voice of mind - by ルイランノキ |
『貴女様の世界と、我々が存在するこの世界では時の流れが異なります。貴女様の世界は、今、時が止まっていると言っても過言ではないでしょう』
『貴女様が使命を果たしてさえくだされば、元の世界に帰還することが可能です』
『我々は貴女様にお力添えを願いたいのです』
『このままではこの世界は魔物で溢れ、侵食してゆく』
『我々の力では、もう成す術がないのです』
『命を落とされては、元の世界に帰還出来なくなるのは勿論のこと、この世界の未来も無いでしょう』
『全ては貴女様に──』
良子を取り囲んでいた者たちの口から次々と語られる言葉は、混乱している彼女の耳に届くはずもなく、殆ど頭に入ってはいなかった。何を言われても理解することができない。まず、状況を把握出来ていないのだから、人の話を聞ける状態ではなかった。
此処はどこなんだろう。どうやって自分は此処に移動したんだろう。何が起きたんだろう。もしかして一般人をターゲットにした新手のドッキリ番組?
決してふざけているわけではない。ドッキリにしては大掛かり過ぎる出来事に、混乱と不安で動悸が治まらなかった。
「ギルト様が生前に、貴女様へ残した剣(つるぎ)でございます」
そう言った一人の男は細かな模様が刻まれている細身の剣を大切そうに両手で持ち、良子の目の前まで歩み寄った。そしてひざまづき、丁寧に頭を下げる。それからその光沢を帯びている剣を、両手で彼女へと差し出した。
「どうかお収めください」
と、男は坦々と事を進めていく。
「え……」
良子は戸惑い、思わず後退りをした。
なに…… 受け取るの?
「君、剣を手にしたことは?」
と、背後から優しい口調で質問を投げかけた男がいた。
その若い男の顔を見て、良子はハッと息を飲んだ。サラサラブラウンヘアーの男。暗闇で聞こえたのは、この人の声だ。そして、夢で見た人物。
改めてもう一度、周りを見て気付く。夢に出てきた三人の戦士が、此処にいた。刀を腰にかけている短髪の男、前髪を縛った男。
「剣なんて……触ったこともない……」
動揺を隠せない震える声で、良子は答えた。
やっぱり夢でも見てるのかな。
そう思ったとき、短髪の男が憤りを隠せない面持ちで怒鳴った。
「ふざけんなッ! 何が選ばれし者だッ! 女だし、どー見ても……っ。俺はこんな奴に世界を託す気はねぇよッ!!」
それは、短髪で筋肉質の……夢で見た一人の戦士。
──“シド”
今でもそう思ってるのかな、どうしてお前なんだって。
私がみんなの前から姿を消した今、きっと思っているよね。めんどくせーって。
どうしてかな。人の手を引く力はあるのに、自分の足を動かす力がないなんて。
人を叱咤するくせに、自分を励ますことができないなんて。
私は選択を間違えたのかな。
いくら考えても、答えが出ない。
ううん、きっと答えは出てるけど、
その答えと向き合えずにいるだけなのかもしれない……。
Thank you... |