voice of mind - by ルイランノキ


 因果の闇25…『最後のページ』

 
「ちょうど似たような記号が描かれた紙を見つけたぞ」
 と、シドはルイが持っていた紙と似ているものを手渡した。
「どこにありました?」
「この本に挟まってた」
 シドは机の上に置いていた本を手に取った。
 
表紙にも裏表紙にも背表紙にも何も書いていない、アンティークな分厚い本だ。
 
「なぜこれを?」
「片っ端から見てたら見つけただけだ」
 
記号が描かれている紙を二枚、机の上に並べてみた。3人で眺め、腕を組む。
 
「重ねるとか?」
 と、カイは紙を重ねて透かして見た。
「文字のように見えなくもないですね……」
「他にもあるんじゃない? 紙」
 
手当たり次第、3人は4階を調べて同じような紙がないかを探した。そして、カイがそれを見つけた。ベッドの仕切りとして置かれていた棚に、花の写真が入ったフォトスタンドがある。手に取ってみると、中に紙が入っていた。
早速3枚目の紙も重ねて見ると、3枚あった紙は1枚の紙になって魔法文字が浮かび上がった。
 
「なにか魔法を発動させるスペルですね」
「じゃあルイが唱えないと」
 と、なんとなくカイはシドの後ろに身を潜めた。
「なんだよ鬱陶しいな」
「なにが起きるかわかんないじゃん!」
「では、唱えてみますね」
 
ルイはまず“魔法を発動させるスペル”を唱えてから、紙に書かれているスペルを唱えた。
すると、目の前にあった机がもっと高級感のある大きな机へと変貌した。引き出しの数は中央にひとつと、左右に4つずつ。テーブルの上には羽ペンや砂時計、懐中時計など小物が置かれ、写真立てもあった。白黒の写真にはアリアンと思われる女性が沢山の子供たちと写っている。
 
「これまでここにあった机はダミーだったようですね」
「実際使ってたのはこの机ってことか……」
 シドは写真立てを手に取った。穏やかな表情で写るアリアンを見て、組織が言っていた“間違った歴史”こそ間違っていると主張しているように思えた。
「やはり美しい方ですね」
 と、ルイ。
「引き出し調べようぜ」
 
それぞれ引き出しを開けると、ノートや本、なにかの資料と思われる紙の束、封筒に入った誰かからの手紙、モノクロ写真、小さな箱、無造作に入れられていた文房具や雑貨類がどの引き出しの中にもぎっしり入っていた。
 
「整理整頓が苦手だったのかなぁ」
 と、カイは笑う。
「意外ですね。彼女の素顔がわかるかもしれません」
 3人は気になるものを手に取り、各々調べ始めた。
 

みんなは
 
どう思ったのかな

 
調べたものや関係のない雑貨などはテーブルの上に置いていく。ルイは手紙の束を手に取ったが、これはひとつひとつ封筒から取り出して調べなければならないため後回しにすることに。足元に置いてから、今度は引き出しから一冊の分厚い本を手に取って、ページをめくった。
 
そして、はっと息を飲んだ。ルイが手に取ったのは、本ではなく、アリアンの日記帳だったのである。
 
「手紙多いねぇ。下に置いとくよー」
 と、カイも引き出しから見つけた手紙を足元に置いた。
「じゃあ俺が手紙読むわ」
 シドは床に胡坐をかいて、手紙を一枚一枚読み始めた。
 
ルイは夢中でその日記帳に目を通した。読み進めているうちに、最後のページが気になり、一気に読み飛ばした。
 

“私”を知ったとき
 
みんなの心にどんな感情が生まれたのかな

 
シドはルイを見上げた。さっきからずっと同じ本を眺めている。
 
「さっきからそればっか見てっけどなに書いてんだ?」
 と、覗き込もうと立ち上がった瞬間、ルイは隠すようにノートを閉じて背中に回した。
「……おい」
「なになに?」
 と、カイとヴァイスもルイに目を向けた。
 
誰が見てもわかるほど、ルイの表情は青ざめている。
 
「見せろ」
 シドはルイの様子がおかしいことに気づき、鋭い目でそう言った。
「いえ……大したものでは……」
「ならなんでそんな動揺してんだ」
「ルイ……? なんかわかったの?」
 と、カイも不安げにルイを見遣った。
「なにも……」
「下手な嘘をつくな」
 と、ヴァイス。
「いいから貸せっ」
 シドが強引にノートを奪おうとしたが、ルイは頑なに拒否をした。
「駄目ですッ!!」
 

その場に私がいなくてよかったと思った
 
“私”を知ったみんなの顔を
直視できないと思うから。

 
「見せろ。ルイ」
「…………」
 ルイは、黙ったまま首を振った。
「力ずくで奪うまでだぞ」
「…………」
 
ノートをしかと握り、頑なに見せようとしないルイに痺れを切らしたシドは、ルイの胸倉を掴んで押し倒した。怯んだ隙にノートを奪い取ったが、ルイは力なく床に座り込み、顔を伏せた。
 
「なになに……?」
 と、カイがシドに歩み寄る。
 ページをめくり、それが日記帳であることに気づいた。
「最後のページを見せろ」
 と、ヴァイス。
「わかってるっつの。指示すんな」
 シドは苛立ちながら、最後に書き込まれているページを開いた。
 

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©Kamikawa
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