voice of mind - by ルイランノキ


 身辺多忙11…『助っ人』

 
「?!!! ……!!」
 
ルヴィエールに移動したアールは目を輝かせた。歩道の端に《メロンフェス開催中!》というのぼり旗が立っている。迷わずメロンフェスが行われている店へと直行。ルヴィエールに来て正解だったと胸を弾ませた。
 
──が、アールの表情は少しずつ曇っていった。行列にまず心が折れそうになる。それでもお店から漂ってくるメロンの甘い香りに心を躍らせ、最後尾に並んだ。暫く並んでいると、アウェー感に気がついた。アールは「あれ……?」と、前後を見遣る。気のせいだろうか、カップルが多い。
 
「後ろの人さ、一人じゃない?」
 と、前のカップルの女性が小声で言ったが、聞こえている。
「後から来るんじゃね?」
「えーでもさ、格好やばいんだけど」
 カップルは自然を装って後ろを振り返り、アールを服装、つなぎの防護服を見遣った。
「やば」
 と、男が笑う。
「でしょー?」
 
「…………」
 
最悪だ。と、アールは思った。ちょうどのぼり旗が目の前にあったため、念のためにもう一度見直したがどこにも“カップル限定”とは書いていない。長い間待たされた挙句にカップルしか入れませんと言われたらキレてやろうと思ったが、店の前まで来たときに改めて詳しく書かれているメロンフェスのポスターを見て納得。《カップルでお越しの方は30%OFF! いちごフェスにてスタンプを貰った方は更に10%OFF!》と書いている。
 
今からでもカイに電話をしようか、と頭を過ぎった。カイならすぐに飛んで来てくれそうだけれど、今はシドの側にいたいだろうか……。そんなことを考えていると、だんだんと気分が落ちていった。自分だけ、なにやっているんだろう。
 
「次の方ー」
 と、メロンの帽子を被った女性店員がアールに声を掛けた。
「あ、はい」
「えーっと、お連れの方は?」
「あ……私はひとりです」
「おひとりー…ですか?」
「ダメですか……?」
「あーいえ、ダメではないんですけどぉ……」
 と、店員は苦笑い。
 その対応に完全に心が折れる寸前だったのを、完全に折ったのは後ろに並んでいるカップルだった。
「ひとりって」
 と、笑う。「メンタル強すぎだろ!」
「笑っちゃ失礼だってぇ」
「…………」
 心が折れて崩れていくその音が耳鳴りとして聞こえたような気がした。
「周りはカップルばかりなんですよぉ、カップルで来ていただけると30%OFFになるんです」
「それは知ってます……。でもカップルじゃないと入れないわけじゃないんですよね?」
 と、言いながら、なんで私の方がクレーマーみたいになっているの?と思う。
「一緒に行ってくれる奴いなかったんじゃね」
 と、後ろの男がバカにしながら言った言葉にカチンと来て後ろを振り返ると、ヴァイスが立っていた。
「遅くなってすまない。ふたりなら問題ないか?」
 と、ヴァイスは女店員に訊く。
「あ……はい。どうぞ、奥の席へ……」
「ヴァイス! なんでここにいるの!?」
 アールが驚いていると、別の店員に促されて奥の席の窓際に座らせられた。
「なんでいるの?」
 と、訊きなおしたが、店員が横からメニューを出してきた。
「お決まりになりましたら、そちらのベルでお呼びください」
「あ、はい。──ねぇなんでここにいるの?」
 と、これで訊くのは三度目だ。
 
ヴァイスは店内の雰囲気に圧倒されていた。スイーツ店というだけあって店内はカラフルで可愛らしいデザインになっている。いかにも女性が好みそうな店だ。尚且つカップル客が多く、騒がしい。
 
「……心配して来てくれたの?」
 と、アール。
「……暇つぶしだ」
「…………」
 ヴァイスは窓の外を眺めたが、窓の外は行列が出来ていて視界を塞いでいる。
「ごめんね、せっかく来てくれたのによりにもよってこんな……ヴァイスが苦手そうな……」
 と、周囲を見遣り、カップルの視線を感じた。ルヴィエールはお洒落な人が多い。自分たちが浮いていることに気づいた。特に着飾った女の子が沢山いる中で、自分はひどいものだった。腰に剣を挿していればまだ“外から来た人”として納得してくれそうだが。
「ヴァイスごめん……帰る? 恥ずかしいでしょ? 私こんなだし……」
 と、視線を落とすアールに、ヴァイスはメニューを開いてアールに渡した。
「食べたかったのだろう?」
「食べたいけど……超食べたい」
 メニュー一覧の写真を見て、ごくりと喉を鳴らした。
「ごめんね、すぐ選んでなるべく早く食べ終えるから! あーでもどうしようどれも美味しそう!」
 
メニューのページをめくっては前のページに戻したりと慌てて選ぼうとしている姿をヴァイスは背もたれに寄りかかって眺めた。アールはふたつに絞ったのかめろめろメロンパフェとメロンのお布団パンケーキを交互に見遣り、決めかねている。
 
「ヴァイスも食べるでしょ?」
「いや」
「……そう」
 少しがっかりしたように言い、再びメニューに目を向けるアールは無意識に腕を擦った。
「…………」
 アールの髪が揺れている。頭上を見遣ると、クーラーが直接彼女に当たっているようだった。
「んー…んー…メロンー…メロンのお布団パンケーキにする! 飲み物はいる?」
 と、決めたアール。
「頂こう」
「メロンジュース、メロンソーダ、メロンティー、メロンサワー、メロン──」
「メロンしかないのか……」
「ううん、メロン以外もあるけど……メロン美味しいよ? コーヒーにする?」
「そうしてくれ」
「メロン嫌いなの? アイス? ホット?」
「アイスコーヒーを」
「メロン嫌いなの?」
 と、もう一度訊いた。ヴァイスに質問するときはひとつずつするべきだと思いながら。
「嫌いではない」
「フルーツは何が好き?」
 アールはベルを鳴らした。
「…………」
「メロン、いちご、みかん、バナナ、ぶどう、ナシ、パイナップル、もも……スイカ……あとはー…マンゴー、りんご……とか色々あるけど」
「…………」
「お待たせいたしました」
 と、ヴァイスが答える前に店員が注文を取りにやってきた。
「あ、えーっと、メロンのお布団パンケーキと、アイスコーヒーとホットコーヒーを」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
 と、店員が去って行く。
「アール」
「ん?」
「席を換わろう」
 と、席を立つ。
「え? あ、うん」
 言われるがまま席を換わると、ヴァイスが座っていた場所はクーラーの風が来なかった。
「寒くないか?」
「……あ、うん! ありがとう」
 と、アールは嬉しそうに笑った。
 
パンケーキは写真で見た感じよりも大きく、分厚かった。それにメロン風味のパンケーキの上にはアイスとメロン以外のフルーツも乗っている。店員の気遣いなのか予備のお皿と、二人分のナイフとフォークも運ばれてきた。
 
「ご注文は以上でよろしいですか?」
「はい」
「ではごゆっくり」
 
アールはナイフとフォークを握ってパンケーキを眺めた。食べ応えがありそうだ!
 
「少し食べない? 無理強いはしないけど……」
「…………」
 ヴァイスはパンケーキを見遣った。
「甘いもの嫌い? 頑張って食べよっと」
 と、パンケーキを食べやすい大きさに切った。
「食べれそうに無ければ頂こう」
 と、コーヒーを飲む。
「ありがとう!」
 一口大に切ったパンケーキの上にフルーツを乗せて、口に運んだ。
「んーっ!?」
 と、あまりの美味しさに震えた。「こえふあいお!」
「……うまいか」
 と、解読。
 

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©Kamikawa
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