voice of mind - by ルイランノキ


 見知らぬ世界9…『選ばれし者』

 
『一撃で?! それは驚きだな……』
『やはりあのお方は……』

『なぁ聞いたか? 一撃で倒したそうだ』
『あの娘にそんな力があるとはな……』
『あの娘と言うのは失礼だ。アール様だ』
『アール……? 確かリョーコではなかったか?』
『カイさんが新しく呼び名を決めたそうだ』
『アール様か。期待出来そうだな……』

『あぁ 漸くこの世界に希望の光が見えてきた』

≪良子≫改め、≪アール≫は外に出て、自分がいた場所(建物)は、見渡せない程大きく、内装のシンプルさとは違い、柱や外壁の所々には細かな彫刻が施され、窓が多く造られたそこは、“城”だったことに気付いた。フランスにあるシャンボール城に似ており、横に広く中世というより、近世の城だ。 
見上げるほど圧倒される巨大な建物。アールは海外にすら行ったことがなく、こういった城を目の前にしたのは勿論初めてで、思わず胸が高まった。まるで映画の中に入り込んだような気分だ。そしてそこにいる男達は武器を手にしている者が大半だった。
 
『しかし一撃と言っても、その辺に沢山いる低レベルの魔物を一匹倒しただけではないのか?』
『馬鹿を言うな。武器を初めて手にしたばかりの女が、たった一日で……。そう考えると明らかに普通ではないだろう』
『アール様に失礼のないようにな』
 
城にいる者達がヒソヒソと話す声は、アールに重くのし掛かっていった。アールを見る度に頭を下げて敬意を表す人々。なにもかもが重荷になっていく。この世界の運命を託されただけで、心が今にも壊れてしまいそうだというのに。夢なら早く覚めてほしいと、彼女は常に思っていた。
 

──でもその願いは叶うことなく、目が覚める度に目に映るのは、
見慣れない世界、見慣れない人々。
 
生きているのかさえ分からなくなるほどに、私の精神は脆く崩れていくことになる。
 
それでも此処まで歩き続けたのは
強さじゃない……
 
私の意思で歩いていると思っていたのに。
 
だからこそ今、一人でいるんだ。
 
私はただ 言われるがまま歩かされていた。
 
結局私は 独りぼっちなんだ。
この世界に来たときから、ずっと
 
ずっと……。


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©Kamikawa
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