voice of mind - by ルイランノキ


 青天の霹靂15…『指導者』

 
お爺さんとたわいもない会話をしながら金属製の物を見つけては、リヤカーに積んだ。
そうこうしていると、バイクの音が近づいてきた。──トーマスだ。
 
「なにやってんだよ! って、なんだ……じいさんまだゴミなんか漁ってんのか」
「おぉ、トーマスか。久しぶりだな。ワシは金持ちのあんたとは違う」
「別に金持ちじゃないだろ」
「ワシからしてみりゃ、家を持っている奴はみんな金持ちさ」
 そんな会話を聞いていたアールは、
「おじいさん、トーマスさんと知り合いなの?」
 と、訊いた。
「小さいころから知っておるわい。トーマスがまだ小さいころ、生卵をぶつけられたことがあった」
「うわ……最低……」
 アールはトーマスに軽蔑の眼差しを向けた。
「うるせぇな昔の話だ! いつまで根に持ってんだよ!」
「ホッホッホ……忘れやせんよ。なんだかんだで、話し相手がいることは嬉しい限りだったからな。それに生卵はうまかった」
 笑いながら言う老人の思わぬ言葉に、トーマスは頭を掻きむしった。
「バカじゃねーの……。おい女! 早く乗れ!」
「あ、はい。──じゃあおじいさん、怪我だけはしないようにね」
「おぉ。いい“買い物”が出来たよ、ありがとう」
 と、老人は靴を履いた片足を軽く上げておどけてみせた。
 
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「トーマスさん……すいませんでした。ちゃんと確かめずに刀を持ってきてしまって」
 と、アールはバイクを下りながら言った。
 
2人は漸くVRCに戻って来ていた。急に頼まれたこととはいえ、よくよく考えてみるとやはり自分に責任があったことに気づいた。
 
「もういい。俺の父親に足りない分は補充してもらうことにしたからな。それにベグナムに電話で確かめたら、2本だって言ってあったのに1本だと勘違いしていたようだしな」
 そう言って、アールに預けていた刀を1本手に取った。
 
駐車場を出て施設へ向かうと、玄関前でルイがワオンと一緒に2人の帰りを待っていた。
 
「あっ、ルイ!」
 アールは駆け足で歩み寄った。
 
外は薄暗く、VRCの施設はオレンジ色にライトアップされている。24時間営業であるVRCの明かりは消えることがない。
 
「アールさん、お疲れ様でした」
 そう言ったルイの笑顔に、疲れが吹っ飛ぶ。爽やかな癒し顔だ。
「ありがとう。──ワオンさんは大丈夫?」
 と、隣にいたワオンを気遣った。「怪我とかしてませんか?」
「あぁ、俺は大丈夫だ。怪我させてしまった相手も、大した怪我じゃなかったよ。ただ、バイクは破損したけどな……うぅっ」
 ワオンはそう言って涙を拭く仕種をした。
「それは……残念でしたね」
「おう……。あ! それよりアールちゃんよぉ、戦闘部屋の操作室に行って驚いたよ! 」
「僕も話しを聞いて驚きましたよ……」
 と、ルイが言う。
「なんの話?」
「データは保存されるんだ。トーマスさんにどんな扱き方をされたんだ? ──俺の時はレベル1で苦戦していたのに、その後のデータでは20まで上がってるじゃないか!」
 
「……は?」
 
わざわざワオンに説明してもらったものの、意味がわからなかった。なぜならアールは、そんなこと一言もトーマスから聞かされていなかったからだ。──死ぬほどな思いをしたのは確かだが。
トーマスに目を向けたが、彼は何も言わずに施設へと入って行った。
 
「アールさん、少し待っていてもらえますか? 僕はトーマスさんと話しをしてきます」
「……うん。わかった」
「んじゃ、アールちゃんは俺とお話しでもしようか」
 と、ワオンはアールの肩に手を置いた。「俺の成功への道のりを話してやろう」
「あ、大丈夫です。ひとりで待てますから」
「…………」
 
ルイは施設に入り、受付にいたトーマスに声をかけた。
 
「トーマスさん、少しお時間頂けますか?」
「なんだよ俺は忙しいんだ」
 そう言ってトーマスは手元にあった参加者名簿に目を通す。
「少しで構いません。──アールさんのことですが、1日でレベル20のモンスターと戦うまでに至った経緯を教えてください」
「ワオンの野郎が甘やかし過ぎてただけだろ。俺には俺のやり方ってもんがある」
「そのやり方というのは?」
「経験あるのみってことだ。レベルごとの魔物を2匹倒せりゃ十分。2匹ごとにレベルを上げていっただけだ」
「魔物にも種類があります。がむしゃらに戦ったところで……」
「いつまでも弱い敵と戦うよりは常に強い敵と戦って己の実力を知ったほうが成長すんだよ!
嫌でも頭の回転も速くなるからな。素早く敵を見極める必要もある。死ぬかもしれねぇ恐怖があったほうが集中力も上がる。──あとはボロクソ言ってりゃ怒りで力も増すからなぁ」
 トーマスはそう言って口元を緩ませたが、その目からは苛立ちが感じ取れた。
「確かに指導の仕方はトレーナー次第ですが、そういったやり方は精神への負担が大きいかと思います。彼女には相応しくない」
 と、ルイは言い切った。
「ふんっ……俺は代理として面倒を見てやったんだ。心配しなくても正式トレーナーはワオンだ」
「代理なら尚更、自分のやり方を押し付けるのは間違っています」
 ルイが力強く言い張ると、トーマスは手に持っていた名簿をテーブルに叩き付けた。
「トレーナーでもねぇ素人が偉っそうに……」
「アールさんの指導の仕方について、希望欄に記載したはずです。今後アールさんの指導をなさらないとしても、トレーナーとして参加者のデータにも目を通し、受け入れるべきでは?」
 
どちらも引き下がる様子がなく、暫く2人は目を見合わせていた。
 

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©Kamikawa
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