voice of mind - by ルイランノキ


 指名手配3…『酔っ払い』

 
「あ、もひもひ? 川崎さんですか? えぇそうです私です」
 と、アールは壁に寄り掛かり、空のグラスを耳に当てて電話をしている。「おひさひぶりですねぇ……」
「なんのコントだよ……」
 と、シド。
 
ジャックもすっかり床でのびきって寝てしまった。
 
「何気にあの女酒強いよな。酔うのはえーけど」
 と、シドはルイに目をやった。
「そうですね。一体どなたと会話をしているのでしょう」
 そう答えたルイの表情を見たシドは、厄介なことになりそうだなと察した。
「おいお前……飲みすぎたか? 目が座ってんぞ……」
「いいえ? この“私”が酒に酔うなど言語道断」
「あー……完全に酔ってんな……」
 
ルイは酒に酔うと一人称が変わるため、わかりやすい。
ルイはスクと立ち上がり、アールの前へ歩み寄った。
 
「おいっ……」
 シドは危険を察して立ち上がったが、足に力が入らず壁に手をついた。
 
──やべぇな……俺も酒が回ってきたか。
 
「アールさん」
「おー、ルイだぁー。川崎さんがルイと話したいってぇー」
 と、アールは空のグラスをルイに差し出した。
「これは電話ではなく、グラスです」
「グラス? ルイなに言ってんのー! あはははははっ!」
「やはり飲みすぎですね。あれほど飲みすぎないようにと注意をしたのに。なぜ聞かないのです?」
「ちゅーい? そういえば最近チューインガム食べてないなぁ……」
「お仕置きしないといけませんね」
「おしおき……?」
 ルイはアールの肩に手を置いた。
「えぇ。お仕置きです」
「──?! いゃああああぁああああ!!」
 
パコーン!と、プラスチックのバットがルイの頭を直撃した。ルイはバタリと床に倒れ込み、死んだ魚のように動かなくなった。
 
「うっし、間に合ったな」
 バットで殴ったのはシドだった。おもちゃのバットはカイの私物である。
「あれ? シド野球やってんのぉー? あたしもまーぜてっ!」
 と、アールはあっけらかんと言う。
「お前な……今なにされそうになったか分かってんのか?」
「じゃーあたしはゴールキーパーで!」
「それはサッカーだっての。話し噛み合わねぇな。お前ももう寝ろよ」
「シド……左右にひょうたんつけてどこ行くねん」
「ひょうたんはもういいって! ──さっさと寝ろバカ!」
 と、シドは個室のドアを開けて促そうとしたが、のびきっているルイが邪魔で開けられない。
「シド……ワオンさんと仲良くしなよ」
「──はあ?」
 アールは唸りながら床に倒れた。
「うぅーん……」
「おいっ! 寝るタイミングおかしいだろ!」
 
ため息をこぼし、辺りを見回す。カイもルイもジャックも床で寝てしまい、おもちゃが散らかっていて自分の寝るスペースがない。
 
「ったく……」
 
足でおもちゃを部屋の端に移動させ、俯せで寝ているカイの背中を枕に、横になった。
時刻は真夜中の1時過ぎ。漸く全員眠りについたのだった。
 
━━━━━━━━・・・
 
闇夜に浮かぶ星が姿を消しはじめた早朝4時。
シドは物音で目が覚めた。体を起こすと、部屋を出て行こうとするジャックの後ろ姿が目に入った。
 
「帰んのか?」
 と、歩み寄る。
「お、わりぃ、起こしたか」
「挨拶もなしか?」
「あぁ、まぁ寂しがられると去りがたいしな」
「へぇ。らしいな」
「礼を伝えといてくれ。世話になったな」
「あぁ。気をつけろよ」
「おう。──あ、そういやアールちゃんに言おうと思ってやめたんだが、やっぱ気になるんだよな……」
「なんの話だ?」
「実はよ、変な噂を聞いたんだ。人が話してたんだが、『女を連れた旅人には関わるな』とかなんとか……」
「俺らのことか?」
「さぁな……ちょっと耳にしただけだから、詳しくはわからねぇ。ま、気をつけたほうがいいかもな」
「ご忠告どーも」
「じゃ、達者でな。──旅、気をつけろな」
「あぁ。じゃあな」
 
シドはジャックが出ていくのを見送り、部屋に戻った。アール達はまだまだ起きる気配がない。時計に目をやり、時間を確認した。
 
「もうちょい寝るか……」
 
ジャックが寝ていたスペースに横になり、目を閉じた。
ジムの姿が脳裏に浮かんだ。
 

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