voice of mind - by ルイランノキ


 指名手配4…『ともだち』

 
眩しさを感じ、目を開けたシド。カーテンが開けられ、すっかり朝を迎えていた。
 
「あ、おはようございますシドさん」
 と、アイスミントのような爽やかさを放つルイ。
 
いつの間にか部屋は綺麗に片付けられ、アールには布団が掛けられていた。
 
「……よくそんな爽やかでいられんな」
 そう言ってシドは体を起こすと頭をくしゃくしゃと掻いた。
「僕は二日酔いをしないので」
 ルイは椅子に座り、小説に目を通している。
「二日酔いがどうとかじゃなくてよ……お前昨日酔っ払って……」
 
ルイはガタン!と青ざめた顔で席を立った。
 
「僕……またなにかやらかしましたか?!」
「いや、やらかす寸前に俺が止めたけどな」
「なにがあったのです……?」
「知らないほうがいいこともあんだろ」
 そう言って立ち上がると、背伸びをした。
「シドさん教えてください……」
「まぁそんなに知りたいなら教えてやるよ」
 と、シドはルイに歩みより、顔を近づけてニヤリと笑った。
「酔っ払ったお前は、『お仕置きです』っつって女に──」
「わああああぁ?! もう結構です! 僕はなんてことを!!」
 ルイは自分が信じられないと言わんばかりに頭を抱えて座り込んだ。
「だーいじょうぶだって。俺が止めてやったんだ。未遂だよ未遂」
「僕は最低ですね……どう謝ればいいのか……」
「心配しねーでもあいつも覚えちゃいねーだろ。それにしても酒癖わりぃ奴が増えたな……」
 
ルイはとても小説を読む気にはなれなくなってしまった。いつもならすぐにシドの朝食の用意をするのだが、全く動こうとしない。
シドは服を着替え、刀を腰に備えた。
 
「いつまで気にしてんだオメェは。仕事行ってくる」
 シドはそう言って部屋を後にした。
 
ルイが頭をかかえてから1時間後、アールは寝返りをうち、目を覚ました。
 
「ん……うっ……あだま痛いっぎもぢわるっ」
 ルイはすぐに立ち上がるとアールの横に正座をした。
「アールさんすみません!」
「叫ばないでー…」
 弱々しく布団を頭まで被ったアール。「頭いだい……きもぢわ……る……」
「今お薬出しますから!」
 と、ルイは立ち上がる。
「うーん……うぅーん……」
 アールが唸り続けていると、ルイがティーカップを持ってきた。
「アールさん、ハーブのお薬です。二日酔いの頭痛、吐き気に効きます」
「うぅん……」
「アールさん、このお薬を呑めば15分程で効きますから……」
 ルイがそう言うと、アールは青白い顔を布団から覗かせた。
「うぇっ……」
 と、気持ち悪そうに胸を押さえながらゆっくりと上半身を起こした。
 ルイがハーブティーをそっと手渡す。
「ありがと……」
 力なく受け取り、少しずつ飲んだ。
「アールさん、昨夜は失礼なことをしてしまったようで……」
 と、ルイは頭を下げた。
「昨夜? ごめん全然覚えてないや……」
「すみませんでした……」
「よくわからないけど気にしないで」
「本当にすみませんでした……」
「そんなに謝られると逆に気になる」
「僕は酒癖が悪いので……」
「そうなの? 意外だね。でも私なんで昨日のこと覚えてないんだろう。お酒飲んですぐに寝ちゃった?」
「え……?」
「え?」
 アールは、自分の酒癖が悪いことを知らなかった。
 
ルイがくれたハーブの薬はすぐに効果があわられ、頭痛も吐き気もしなくなった。
アールは気分よく立ち上がり、布団を畳んだ。
 
「ルイ、シドとジャックさんは?」
「シドさんは仕事へ。ジャックさんは、僕が起きたときにはもういらっしゃいませんでした……」
「そっか……。ちゃんと挨拶したかったけど、ジャックさんケータイ買って連絡先交換したし、話したくなったらまた電話しようかな。あ、今日はVRCだよね?」
「えぇ。お昼から行きましょう」
「了解っ。私お風呂入ってくる」
 
アールは個室で着替えの用意をして、洗い物も一緒に抱えて風呂場へ向かった。エレベーターに乗ろうかと思ったが、あのことがあってからどうも一人で乗る気にはなれず、階段を使った。
先に洗濯所で洗い物を洗濯機に移し入れる。最近はお風呂に入るときに洗い物も済ませていた。
 
脱衣所でポケットに入れていた携帯電話を取り出すと、ランプが点滅していることに気づいた。開いてみると、ミシェルからの着信履歴と、留守番メッセージが入っていた。携帯電話を操作して留守番メッセージを聞いた。
 
『もしもし、アールちゃん? お引越し、無事に終わったよ。部屋に戻ったとき、彼の匂いがしてちょっと気分が落ちちゃったんだけど、ちゃんとそんな気持ち振り払ったよ。これからモーメルさんの家にお世話になりながら、がんばるね』
 
電話があったのは23時頃だった。アールはホッと胸を撫で下ろした。
 
「私もがんばらないと……」
 服を脱ぎ、浴場の戸を開けた。
 
   良子……
 
思い出の中の親友の声が、いきなり頭の中で響いた。自分を呼ぶ声に、ドキリとした胸を押さえる。
 
「……なーに 久美」
 なんて、冗談で答えながら、幻聴をかわした。
 
感じた不安から目を逸らす。見て見ぬふりをした不安は、どうなるのかなど、考えてはいなかった。
なかったことには出来ないというのに。
 

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