じゃ無理だな」
「……南ルートは却下ですね。次に最短距離は東北です」
「ねー、まさかとは思うけど歩いて城に戻ってから東北方面に行くんじゃないよねぇ……」
 と、カイは嫌々言う。
「乗り物はありませんよ」
「ルイ、確かワート魔法使えるよねぇ」
「……ご存知でしたか」
「調べたもんルイのことぉ。ワート魔法ってゲートボックスみたいにヒョヒョーイっとワープ出来るんでしょー?」
「ワート魔法を使うにはもうひとりワート魔法を使える方が必要ですよ」
「えーっ、便利なようで不便じゃーん」
「城に同じ魔法を使える方がいますが……」
「あ、じゃあ頼もうよ!」
「歩いて帰りましょう。僕はお二人と違って歩き慣れていないため、体を慣らしておく必要がありますから。すみません」
「……じゃあルイだけ歩けばいいじゃん」
 と、カイは口を尖らせ呟いた。
「わりぃが俺も歩いて戻るぞ」
 と、シドは刀を振りながら言った。「弱っちまった腕を戻す為に雑魚を倒しながらな」
「シドまでもぉ……」
 カイはガックシと肩を落とした。
 

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©Kamikawa
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