voice of mind - by ルイランノキ


 見知らぬ世界14…『大切な人』

 
用意してもらった服を着て、武器を身につけた。武器は初めてこの世界に来た日に手渡された剣だ。一見重そうに見えるが、中が空洞になっているのではないかと思えるほど軽かった。そして服は、いくら防護に優れているとはいえ、生身の人間である以上、不安は消えない。
 
「すみません、少しだけ一人にしてもらってもいいですか……?」
 と、アールはリアに言った。
「えぇ……。あまり時間がないので、準備が出来次第、お声を掛けてください。部屋の前にいますから」
 
アールはリアが部屋を出てから、シキンチャク袋の中身を取り出して確認をはじめた。
リアが言っていた通り、アールがこの世界に持ってきた荷物が全て入っていた。化粧ポーチに入れていたゴムを取り出すと長い髪を一つに束ねた。他にも沢山、旅に必要なものが入っている。
 
「あ……ケータイ……」
 携帯電話が目に入り、ドキリとした。
 
当たり前にいつも欠かさず持ち歩いていたもの。思い出が沢山詰まっているもの。
アールは両親と、姉と、ペットの猫、そして恋人の雪斗と、一番仲の良い親友、久美のことを思い返した。
 
──みんな、私に今、何が起きてるかなんて知らないんだろうね……。こっちでは二日過ぎたけど、私の世界では時間が殆ど止まってるんだって。でももし、この状況をみんなが知ったら、みんなはどう思うかな。無事に帰ってきてって、思ってくれるかな。心配してくれるかな。待っててくれると信じたい。みんなが待っていてくれていると思えば頑張れそうな気がするから……。
 
お母さんはなんて言うかな。心配性だから、言葉を失って、ただ泣いてくれるかもしれない……。お父さんは楽観的だから、「まぁ大丈夫だろ」と言いつつも少しは心配して半笑いで言うかな。お姉ちゃんは「なにそれアンタには無理無理」とか言いながらも、心配してくれてたらいいな……。猫のチイは無邪気に遊び回りながらも、時々私を思い出してくれたらいい。親友の久美は……泣いてくれそうな気がする「死なないで」って、「帰ってきて」って言ってくれそうな気がするよ……。
  
雪斗は……
 
私ずっと不安だったんだ。いつか君が他の女の子を好きになって、私の前からいなくなるんじゃないかって。
それなのに、いなくなったのは私の方だった。
でも、こっちの世界でどれだけ過ごせば帰ることが出来るのかは分からないけど、必ず帰るから。絶対に生きて帰るから。
みんなの声や、顔や、温もりや、過ごした日々を思い出しては力に変えて頑張るから。
 
どれだけの月日が流れても、思い出して頑張るから……。
 
待っててね。
 

──何度も思い出した。
 
忘れるわけない。
忘れるわけがない。
 
忘れたくない……
 
忘れたくなんかなかった。


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©Kamikawa
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