voice of mind - by ルイランノキ


 身辺多忙6…『いつまで』

 
リビングで携帯電話を片手に黙って話を聞いているのはヒラリーだった。ヒラリーを囲うようにエレーナとヤーナが立っている。
 
「わかりました……ご連絡ありがとう」
 電話を切り、視線を落とした。
「ルイ、なんだって?」
 と、ヤーナ。
「シドが意識不明で入院してるって」
「どういうこと?」
「誤解の無いようにって、なにがあったのか事細かく話してくれたわ」
 
ヒラリーはルイから聞いた話を、二人に伝えた。アールが取った行動、それによってベンとシドが一騎打ちになったこと、ベンはシドによって殺されたこと、その後の流れも、組織によって消されそうになったシドをカイが助けるために腕を斬り落としたことも。
それを聞いた二人はなにも言えずに言葉をつぐんだ。
 
「病院の場所聞いたから行ってくるわね」
 と、苦笑しながらヒラリーは立ち上がった。
「私たちも行くわよ」
 と、エレーナが立ち上がると、ヤーナも立ち上がった。
「でも……カイくんがまだいるみたいなの。私は彼を責めるつもりはないわ」
「それは私らだって」
 ヤーナは腕を組んだ。
「笑顔でいられる? 片腕の無いシドを前に」
「…………」
「助けてくれてありがとうって、笑顔で言える?」
「…………」
 ヤーナはエレーナと顔を見合わせた。
「言えるよ」
 ヤーナが言うと、エレーナも頷いた。
「そう、なら一緒に」
「アールは? いないの……?」
「アールちゃんはシドの様子を見に来た後、用があってゼフィル城へ行ったって。私……彼女にも謝りたい。電話で酷い言い方しちゃったから……」
「そのときは付き合うよ」
 ヤーナはヒラリーの肩に手を置いた。
「ありがとう」
「帰りにマグカップ買って帰りましょうよ」
 エレーナはそう言ってテレビをつけた。病院がある地域の天気予報を確認する。
「それもいいわね」
 
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ルイはヒラリーへの連絡を終えると、病室に戻った。カイが鼻をすすりながら涙をぬぐっていた。
 
「ヒラリーさん達がこれからお見えになるそうです」
「え……」
 カイは不安げにルイを見遣った。
「大丈夫です、きちんと全て説明しておきましたから」
「…………」
 それでも心が落ち着かない。
「カイさん、言い忘れていましたが、シドさんを助けてくださってありがとうございました」
 と、ルイはカイの隣に座った。
「……咄嗟に体が動いたんだ。どうしようどうしようって思ってたんだけど、アールが……助けてって叫んだから。アールの剣が目に入って、もしかしたら属印がある腕を落としたら助かるんじゃないかって思ったみたい」
「みたい?」
「自分でもびっくりするくらい咄嗟だったから。突発的っていうの? 冷静になって自分の行動を思い返してみたら、アールの声がきっかけだったなーって」
「僕もアールさんが叫んだとき、シドさんにロッドを向けていたんですよ……組織に殺されるくらいならと、シオンさんのときのアールさんのように思ったのでしょう」
「そうなの……?」
「カイさんの方が行動が早くて助かりました」
「……そういえばルイ、あのときシドを結界で囲んだよね? あれ、なんで?」
「あの一瞬の間に僕の頭の中でいろんなことが過ぎりました。カイさんが腕を斬り落としたとき、カイさんがなぜそういう行動に出たのかすぐにわかりました。でも、果たしてそれでシドさんが助かるかどうかはわからなかった。仮に助からなかったら……。僕は組織の人間が粉々に飛び散った姿を目の前で見たことがあるのです……。どれだけ広範囲に飛び散ってしまうのか、知っているのです。バラバラに破裂した身体の全てをかき集めるのは不可能なことも……」
 ルイはこれ以上、話さなかった。
 
腕だけでもシドの皮膚は広範囲に飛び散って、離れた場所にいたアールに降り注いだのだ。もしも身体ごと爆発していたらアールはシドの肉片にまみれていたところだろう。ルイはそれも防ぎたかったのだ。
 
「シド、いつ目を覚ますんだろう……いつまで待てる?」
「…………」
 
ルイはシドの寝顔を眺めた。確かにそうだ。いつまで待てるだろう。このまま待ち続けるわけにはいかない。シドを置いて旅を再開することも考えなくてはならないのだ。
 

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