voice of mind - by ルイランノキ


 シャットダウン4…『落ち着き』

 
「もしもし、ルイです。──はい、大丈夫です。すみません、色々と心配をかけてしまって……」
 と、ルイはテントの中で、モーメルに電話をしていた。
『ほんとだよ……。無事だったからよかったものの、ミシェルに聞いたときは驚いたよ。アールの様子はどうだい?』
「大丈夫そうですよ、いつもと変わりは……」
 
いつもと変わりはない。あれほどのことがあったのに、いつもと変わりはないというより、寧ろいつもより冷静なアールに違和感を覚えた。
 
『どうしたんだい?』
「いえ……大丈夫そうです。外で雪だるまを作っていました」
『随分と落ち着いているようだね』
 モーメルも、ルイと同じくアールの行動に疑問を感じた。
「やはり……少し様子がおかしいのでしょうか」
『そうだね、これまでのアールを見ていたら、心の状態に波がある。今落ち着いているのなら……大津波の前触れかもしれないよ。気をつけておきな』
「はい……」
『必要な物はログ街で買えたのかい?』
「いえ……時間がありませんでした」
『仕方ないね。こっちで用意しておいてあげるよ。ただ、金はきちんと払ってもらうよ? 何がいるんだい』
「助かります。アールさん用の厚手のコートと手袋をお願いします。食材は……次の街までは大丈夫だと思います」
『用意が出来たら使いに行かせるから、それまではどうにか乗り切りな』
「わかりました。よろしくお願いします」
 
ルイが電話を終えたとき、ちょうどアールがテントへ戻ってきた。寒そうに身を屈めながらそそくさと歯ブラシを仕舞う。シドがストレッチをしているのを見て、アールも寒さで強張った体をほぐしはじめた。
ルイは腕に嵌めているデータッタを見遣った。シュバルツの現状とアーム玉が近くにないかを調べる。
 
「ねぇルイ……」
 アールは少し気まずそうに、ルイの背中に声をかけた。
 ルイは手を止め、振り返る。
「はい?」
「なんか……ごめんね。ログ街で仕事見つけて、認めてくれたのに結局心配かけただけでただ働きになってお給料貰えなかったし、私のせいであんな騒ぎが起きてVRCで鍛える時間もなくなってしまって……」
「アールさんのせいではありませんよ」
「テリーさんのこと、話せなかったのは脅されていたからなんだけど、私一人でどうにかしようなんて、浅はかだった」
 
ルイは自分を責めるアールを慰めようとしたが、シドが話に割って入った。
 
「旅を効率よく続けるためには街で過ごす時間は貴重だってのに、テメーのせいで無駄足になったな」
「……ごめん」
 アールは肩を落とした。
 
歯磨きを終えたカイがテントへ戻ってきて、畳んであった布団の中にモゾモゾと入り込んだ。
 
「アールさんが謝るのでしたら僕にも責任があります。僕がもっと警戒していれば事態を防ぐことが出来たのかもしれない……」
 ルイは、自分の不行き届きを詫びたが、アールは首を振ってまた謝罪した。
 
──死体を運んだ。命を狙われた。信じていた人の裏切り。自分のせいでテリーを殺めてしまったワオン。出会った少女の死。自分一人では結局解決出来ず、仲間に迷惑をかけた。
 
全て 自分の責任。
 
それなのに、感じるのは申し訳ないという気持ちだけ。謝って、少し楽になった。その程度だった。謝れば済むことだとは思えないのに、重く感じていない自分に、アールは違和感を覚えた。けれど、無理に悲しむのもおかしくて、コントロール出来なくなった自分から目をそらした。そして、空気を読んだ。
 
「気持ちを……切り替えて行きましょう」
 そう言ったルイの言葉に、アールは重々しくうなづいた。──無意識に、辛そうな演技をしたのだ。
 
様々な出来事が自分を破壊していく地震となり、いずれ津波が押し寄せる。
予知しても、被害を抑える手立てを知らない。
 
──冷然。
妙に静かな時間が前触れを知らせる。
 
「そろそろ出発しましょう」
 
立ち上がったアールの身体は、思った以上に軽かった。調子の良い朝。
 
最後の引き金を引くのは、誰だろう。
 

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