voice of mind - by ルイランノキ


 無常の風15…『思い出』


私が先に首を撥ねたのか
ヴァイスが先に額に銃弾を撃ち込んだのか
 
本当は、どっちなの?
 
なんて、今も訊けずにいる。
 
きっと訊いても答えてはくれない。
 
ヴァイスは優しいから。

 
「お父さんは海に入らないの?」
 
小学生の頃、海水浴に来て母に訊いた。
 
「お父さんはあんまり泳ぐの好きじゃないみたいなの」
「ふーん」
 
ピンクの浮き輪に入って、私はプカプカと浮いていた。
姉は泳ぐのが得意で、浮き輪など無くても足が付かないところまで行って、帰ってくる。
 
「良子も浮かんでばっかいないで泳ぎなよ」
 と、テンションが上がった姉は私の浮き輪を乱暴に引っ張ったり押したりするから私は浮き輪から落ちそうになって怖かった。
  
家族で海水浴に行った思い出には、そこに父がいた、というだけの記憶。父がなにかをしてくれたとか、そういう記憶はない。
 
父は自ら家族サービスをするような人ではなかった。とはいっても、家族に興味がないわけではない。仕事人間なのだ。母からどこどこに連れて行ってよ、と言われてようやく休みの日に車を出してくれる父だった。
遊園地に行ったときの父との思い出はある。でもあまりいいものじゃない。
父は絶叫マシーンが好きだった。嫌がる私を面白がってジェットコースターに乗せたりした。もちろん私は大泣きで、結局父は姉と乗るようになって、私は母と買い物をしたり、観覧車やメリーゴーランドに乗ったりして楽しんだ。
 
父との思い出はあまりない。父との思い出があるのは、姉の方だ。姉の方が父と仲が良かった。父だけじゃない。母とも。なんでも話す親子だった。私は違う。
父は姉が好きだった。母もそう。私は出来が悪かったし、困らせてばかりで。
 
今思えば、母も本当はジェットコースターに乗りたかったんじゃないかと思う。でも私がいるから、乗れなかったんじゃないかなって。だって母から言い出したんだから。遊園地に行きたいねって……。
 
自転車の乗り方を教えてくれたのは祖父だったし、二人の思い出なんて、ほとんど無い。
怒られた記憶も無い。話しかければ普通に返してくれたし、私が殻に閉じこもっていただけ。ひとりだけ疎外感を感じていた。私だけ違う、そんな気がしていた。
 
父とはあまり会話もなかったけど、遊びに出ていて帰りが遅くなった日は、必ず迎えに来てくれていた。帰りにマックに寄ってハンバーガーを買って帰ったりした。
 
父の笑顔を思い出す。
そして、父の崩れた顔が浮かぶ。
 
ニッキの顔は父そのものだった。父の無残な姿を、私は見て、殺したのだ。
 

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©Kamikawa
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