voice of mind - by ルイランノキ


 シャットダウン3…『だるまさん』 ◆

 
食事を終え、カイは面倒くさそうに布団を畳み、アールはシキンチャク袋から洗顔セットを取り出している。
ルイは外に出て食器を洗いはじめ、その横でシドは歯を磨いていた。
 
「シドさん、そろそろコートを着てください。風邪ひきますよ」
「うっせぇなお前は俺のなんなんだよっ……寒くなったら着るっての」
「寒くなってからでは遅いのですよ」
「うっせーなぁ。うっせー奴ばっかだな」
「僕たちですか?」
「他に誰のこと言うんだよ。お前はああしろこうしろうるせーし、カイはガキみてぇにうるせーし、女も何かとうるせーし」
 と、そこにアールがやってきた。
「シドもうるさいよ」
 そう言ってコップに水筒の水を入れた。
 シドはムッとしたが無言で歯を磨く。
「あ、歯磨き粉貸して」
 と、アールはシドに言うと、テーブルに置いてあった歯磨き粉を手に取った。
「テメーのはどうしたんだよっ」
「持ってくるの忘れちゃった」
「すぐそこなんだから取りに行けよっ」
「借りたほうが早いから」
 そう言って歯磨き粉を歯ブラシにつけ、口に入れた。
「うっ……シドの歯磨き粉超からい」
 
アールは歯を磨きながら、食器を洗っているルイに目を向けた。ビニールの手袋をしている。
 
「ルイ、冷たくないの?」
「手袋をしているので大丈夫ですよ」
「そっか。でも寒いと……あれだね」
「そうですね」
「……あれってなんだよ」
 と、思わずシドが言う。「そういやルイ、お前レンタルした自転車どーした? 放置か?」
「いえ。マルックさんに頼みました。代わりに返却してもらえないかと」
「いつの間に頼んだんだよ……」
「シドさんはバイクを壊されていましたよね。弁償代も、足らないかもしれませんがマルックさんに渡しておきました」
「だからいつの間に……」
 と、シドはテーブルに置いていたコップで口を濯いだ。
「あれ? アールさんは?」
 ルイは周囲を見回した。さっきまでいたアールの姿がない。
「テントに戻ったんだろ」
「でも……コップを置いたままですよ?」
 
テーブルには水を入れたアールのコップも置かれていた。
ちょうど食器を洗い終えたルイは、テントを覗いた。畳んだ布団の上でカイが眠っている。アールの姿はない。不安な面持ちでまた周囲を見回すと、歯磨きを終えたシドがルイの肩をポンと叩いた。
 
「裏にいたぞ」
「裏?」
 シドはテント内へ戻り、ルイはテントの裏を覗き込んだ。
 
アールは口に歯ブラシをくわえたまま、腰を下ろして何かをしている。
 
「アールさん?」
 声を掛けて近づくと、アールの足元には作りかけの雪だるまが立っていた。
「雪だるま作っておかないと」
「かわいいですね」
 微笑みながら、アールの横にしゃがむルイ。
「ちゃんとした雪だるまを作ったことがなくて。こんな機会滅多にないから」
 
拾った小石で目を作った。枝をさして腕も作る。
 
「カイさんは雪だるまを作るのがお上手ですよ。残念ながらまた寝ていましたが」
「カイは器用なんだね、ルイは雪だるま作ったことある?」
「えぇ、僕は雪に塩を混ぜて表面に艶が出来るまで丸め、気づけば丸める作業に2時間も費やしてしまったことがあります」
「……それは本格的だね」
「アールぅ!」
 と、カイがテントから出てきた。
 
カイも毛皮のコートを纏っていたが、ヒョウ柄ならぬ牛柄だった。手には洗顔セットが握られている。
 

 
「カイ、ちゃんと起きれたんだね」
「シドに蹴り飛ばされたー。あ、雪だるまだーっ!」
「カイが作ったやつ見てみたいな。私口ゆすいでくる」
「まっかせなさぁーい」
 
寒さで手がかじかんでいた。
舞い落ちてくる真っ白な雪を見上げ、雪ってこんなにも幻想的で美しかっただろうかと思う。
テーブルに置いていた水はキンキンに冷えて、口の中に氷水でも流し込んだかのようだった。
 
「ひぃいぃ……知覚過敏……」
「アールさん知覚過敏なのですか?」
 食器を仕舞いながらアールを気に掛けるルイ。
「うん……アイス好きの知覚過敏」
「それは厄介ですね。テーブル仕舞っても宜しいですか?」
「あ、うん」
 
ルイはシキンチャク袋をテーブルに翳した。みるみる小さくなり、テーブルはシキンチャク袋に吸い込まれた。アールはカイの様子を見に行った。
 
「雪だるま出来……た?」
「出来たよー」
 アールが作った雪だるまの隣に、立体的な人間の顔に作られた雪だるまが並んでいる。
「……リアルすぎてキモい」
「きもい?」
「なんかもう……彫刻みたいだね」
 丸い頭にリアルな目、鼻、口。腕は体に添うように作られ、血管は細い枝で再現されている。「アートだね……」
「でしょー? 俺こうゆうの得意なんだよねー。ちなみにこれ、アールだから」
「…………」
 
カイは満足げに笑うと、歯を磨きはじめた。アールは再びカイの雪だるまに目を向けた。どう見ても似ていない。一体カイの目に私はどう映っているのだろうかと、不安になった。
 
「出来ればアールの髪の毛を貰って雪だるまの頭に植毛を──」
「気持ち悪いからやめて」
 

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©Kamikawa
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