voice of mind - by ルイランノキ


 青天の霹靂22…『ドクマサグモ』

 
「ありがとうございます!」
 と、ルイはバイクから降りて料金を支払った。
 
シドに指定された場所へと着いたが、シドの姿がない。携帯電話を取り出して電話を掛けると、直ぐにシドが出た。
 
『ルイか? 魔物を捜してんだが姿がねぇんだよ』
「今どちらですか? 魔物というのは?」
『カゲグモっつってバカでかい蜘蛛の魔物だ。つっても子供だから親よりはちいせぇが……イワコ山に居着いてたのが山を下りたみてぇでよ』
「イワコ山……街の外にある山ですね」
『あぁ、けど街に添うようにある山だからそのまま街に入りかねないだろ』
「確かにそうですね」
 と、会話をしていると電話からもうひとりの声が聞こえてきた。
『おーい! シドさんよぉ! 先に行くなよぉ』
『あ? あぁカイか。わりぃ』
「──カイ……さん?」
 と、ルイは耳を澄ませた。
『あ、いや、同じ名前の奴だ。山で会ってな』
「そうでしたか。僕もカゲグモを捜してみますね」
『いや、お前徒歩じゃキツイだろ。バイクでも借りたか?』
「いえ……自転車なら借りましたが、ここまでバイクに乗せて貰って来ましたので……」
『ひとりか?』
「はい、アールさんたちにはホテルで待っているよう、言っておきました」
『そっち行くから待ってろ』
「え?」
 電話越しにバイクのエンジンがかかる音がして、電話が切れた。
 
ルイは携帯電話をポケットにしまいながら、周囲を見回す。魔物の気配はしない。カゲグモ。ルイにはどこかで聞いたことがあるような気がしていた。
 
ルイがいる場所は、街の北側、エルナン宅の付近だった。夜空には微かに星がちらついている。夜更けに魔物が街に現れたら厄介だと思ったルイは、再び携帯電話を取り出し、とある人物に連絡を取った。
 
10分ほどして、バイクに乗ったシドがルイの元へと駆け付けた。
 
「後ろに乗れ」
「バイク借りたのですね」
 そう言いながらバイクに跨がった。「──レンタル、いくらしたのです?」
「今金の話ししてる場合じゃねぇだろ!」
 と、面倒くさそうに言い放ち、バイクを走らせた。
「シドさん! カイさんは?!」
 と、大声で訊く。バイクの音が大きいからだ。
「あー? ホテルで寝てんじゃねーのかよ!」
「違いますよ! シドさんと一緒にいた人です!」
「あぁ……置いてきた!」
「置いて……」
「なんか言ったかー?!」
「いえっ!」
 
暫くバイクを走らせ、カゲグモを捜したが姿がなかなか見つからない。街に侵入していないのだろうかと、バイクを止めた。侵入していればどこかで騒ぎになっているはずだが、黒いカゲグモは闇に同化する。静かに這い回っていれば気づかない可能性もあった。
 
「くそっ……いねぇじゃねぇか」
「シドさん、カゲグモのことですが、詳しく話してもらえませんか?」
 と、ルイは一先ずバイクから降りた。
 
シドは、これまでの経緯を簡単に説明した。
 
「──そのエルナンさんは?」
 説明を聞き終えたルイがそう尋ねた。
「山に置いてきた。安心しろ、カイが持ってたロープでグルグル巻きにしてやったからな」
「山に置いてきた?! なにかあったらどうするのですか!」
「なにかってなんだよ……」
「街の中ならまだしも、外ですよ? どんな魔物がいるかもわからないのに!」
「……自業自得だろ」
「信じられません! 様子を見てきます!」
「おいおい! カゲグモはどーすんだよ!」
「手を貸していただけるよう、先程連絡しておきました」
「はぁ? 誰にだよ」
「ワオンさんですよ。ワオンさんが他にも呼びかけてくれるそうです」
「ワオン……犬か?」
 嫌な名前を聞いて顔をしかめた。
「アールさんのトレーナーです。VRCの」
「余計なことすんじゃねぇよ! なんで他人の力まで借りなきゃなんねんだよ!」
「念のためです。とにかく、僕はイワコ山に……」
「待て。カイに行かせりゃいい」
「カイさんは寝ていると思いますが」
「そっちのカイじゃねーよ! ったく、ややこしいな! って、やべぇカイの連絡先しらねぇわ。また戻んのか……」
 
仕方なくバイクのエンジンを掛けたとき、遠くの方から女性の悲鳴が聞こえてきた。
 
「カゲグモか……? 乗れ。行くぞ!」
「エルナンさんはどうするのです?!」
「あんな怪しい奴ほっとけ!」
「そうは行きません!」
「しょうがないなぁ、俺が戻るよ」
 と、背後から声がして、2人は振り返った。
「え……?」
「ここまで追い掛けてきたのによ、まったく困ったもんだよ」
 そこにいたのは、自転車に跨がったカイだった。もちろん、シドにコートを貸した方のカイである。
「カイ! お前どうやって……」
「カイさん? あなたが」
「それじゃあよ、ちょっと山へ戻りますよ」
 そう言うと、カイはペダルに足を掛け、「激追風!」と叫ぶと、漕いでもいないのにバイク並の早さで暗闇の中、消えて行った。
「あぁ、風……な」
「あちらのカイさんはプハンタン(風を操る者)なのですね」
「お前……あれ出来んのか?」
「僕はあのような魔法は取得しておりません……」
「だよな……」
「あの自転車の強度も気になるところですが……急ぎましょう」
「あ、あぁ」
 2人はバイクに跨がり、悲鳴が聞こえた方へと急いだ。
 
その場所は街の北東にあり、建物内や外から空を見上げている住人が気味悪そうな顔を浮かべていた。
 
「なんだ……?」
 と、2人もつられて見上げると、頭上でカゲグモが糸を張って巣を作っていた。
「カゲグモ……」
 と、ルイは目を凝らした。
「きもちわりぃなぁ……。下から攻撃するしかねぇな」
「落ちてきますね」
「……だからなんだよ」
「毛が舞うと厄介ですよ」
「確かに……って、毒毛が舞うなんて話したか?」
「いえ、思い出しました。以前カゲグモを見たことがあります。生息地はガルファーノで、カゲグモの正式名はドクマサグモです」
「は? ガルファーノっていやぁ西の国じゃねぇか……なんでまたゼフィールに……」
「誰かが連れて入ったのなら、違法ですね」
「エルナン……じゃねぇな。あいつは最初カゲグモの存在を知らなかったみてぇだし」
 
カゲグモの巣は、建物と建物を繋いで張られている。
 
「街の防壁結界の内側にいるということは、結界を破って侵入したということですね……。ログ街の結界がどれほどのものかはわかりませんが、穴が空いただけならまだしも、もし全体の結界が外れていては危険ですよ」
「他にもわんさか魔物が入ってくんな」
「その心配はない」
 と、2人の元へ歩み寄って来たのは、ワオンだった。
 
シドはワオンを見るやいなや、直ぐに顔を逸らした。
 
「ワオンさん……来てくれたのですね」
「あぁ。ログ街の結界は確かに弱いが、破られても一部穴が空くだけだ。仕事仲間に連絡して、穴を塞ぐよう言っておいた」
「そうですか、助かります」
「それにしてもでけぇクモだなぁ。──なぁ? シド」
 と、ワオンはシドを見ながら言った。
 
シドはギクリとして、ワオンに目を向ける。
 
「久しぶりだな犬」
「犬じゃねーよ! 相変わらず口が悪いなお前は」
「おふたりはお知り合いですか?」
 と、ルイが訊く。
「まぁな、昔シドのめんどうを見てやった」
「めんどう見てもらった覚えはねぇよ」
「ケッ、よく言うよ。VRCでお前が破壊した天井や壁の修理代を誰が出してやったと思ってんだ? 借金返せよ小僧」
「あーぁ、そんなこともあったな。その点では世話になったが、トレーナーとしてはなんの役にも立たなかったな、犬」
「犬って言うな!」
「──借金、おいくらですか?」
 と、ルイが財布を出しながら困惑した表情で訊いた。
「ハッハッハ! いいっていいって! 今はそんなことより魔物退治だ。腕がなるぜ。アールちゃんはいねぇのか?」
「えぇ、危険ですので……」
「もったいねぇなぁ、いい経験が出来るってのに」
「ですが、アールさんにはまだ、レベルが高すぎるかと……」
「まぁ、それもそうだな」
 

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©Kamikawa
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