voice of mind - by ルイランノキ


 青天の霹靂32…『繋がり』◆

 
シドはイビキをかいて床の端で眠っている。よほど疲れていたのだろう。カイはまだ起きているが、苦情があったからか今はおとなしくパズルの続きを楽しんでいる。しかし王子の衣装を身に纏ったままだ。
ルイはすっかり綺麗になった床に、3人分の晩御飯を並べた。買っていたお弁当だ。
 
「シドさん、晩御飯の準備が出来ましたよ」
 
シドは背伸びをするとすぐに体を起こした。
 
「お弁当で申し訳ないのですが。明日は外食にしましょう」
「あぁ……まぁルームサービスじゃなきゃなんでもいい」
 そう言って、並べている弁当の前に座った。
「俺のはー…?」
 と、カイが四つん這いで近づく。
「カイさんは先に食べましたよね」
「そうだっけー? お腹空いたーお夜食ほしい……」
「カイさんの分はもう……あ、ゼリーがありますが食べますか?」
「食べるー!」
 ルイはシキンチャク袋からゼリーとスプーンを取り出し、カイに渡した。
「では、いただきます」
 ルイの合図で3人は手を合わせ、食事をはじめた。
 
アールはまだチアガールの格好をさせられている。自分より奇抜な格好のカイのおかげでさほど恥ずかしくはない。
ルイは帰ってきてからも食事の最中も刀を腰に差しているシドに注意を促そうとして気づいた。
 
「シドさん、その刀は……?」
「あー…?」
 まだ眠たげに箸でミートボールを摘んだまま、腰に目をやる。「げぇっ?!」
 驚いた拍子に丸い肉が箸から落ちて床を転がった。
「やっべぇ……なに持って帰ってんだ俺……」
 シドはあの時、無意識にいつも通り刀を腰に差してしまったのである。
「あっ、その刀……」
 と、アールとルイが声を揃え、思わず目を合わせた。
「え? ルイ知ってるの?」
「え、えぇ。アールさんをVRCへ送ったあと、買い物をしにこの辺まで一度戻ってきたのですが、そのときに男の子と出会って……その男の子が武器屋の店員さんから頂いた刀かと……」
「え、じゃあ私の見間違いかなぁ。私もトーマスさんのバイクに乗って一度こっちに戻ってきたんだけど、そのとき拾った刀に似てるんだけど……」
 ルイとアールは、シドに顔を向けた。
「あ? 俺は……粗大置場で見つけたんだよ。武器を部屋に忘れたことに気づいて、ダムが現れたときに粗大置場にあったから使って……うっかり持って帰っちまった」
「あ……私がゴミ置場に捨てたやつだ……。凄い偶然だね、じゃあもしかして私が拾ったのってルイが会った男の子が置いてったやつかな」
「かもしれませんね。この近くで拾ったのなら、尚更。それに古い刀ですし、デザインが独特なので見間違えることはないかと」
 と、ルイは笑顔で言った。「しかしアールさんはなぜゴミ置場に……」
「あ……色々あって。トレーナーのトーマスさんに、武器職人の家に行って刀を二つ貰ってこいって言われて、それで──」
 と、アールは拾った刀をゴミ置場に捨てるまでの経緯を話した。
 
ルイも男の子の話しを改めて細かく説明した。
 
「なに? なんの話しぃ?」
 と、ゼリーを食べ終えたカイが寂しそうに言う。「俺だけ仲間外れ……?」
「シドが持ってる刀、ルイが出会った男の子が持ってて、なぜか私に渡って、なぜかシドの手に渡ったの」
 アールは楽しそうに話した。
「なにこのおんぼろ刀ぁ……」
 と、カイは膨れっ面で言った。自分だけ繋がりがないことに寂しさを感じたのだ。
 
しかしカイにも繋がりがある。ルイが出会った男の子は、カイから2000ミルを奪った男の息子だった。その2000ミルで刀を買ったなど、カイは知るよしもない。
 
「俺だけ仲間外れ……」
 と、カイは落ち込む。
「シドさん、その刀、僕に預けてもらえませんか? 武器屋の店員さんに返したいのですが……。思い出の品のようでしたし」
「あぁ。持っててもしょうがねぇしな。あとでいいか? ダムの血がついてるかもしんねぇから、綺麗にしたほうがいいだろ」
「えぇ、お願いします」
 
「俺だけ仲間外れ……」
 そう呟いたカイは、部屋の隅に置いてあった紙袋を見つけた。ルイが持って帰ったエルナンの資料が入っている紙袋である。
「あっ! なにか買ったのぉ?」
 と、カイは立ち上がって紙袋を覗きに行こうとしたそのとき、グニャ……となにかを踏んだ。「ひ、ひぃやぁああぁあぁ!」
 
シドが落として転がっていたミートボールだった。
 


第八章 青天の霹靂 (完)

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