voice of mind - by ルイランノキ


 指名手配37…『ひまじんアパート』

 
「ちび女が変装?」
 と、ルイの電話を聞いていたシドが訊く。
「えぇ。多分、お化粧をしてらっしゃるのではないでしょうか」
 と、ルイは携帯電話をカイに渡した。
「確かにアールはこっちの世界に来たとき別人だったもんねぇ。可愛い人だなぁと思ってたら……お化粧落としたらただただ幼くなった」
 そう言いながらカイは携帯電話を仕舞う。
「あの化粧は年齢詐欺だよな。化粧してなくても詐欺か」
「アールさんは、お化粧に関する仕事をしていたのかもしれませんね」
 
言っていることは違えど、“アールがメイクをすると別人のように化ける”と、3人の意見は一致していた。
 
「立って待ち続けるのも楽じゃないねぇ……」
 と、カイが言う。「どうせなら寝て待ちたいなぁ」
「なら隣の個室で便器に頭突っ込んで寝てろよ。水も飲めるし一石二鳥だ」
「シドさん……それはあんまりです」
 
━━━━━━━━━━━
 
アールが待っている定食屋に、ミシェルがやって来た。
彼女が着いた頃には先客だった親子はもう店を出ていて、店内にはアールしかいなかった。
ちょうど焼肉定食を食べ終えたアールは、ミシェルに気づき、手を振った。
 
「あ、アー……レオナちゃん!」
 と、ミシェルは名前を変えて呼び、アールに近づいた。「わからなかったわ!」
「“久しぶり”だからね」
 と、ナプキンで口を含くアール。「メイクをしているから」とは言わせない。
「あっ……そうね」
 ミシェルは笑顔を見せた。
 店員が水を運んできた。
「いらっしゃいませ」
「あ、私はすぐ出ますから」
「ではお冷やだけでも」
 と、店員は水をテーブルに置いた。
「すみません」
 ミシェルは水を一口飲んだ。
「遠かったでしょ? ごめんね」
「ううん。遅くなってごめんね、ちょっと準備に時間かかっちゃって」
「準備?」
「後で教えるわ」
 と、微笑むミシェル。
「来たばかりだし、少し休んで行こっか。私も……食べ過ぎて動けないし」
 
食事をしようがしまいが結局は動けないアールだった。
 
「ふふっ、何食べたの?」
「焼肉定食!」
「焼肉? 意外ね」
「こっちに来る前までは……」
「こっち?」
「……前までは少食だったんだけど、最近よくお腹が減るの」
「そう。いっぱい食べなきゃ……ね」
「うんっ」
 
周囲を気にしすぎて、2人の会話がぎこちない。
 
「あ、ラムネは心配いらないと思うわ。怪我とかはしてないはずよ」
「どうして?」
「ル……うん、心配いらないの」
「そっか、心配いらないか!」
 無理した会話が逆に怪しい。
 
ミシェルが水を飲み終えてから、店を後にした。ラムネが待つ場所へと向かう。
アールは携帯電話を取り出し、メール画面を開いた。シドに教わったおかげで、スラスラと文章を打った。
 
【ラムネのこと、心配いらないってどうゆうこと??】
 
その文章を送信せず、ミシェルに見せる。
ミシェルも携帯電話を取り出して文章を打った。
 
【ルイ君がね、ラムネに結界のお守りを持たせてくれたみたいで、手出し出来ないはずだから】
 
ミシェルとアールはしばらくメールを見せ合ってやり取りをした。
 
【そっかぁ! なら少しは安心!】
【そうね。それよりアールちゃん、メイクすると別人ね】
【・・・それは褒めてる?】
【もちろんよ! お店に行ったとき最初わからなかったけど(笑)】
【えーん……(泣)】
 
携帯電話を閉じ、2人は笑い合った。
 
「携電は便利ね」
 と、ミシェルが言う。
「けいでん?」
「携帯電話よ。携電って略さない?」
「……初めて聞いた!」
「そう……」
「あ、そういえば……ワオンさんから連絡あった?」
 アールの質問に、ミシェルの表情が曇る。
「あったわ。もう連絡を取り合うの、やめようって言われちゃった」
「理由は……?」
「聞いてないわ」
 と、ミシェルは首を振った。「アー…レオナちゃん何か知ってるの?」
「うん、あまりいい話じゃないけど……」
「そう……そんな感じがしたわ」
 自分から伝えてって言ったのに……と、アールは複雑な思いにかられた。
「話は後で聞くわ。今はラムネの救出ね!」
 そう言ったミシェルに、アールは人差し指を口元に当てた。
「しーっ。些細な言動も慎むべしっ」
「あっ……」
 ミシェルは周囲に目を向けた。「ごめんなさい」
 
2人が向かったのは、《ひまじんアパートの2階、7号室》。
 
「暇人て……」
 アパートの前につき、アールは見上げながら呟いた。
「ログ街の住人は適当な名前をつけるから」
 と、ミシェルは苦笑した。「さ、どうする? もう乗り込んじゃう?」
「あ……みんなに連絡するの忘れてた……」
「連絡?」
「うん。食事終わったら連絡するつもりだったんだけどね……。私ってほんと忘れっぽいや……更年期障害?」
「あははっ、まだ20代じゃない」
「そうだけど。あ──」
 アパートの部屋から誰かが出てきた。
 
アールはミシェルの手を引いて、一先ずアパートの裏へと身を隠した。
 
「……どうするの?」
 と、小声で訊くミシェル。
「すんなり返してもらう手だてを考えなくちゃ……」
「うちの子ですって言ったら?」
「証拠がないし……。それに、なんでラムネが捕まったのか気になる」
「それもそうね」
「私たちと関わりがあると思って連れ去られたらしいんだけど、なんでバレたんだろ。見た目ふつうの犬なんだよね?」
「えぇ。真っ白い犬だし、目立っちゃったのかな」
「何度か行き来してたの見られてたとか?」
「あ、誰かが攻撃したのかも……。ルイ君が結界で身を守るお守りをラムネに持たせていたから、攻撃を防いでバレたのかも」
「おぉ……なるほど」
 と、アールは腕を組んだ。
「ラムネがルイ君のところから戻ってきたとき、頭を撫でることは出来たから、攻撃にだけ反応するのかもしれないわね」
「あれ……? でもなんでミシェル結界のこと知ってるの?」
「首にかけてあったお守りの中に、ゲートの紙とメモが入っていたの。“このお守には結界の魔法をかけているので外さないでください”って」
「わお……さすがルイ。やること完璧。でも攻撃は防ぐのに捕まえられちゃうんだね……?」
 2人は顔を見合わせて、首を傾げた。
「捕らえることは“攻撃”に入らないのかしら……」
「あ……」
 と、アールは悪い予感がした。
「どうしたの?」
「捕まえることが出来たなら、お守り外された可能性あるよね……」
 

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©Kamikawa
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