voice of mind - by ルイランノキ


 身辺多忙9…『招待』

 
「わかりました。僕はカイさんが満足するまで病院にいます。恐らく面会時間ぎりぎりまでいると思いますので、お昼ご飯と夕飯はそちらで食べてもらえますか?」
 と、ルイは病院の外でアールからの電話を受けていた。
『いいけど二人は?』
「病院の食堂でいただきます」
『そっか、わかった。シドになにかあったらすぐに教えてね』
「はい。今シドさんのお姉さんたちが来ているのですが、ヒラリーさんがアールさんにお会いしたいと言っています。いつでもいいそうですが……」
『そう……』
「謝りたいそうです」
 アールの声が沈んでいるのを察して、そう伝えた。
『謝る……? 謝られるようなことしてないのに……』
「一度、ゆっくり話してみてはいかがしょうか。気まずいままでいるよりはいいかと」
『うん、そうする。ありがとう』
 
ルイは電話を切り、病室に戻ろうとドアに手をかけたとき、中からヒラリーたちの笑い声が聞こえてきた。
 
「失礼します」
 と、病室に入るとエレーナが笑いながら手招きをした。
「ねぇ梨むいたから食べない? ていうか聞いてよ、シドの子供の頃の話で盛り上がってたんだけどさぁ」
「いただきます」
 カイをチラリと見遣ると、笑顔が戻っていてホッとした。ヒラリーがお皿に乗せた梨をルイに差し出し、ルイは爪楊枝が刺さっている梨を一切れ貰った。
「子供の頃の話というのは?」
「ルイ苦手なジャンルだよ」
 と、カイも梨を食べている。
「というと……」
「エロ本エロ本!」
 と、壁に寄りかかって立っているヤーナが言った。「見つけたって話」
「あるときね、ヒラリー姉さんが深刻な顔をして私たちに相談があるっていうから何事かと思ったら、シドのベッドの下からエロ本が出てきたらしくてどうしようって困りながら相談してきたことがあったのよ。そのときヤーナと大爆笑しちゃって」
 エレーナは思い出しながら笑いを堪えた。
「だって……男の子の事よくわからなかったしまだ早いんじゃないかと思ったのよ……」
「いやいや、普通だって! 健康な証拠!」
 と、ヤーナは笑う。
 
ルイは困ったように笑いながら梨をかじった。
 
「ルイはいつからそういうのに興味持ち始めたわけ?」
 エレーナはパイプ椅子に座っており、脚を組み替えながら言った。
「僕はあまりそういうものは……」
「うそばっか。男が好きなわけじゃないんでしょ? だったら普通興味持つでしょー?」
「やめなさいよ」
 と、ヒラリー。「困ってるじゃない」
「ルイってヒラリーに似てるわよね。こういう話が苦手なところとか」
「お似合いかもね」
 と、ヤーナは梨に手を伸ばした。
「ヒラリー姉さんとルイができたらシドはルイの義理の弟になるわけだ」
「変な冗談言わないの」
 と、ヒラリーは困惑する。
「ルイがもう少し大人だったらよかったのにねぇ。今何歳だっけ?」
「17です」
「17と28かぁ。一回り違うわね。でもルイが20代になればあまり変わらなくなるのかも」
「俺、それ、全力で阻止したい」
 と、少し遠慮がちにカイは言った。
「あら、ルイとシドが義兄弟になるの嫌? じゃあカイも兄弟になっちゃう?」
「よしなさいったら」
 ヒラリーは強めに言い、カイに梨を差し出しておかわりを勧めた。
「冗談よ。まったく、昔から冗談が通じないんだから」
「いただきます」
 と、カイはもう一切れ梨を貰った。

カイはお姉さん達と会ったことで、肩の荷が下りたようだった。カイはシドの腕を斬り落としてしまったことを謝ったが、お姉さんたちは誰ひとりカイを責めたりせず、助けてくれたことへの礼を返した。そして、こうなったのも自分が撒いた種だ、自業自得と言って笑った。
シドの意識も、そのうち戻るだろうと信じてやまなかった。だから自然と笑顔もこぼれたのだろう。
 
「お昼どうしますか?」
 と、ルイはカイに訊いた。
「梨食べたからまだいいや」
「そうですね」
 と、同意したルイの携帯電話がまた鳴った。
「またアール? 俺にはかけてくれないなんて」
「──いえ、シラコさんです。すみませんがまた少し席を外しますね」
 ルイは立ち上がり、病室を出た。
「いちいち外に出てくの面倒くさくないのかなぁ」
「携帯電話って便利そうだけどめんどくさそうだね」
 と、ヤーナは言った。
「わたしも携帯電話はいらないかなー」
 と、エレーナ。「簡単に捕まる女にはなりたくないし?」
「んなこと言ってたら簡単に捕まる女に乗り換えられるよ」
「簡単に捕まる女なんてつまんないじゃない」
「どうかな。男に追いかけられたいのはわからなくもないけど、ずっと追いかける方もしんどいでしょ」
「カイはどっちがいい?」
 と、エレーナ。
「んー、俺っちはどっちも」
「全然参考にならないわね」
 
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ルイは病院を出てシラコに折り返しの電話を掛けた。
 
『ルイさん、すみませんお忙しいときに』
 と、電話に出たシラコ。
「いえ、こちらこそすぐに出られず、申し訳ありません。なにか御用でしょうか」
『少し頼まれてほしいことがありまして。ただ、無理にとはいいません』
「なんでしょう」
『私の兄が氷の彫刻の展示会を行うのですが、肩書きを隠して趣味の範囲で行っていることもあり、恥ずかしながら人が集まらないとのことで。お時間があればご招待させていただきたいのですが』
「氷の彫刻ですか! アールさんが興味を持ちそうですね」
『人数に制限はありませんのでぜひ皆様でいらしてください。明日から一週間開催しております。ご連絡くだされば、使用人に迎えを行かせますので。もちろん、交通費等はこちらが負担させていただきます』
「わかりました。相談してみますね」
『それと別途に少しご相談したことが』
「なんでしょう?」
 
ルイはシラコと暫く話をして電話を切ったあと、シドの意識が戻らない今、こういったイベントに顔を出す気になれるだろうかと、カイやアールのことを思った。けれどここ最近は特に神経をすり減らすことが多くあった。心身共に疲れている今、気を休ませる時間も必要に思う。
ただ、向こうはとても寒い国だ。行くとしたら風邪を引かないようにしなければ。

ルイはアールに電話をかけようと思ったが、急ぎの用ではないため、メールを打つことにした。

【シラコさんから連絡がありました。彼のお兄さんが氷の彫刻展示会を行うそうです。ご招待をいただいたのですが、気晴らしにどうでしょうか】

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