voice of mind - by ルイランノキ


 無常の風2…『お見舞い』 ◆

 
アールは航空機の中で手紙を読んだ。
 
《 アール様
この度は母のことでご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
母はあれから目を覚まし、私と会話を楽しんでおります。
母はアールさんに感謝しておりました。現状から抜け出さなければならないことは本人が一番わかっていたようですが、きっかけが掴めなかったそうです。
これからのことですが、きちんと母の心と向き合い、話し合っていこうと思っております。兄や父の問題もありますが、解決に向かっていけたらと思う次第です。
 
ペオーニア国はどうでしたか?
少しは楽しんでいただけましたでしょうか。
 
皆様の旅のご無事をお祈りしております。
またいつでもご連絡ください。
 
 シラコ》
 
━━━━━━━━━━━
 
──ゼフィール国。パウゼ町。
 
宿はチェックアウトしていなかったため、ルイは一度宿に戻ってオーナーに戻ったことを伝えた。アール、カイ、ヴァイスはゲートからそのまま病院へ向かい、シドの顔を見に行った。
 
「シドおまたー!」
 と、カイは病室のドアをいきおいよく開けたが、「うるせえな!」と飛び起きてくれることもなく、ゼフィール国を離れる前と変わらずシドは眠っていた。
「まーだ寝てるよ。俺じゃないんだから」
 と、カイはムッとする。
「調子はどう?」
 アールはベッドに寝ているシドに声を掛けながら、壁に立てかけてあったパイプ椅子を4つ出した。ルイも後からすぐに来る予定だ。
「いいわけないじゃんねー」
 カイはそう言って、椅子をシドの枕元の近くまで移動させて座った。
「そりゃそうだけど……」
「シドぉ、ペオーニアに行ってきたんだ。寒くて寒くて寒いことが一番の思い出だよ」
「数時間前まで雪国にいたとは思えないよね」
「ちょー寒かったねぇ。あ、氷の彫刻! 案外凄かったんだ! シドも見てたらびっくりしたと思うよー」
 
アールはあまり寝ていないため、大きな欠伸をした。
 
「アール、疲れているだろう。宿に戻ったらどうだ?」
 と、ヴァイスが声を掛けた。
「うん……そうしようかな。夕方からちょっとVRCに行きたいし」
「へ?! なんでさ」
 と、カイ。
「体が鈍ってるから。今ダムボーラが現れたらとび蹴りされて吹っ飛ぶ自信ある……」
「俺も行きたいところだけど、シドが寂しいだろうからやめとくね」
 と、シドを見つめる。
「シドなら『行けよ』って言うと思うよ」
 と、立ち上がり、パイプ椅子を畳んだ。
「私も行こう」
 ヴァイスも立ち上がると、カイは素早く二人を見遣った。
「やっぱなんかあったでしょ……二人……おホテルで」
「ないってば……しつこいから」
 アールはヴァイスの椅子も畳み、壁に立てかけた。出しておいたルイの椅子はベッドの横に移動させておいた。
「じゃあなにかあったら連絡してね」
 と、病室を出るアール。
 ヴァイスも出て行こうとしたが、カイが呼び止めた。
「ちょい待ち!」
「……なんだ」
「誘導尋問をはじめる!」
「先行くよー?」
 と、病室の外からアールの声がした。
「誘導尋問?」
 ヴァイスは腕を組み、壁に寄りかかった。
 カイは立ち上がると、人差し指を立てながら静かにヴァイスに歩み寄った。
「あなたと、アールは、ラブホテルに一泊した。それは間違いのない事実だね?」
「結果的にはな」
「そのときあなたは何事もなかったと言った。果たしてそれは本当か嘘か」
 と、ヴァイスの目の前で立ち止まると、人差し指をヴァイスに向けた。
「嘘をついてどうする」
「ん? ちょい待ち。ってことはだ、実際になにかあったらそう証言するということかね?」
「わざわざ言う必要性はないだろう」
「?! やっぱなんかあったんだー!!」
 はぁ、と、ヴァイスは深いため息をこぼした。
「人の話を聞け」
「だってさぁ、だってだ、そのようなおホテルに大人の男女が二人きりで泊まったら何事も無い方がおかしい!」
「仲間同士で入ったところでなにも起きんだろう」
「そぉーかなぁ? 俺はそうは思わない!」
 と、カイは病室内を歩き回る。
「…………」
「俺だったらアールが最初は気づかずに入ったとしても! 俺だったら、俺だったら意識するけどね!」
「…………」
「ルイだってきっとそうさ!」と勢いよく振り返る。「ルイは純粋だからね! きっと目も合わせらんないよ!」
「…………」
「ちょいちょい、アールは途中で気がついたんだよね?」
 と、再びヴァイスの前に歩み寄った。
「…………」
「アールの反応はいかに?」
「…………」
 ヴァイスはアールが異常なまでに動揺していたのを思い出し、かすかに笑った。
「え、なにその気づく人は気づくくらいのかすかな笑みは」
「いや……」
 と、目を逸らす。
「アールは俺たちより大人だけど心が純粋だよ……動揺しないわけがない」
「まぁな」
「で、どうだったの?」
 と、ヴァイスの顔を見上げる。
「知りたいのか」
「俺が想像するに、すんごく可愛いアールがそこにいるんだけど」
「……否定はしないが」
 あの動揺ぶりを見せ付けられるとどうも煽られる。
「何事も無いなんてさぁ、俺だったら悶々として眠れないよ!」
「高熱だったからな。もういいか?」
 と、組んでいた腕を解いた。
「ちょいちょい、熱なかったら?」
「熱があろうがなかろうが、手は出さん」
「大人同士なのにぃ?」
「大人同士だからだ。」
 

 
ヴァイスはうんざりしたように、部屋を出て行った。
カイはムッと口を尖らせて、椅子に座った。
 
「シド、シドだったらどーする? 俺もしもアールに迫られたらアウトだと思う。アールはそういう女の子じゃないからなんとか耐え切れるけどさぁ」
「…………」
「あ、最初から説明しようか? あのね」
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -