voice of mind - by ルイランノキ


 因果の闇24…『調べ』

 
──アリアンの塔 2階
 
書籍と思われる部屋ではヴァイスがアリアンやシュバルツに関する情報を探していた。アールにしかテンプルムへのゲートを開けることが出来なかった上に、仲間が揃ったことでシーワンの大剣を見つけることが出来た。これらのことを考えるとアリアンは一行を待っていたことは確かだ。なにもないわけがない。なにか、見せたいものがあるからここへ誘ったはずだ。
 
「…………」
 
とはいえ、膨大な数の本が棚に並んでいる。これを一冊ずつ見ていくのはイストリアヴィラの本屋しきの件もあり、面倒だった。
スーも自分なりになにか探そうとヴァイスの肩から下りて周囲の探索をはじめた。
 
魔物がいた3階にはシドがいたが、4階への鍵が入っていた宝箱以外はなにもない。なにもないからこそ調べて欲しいとルイに頼まれ、一通り白い壁や床に気になるものはないか調べたが特になく、4階へ上がってルイと合流した。
 
「やっぱ3階はなんもねぇって」
「そうでしたか」
 と、ルイは本棚を調べている。
「書籍にあった本と比べると、年季の入った本が多いようです。何度も読み返した形跡があります」
「個室は?」
「個室はトイレとお風呂場でした」
「…………」
 シドは驚いてルイを見遣った。
「驚きですよね、僕もです。アリアン様は人間とは違う、伝説の女神として伝えられてきたので、まさかそういったものがあるとは。でも、使っていたような形跡はないのですよ」
「は?」
「それに、台所がないのも不自然ですね。もしかしたら来客のためのものだった可能性があります。もしくは……人間と同じ環境に身を置きたかった、とか」
「…………」
 
シドは自分の目で確かめた方が早いと、出入り口の左側にある小部屋のドアを開けた。白で統一されたその空間は、汚れひとつない。トイレットペーパーもない。驚いたのは今でも水が流れるということだ。
 
5階の子供部屋ではカイが鼻歌を歌いながらおもちゃを籠から取り出して遊んでいた。赤ちゃん用のおもちゃでさえ楽しめるカイは精神年齢がとても低いようだ。
音が鳴るカラフルな魚のぬいぐるみを持ってパフパフ鳴らしながら周囲を見遣った。隅にはラウンドテーブルと椅子が二つあった。さすがにあれは子供用ではない
 
「なんかどっかに似てる」
 と、虚空を見遣る。
 
そうだ、と思い出す。ショッピングモールなどにあるキッズスペースに似ているのだ。ラウンドテーブルには子供の親が座り、子供たちを眺めながらおしゃべり。そんな光景が浮かんだ。
 
「お客さん用?」
 と、小首を傾げた。
 
ルイは机の横に置かれている小さな棚から赤いカバーの本を1冊抜き取った。ただなんとなく気になったから手に取ったのだが、ページをめくってみるとそれは本ではなくノートだった。
 
「シドさん、ちょっと」
「なんだよ」
 風呂場を見ていたシドはルイに歩み寄った。部屋が広いため、近寄るのも小走りだ。
「見てください。これ、手書きです。アリアン様の字でしょうか」
「いやそれ俺に訊かれてもわかんねぇから」
「そうですよね……」
「なにが書いてあるんだ?」
 ルイの横から覗き込んだ。
「日付と、人の名前や年齢と……相談事でしょうか」
「相談事?」
「ひとつ読み上げると、《セガリード・ホーク、42歳、一人娘が病に倒れ高熱が続く》と書いてあります」
「それ相談事か?」
「他にも、人ではなく村の名前が書かれている欄には《3ヶ月間日照が続き、食物が育たず》と書かれてあります。アリアンに関する書籍に書かれていたことの中に、人々の願いを叶えていった、というものがあります。相談を受けた内容をノートにまとめていたのかもしれません」
「原始的だな」
「数百年前のことですからね」
「それが未だに残ってんのか」
「シドさんも本を調べてもらえませんか」
「本は見飽きたな……」
 と、嫌な顔をする。
「そうおっしゃらず。ヴァイスさんは書籍におられるのですよ?」
「地獄だな」
 仕方なく片っ端から本棚を調べはじめた。
 
ヴァイスは沢山ある本の中から、目に止まった1冊の本を手に取った。背表紙に《3F》と書かれていたからだ。パラパラとページをめくってみると、白紙のページばかりだった。しかしちょうど中間あたりに絵が描かれていることに気がついた。
 
「塔の3階か……」
 
そのページには大きな丸と、その内側の端に小さな四角が描かれた図形だった。塔の3階の部屋に似ている。宝箱だけ置かれた部屋だ。けれど、その図形になにか印があるわけではない。
スーはヴァイスの肩に飛び乗り、一緒に図形を見遣った。
 
「なにかわかるか?」
 
スーは両手でバツを作ってわからないと表現した。
 
「これだけではわからないのかもしれないな」
 と、他の本棚も調べて見ることにした。
 
けれど、一先ず《3F》と書かれた本を机に置き、気になる本を片っ端から手に取っては調べてみたが、これと言ってなにかありそうだと感じる本は無かった。机に置いていた本を持ち上げ、とりあえず3階へ上がってみることにした。
 
シドがいると思っていたが誰もいない。部屋の中央に立ち、図形が描かれているページをもう一度見遣ると、赤いバツ印が浮かび上がっていた。宝箱と思われる四角の図形に重なるようにバツ印がある。
 
「…………」
 
ヴァイスは空の宝箱に近づき、しゃがみ込んだ。変わったところはないか調べたが、なにか仕掛けがあるようには見えない。そこで持ち上げてみることにした。
 
「…………?」
 
妙に重い。重いというより、床にくっついているようだった。しばらく触っていると、微かに横に動いた。持ち上げることは出来ないが、横にずらすことは出来るようだ。スーも手伝い、力任せに宝箱を押すと、宝箱の下に窪みがあり、1冊の本が入っていた。ページをめくるとこれも《3F》の本と同じようにちょうど真ん中のページにだけ図形が描かれている。今度は屋上を示しているようだ。
 
「ルイに知らせよう」
 
本を手に4階へ上がり、ルイに見つけた本を渡して流れを簡単に説明した。
 
「最終的になにが出てくるのか、楽しみですね。屋上へ行きましょう」
「俺はここで待つわ」
 と、シド。「どうせこの部屋にも来そうだしな」
「では行ってまいりますね」
 
ルイは5階へ上がると絵本を読んでいたカイに事の流れを説明し、屋上へ。ヴァイスも悩んだが、ついて上がることにした。
屋上に出ると本に描かれていた図形に印が浮かび上がった。
 
「これは……ベンチがある場所ですね」
 
ベンチの下など調べてみるが、何もない。宝箱のときのように動かせるかもしれないと思ったが、ビクともしなかった。
 
「困りましたね」
「ベンチか……座ってみるか?」
 2人はベンチに腰掛けてみた。すると。
 
ヨモギのような植物が植えられていたところに、突然ポンポンポンと赤い花が咲いた。立ち上がって近寄ってみると、無数に咲いた花の中に1冊の本があった。早速手に取り、ページをめくった。
 
「次は……1階ですね」
 
2人は1階へ下りる。空の宝箱が5つあり、図形を見遣るとその中のひとつにバツ印がついていた。右から2番目の宝箱だ。これも動かすのかと思ったが、空になっていたはずの宝箱の中に一冊の本が入っていた。
 
「次は4階か、5階か」
 と、ヴァイスは先を読む。
「これは……5階ですね」
 
カイは読んだ絵本を本棚に戻していると、またやってきたルイとヴァイスに「大変そうだねぇ」と声を掛けた。
 
「そうでもありませんよ、仕掛けは簡単ですから」
 と、本に書かれている5階の図形を見遣った。
 中央にあるベビーベッドにバツ印だ。
「ベビーベッドを調べましょう」
 下を覗き込み、動かしてみようと試みたがなにもない。
「カイさん、入ってもらえますか」
「いいけど赤ちゃんプレイはアールとしたい」
「早く上がってください」
 
渋々ベビーベッドに上がった。
 
「なにも起きませんね。布団の下になにかありませんか?」
 カイはベビーベッドから下りて布団をめくり上げた。なにもない。
「なーんもないけど」
「おかしいですね」
 
困り果てていると、突然スーがベビーベッドの上に降り立ち、天井を指差した。白い天井に、白い紙のようなものが張り付いている。
 
「あのようなものはなかったはずですが……」
「でかしたな」
 と、ヴァイス。スーは嬉しそうに拍手をした。
「図形には天井が描かれていないので気にもしませんでした」
 
ルイは結界を立て、天井にあったそれを手に取った。
てっきり4階の図形が描いてあると思いきや、記号が5つ並んでいるだけだった。
 
「なにこれ。暗号?」
 ルイが手に入れた紙に書かれている記号を見たカイは首を傾げた。
「わかりません。とりあえず、4階へ行きましょうか。シドさんにも見せたいですし、この流れで4階だけ調べていないのは不自然ですから」
 

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