voice of mind - by ルイランノキ


 身辺多忙8…『秘密の話』

 
コテツを待っていたアールだったが、廊下からリアが歩いてくるのが見えて思わず声を掛けた。
 
「あれ? リアさん!」
 部屋から身を出して手を振ると、アールに気づいたリアは小走りで近づいてきた。
「アールちゃん! 来てたの? ──あら?」
 と、ヴァイスに気づく。
「あ、こちらヴァイス。仲間の」
「こんにちは」
 リアが笑顔を向けると、ヴァイスは組んでいた腕を解いて頭を下げた。
「無口なの」
 と、お決まりのフォロー。
「そう、なんだか頼りになりそうな方ね」
 と、微笑む。
「ね、綺麗でしょ?」
 アールがヴァイスを見上げると、
「そうだな」
 と、短く答えた。
「あら、私のこと?」
 と、お茶目なリア。
「当たり! ──リアさん、今忙しいんですよね?」
「えぇ、そうなの。人手が足りなくて。アールちゃんはどうしたの?」
 
アールはコテツに頼んでおいたが、せっかく会えたのだからと自分の口からシドのことを話し、タケルの私物を持ってきたことを話した。
 
「そうだったの……」
 リアはデリックと違い、シドの安否を気にかけて酷く困惑した。
「でも、みんなシドの意識が戻るって信じています」
「うん、私もそう思うわ」
「アールさーん」
 と、廊下の奥からコテツが走ってくる。
「あ、ちょっとごめんなさい」
 アールはリアの横を通ってコテツに歩み寄った。ふたりの前で薬を受け取るところは見せたくなかったからだ。
 
リアはヴァイスに目を向けた。
 
「ハイマトス族よね」
「……あぁ」
「城を襲った組織の中にも、ハイマトス族がいたようなの。なにかご存知?」
「……かつて私の村を焼き殺した犯人だった」
「焼き殺した?」
 と、険しい表情を向ける。
「既に解決したことだ」
 ヴァイスはそう言って再び腕を組んだ。
「彼らとは仲間ではない……という解釈でいいのかしら」
「あぁ」
「…………」
「…………」
 リアは廊下の奥にいるアールに目を向けた。
「なにか受け取っているわ。なにかしら」
「…………」
「あたなには見せられないもの?」
「どうだろうな」
 と、壁に寄りかかる。
「旅でのアールちゃんの様子はどう? あまり一人にさせないでね」
「……一人を好むときがある」
「でも、なるべく側にいてあげて。誰か側にいて欲しいときにすぐに駆けつけてあげられる距離にいてあげてほしいの」
「…………」
「あの子は、けっして強くない」
 リアはそう言ってヴァイスを見据えた。
「知っている」
「…………」
「彼女の強さも弱さも、知っている」
「そう……アールちゃんからなにか相談でも受けた? 年上だものね」
「私は話を聞くだけだ」
「…………」
 リアは足元に視線を落としているヴァイスを暫く眺め、はっと気づいた。
「わかった! あなた、不器用さんね」
「…………」
 ヴァイスは少し困惑した表情でリアを見遣った。
「物事に対してあまり興味ないようで、実は誰よりも興味を示している。……当たった?」
「…………」
 どちらとも言えない。
「あら、外れ? コテツくんから心理学の本を貰ったのよ。面白そうだったから眠れないときに少し読んだんだけど、人を分析するのって難しいわね」
「…………」
「あ、私のことはリアって呼んでね? ルイくんたちにもそう言ったんだけど、呼び捨てで呼んでくれるのはシドくんだけね」
「…………」
「あなたのことはなんて呼んだらいいかしら」
「…………」
「本当に無口なのね。みんなのことは君付けだけどあなたのほうが年上みたいだからさん付けでいいかしら」
「あぁ」
「アールちゃん話し込んでるみたいね。私そろそろ行かないと。アールちゃんにまたシドくんのことでなにかあったら連絡するよう伝えてもらえる? お願いね」
 と、背を向けた。
「リア」
「はい?」
「アールは元の世界に帰るのか?」
「…………」
「…………」
 リアは即答できず、目を泳がせた。
「ごめんなさい。私には……わからないの。父に聞けばきっと『もちろんだ』って答えると思うわ」
「…………」
 
リアはヴァイスに頭を下げ、アールがいる反対方向へと急ぎ足で去っていった。
暫くして、薬を受け取ったアールはコテツに別れを告げて部屋に戻ってきた。
 
「リアさんは?」
「用があるらしい。また連絡くれとのことだ」
「そう……。なにか話した?」
「いや」
「そう言うと思った。なにか話してても『いや』って」
「お前は何を話していた」
「私は……これからのことを少し相談してた。シドがなかなか起きてくれなかったらどうしようって。いつまで待つか決めて、その間に溜まっている用事があったら済ませておくといいってさ。私、エイミーさんに連絡しなきゃいけないからタケルの武器をモーメルさんに預けたらエイミーさんに連絡してみようと思うの」
「エイミー…?」
 誰だっただろう。
「ほら、話さなかったっけ、歌手の。私の世界の歌を知っていた人」
「あぁ。会いに行くのか?」
「まだわかんない。忙しいだろうから、一応電話だけしてみて会えそうなら会ってみる」
「…………」
「そのときは一緒に来てくれる?」
「かまわんが」
「ありがと!」
 
アールとヴァイスは一先ずルイに連絡を入れてからモーメルの家へと向うことにした。
 

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©Kamikawa
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