voice of mind - by ルイランノキ |
「じゃー今頃アールとヴァイスんはふたりでお食事ってわけ? ふたりで。ふたりきりで」
と、ヒラリーたちがいなくなった病室でカイはふて腐れた。
「モーメルさんの家へ行かれたので、もしかしたらモーメルさんも一緒かもしれませんし、スーさんも一緒かもしれませんよ」
ルイはお姉さんたちが座っていたパイプ椅子をたたみながら言った。
「…………」
カイはシドが眠るベッドに顔を伏せた。
「すみません……勝手に決めてしまって」
「別にいいけどさー。俺なんかヴァイスとアールのコンビ好きじゃないんだよねー」
「なぜです?」
「危ういから!」
と、顔を上げる。
「危うい?」
ルイはたたんだパイプ椅子を端に寄せてから、自分の椅子に座った。
「アールってさー…」
「はい」
「ヴァイスのこと好きだよね」
「……え?」
ドクンとルイの心臓が鳴った。
「まぁ俺のことのほうがもっと好きだろうけどさぁ」
と、カイは欠伸をした。
カイも感じていたのかと、ルイは動揺した。彼女は恐らく彼に特別な感情を抱いている。その感情が彼女の心の中の、どれだけの範囲を占めているのかはわからない。本人も気づいていないほど小さなものかもしれないけれど。
「迫って来てる気がするんだ。俺の次に、ヴァイスんが!」
と、険しい表情を向けた。
「それは……アールさんがカイさんの次にヴァイスさんを好き、ということですか?」
「あ、嫉妬しないでね? もちろんアールはルイのことも好きだろうけどさぁ、俺って結構鋭いと思うんだよねー。誰が誰を好き的なことに!」
「…………」
ルイは複雑そうに微笑んだ。
「アールの中で一番は俺、二番は……最近ヴァイスが上がってきた感じ」
「それまでは誰が二番に?」
「二番から三番に落ちたのはー、シド」
「…………」
一番は自分だと言い張るカイの予想とはいえ、少し複雑だ。
「ほら、喧嘩するほどなんとかって言うじゃん?」
「えぇ……確かにシェラさんも二人の仲を気にかけていたことがありました」
そのとき自分は、仲間内の恋愛は困ると言った。そんな自分が今、恋心を抱いてしまっている。
ルイは小さなため息をついた。
「ルイは三番ね」
「三番ですか……」
「ルイはねぇ、優しいけど誰にでもそうだからさぁ。あと、男らしさが足りないよ」
「……なるほど」
と、納得させられる。
「俺もそんなに無いけどね、でも俺みたいなのには男らしさは必要ないの。顔がかっこいいから。顔でカバーしているからね」
「…………」
「顔がかっこいい人がかっこつけたってくどくなるだけだからねぇ。それに俺の良さは男らしさよりも可愛さなんだ。俺の売りは可愛さと愛嬌、そこにこのかっこいい顔。男らしさが入ってしまったら俺じゃなくなっちゃう。俺の良さが死んじゃう。わかる?」
「自己プロデュースがすばらしいですね」
そう言いながら、眠り続けているシドがカイに突っ込みたくてウズウズしているように見えた。
「ルイの良さは爽やかさと優しさ。まぁ顔もいいけどどっちかっていうと女の子みたいな顔じゃん? だから男らしさをたまに出すと、女の子はきゅんと来るんじゃないかなぁ。女の子ってねぇ、女の子っていうだけで周りから優しくされてきてるんだ。特にずばぬけて可愛い子はもちろんだけど、普通くらいの子も大抵は男子から優しくされてるんだ。なにが言いたいかっていうとね、優しい人なんて女の子の周りには沢山いるから優しさというものは武器にはならないってことだよ」
「…………」
「よくさ、優しいってよく言われます!とか優しさには自信があります!って自分でアピールしてる奴いたりするけど、女の子からしてみたら優しさなんて“当たり前”なんだよ。男が優しいのは当たり前であるべきことなんだ」
「語りますね……」
「だからね、優しいだけの男は“いい人どまり”でおしまい。異性として意識してもらうにはただ優しいのではなくって“男らしい優しさ”であるべきなんだ」
「勉強になります」
優しさを売りにしたことはないけれど。
「男らしい優しさについては自分で調べてみてよ。俺からアドバイスできるのはこれくらいかなー」
カイのウザさが増しているが、優しいルイはそんなカイを見ても「元気が戻ってよかった」と思うだけだった。シドを眺めながら、以前のようにまたふざけ合いながらも旅が出来たらいいなと思う。けれど……と、ルイは眉間にしわを寄せた。
シドはアールによってベンの正体を知った。ベンを敵として見做し、その命を奪った。組織はそんなシドを不要として見做し、死をもって組織から追放しようとした。最期を悟ったシドは自分の思いを口にした──
信じたいものが壊れていくのが怖くてしょうがなかったんだ……
だから
自分の弱さを隠すための嘘はいくらでもついたし
長いものに巻かれてきたんだ
自分を保つために
お前等を信じきれなかったのは俺の弱さだ……なんで……なんで俺は間違ったんだろうな……
それらがなにを意味するのか。組織を選んだことへの後悔と取れる。
「シドさんはアールさんに、『世界中の笑顔はお前の手の中にある』と、タケルさんが残した言葉を自らの言葉に変えて言いました。彼は、組織ではなく、アールさんを信じてる。彼女がこの世界の笑顔を守るんだと」
「うん。俺も信じてる」
「僕もです。何を聞かされても、どんな真実が待っていようとも、彼女が世界を守る救世主だと思っています」
「楽しみだねぇ。世界平和」
と、カイは背伸びをした。
Thank you... |