voice of mind - by ルイランノキ |
シドは暫くタケルの小さなアーム玉を見つめていた。
カイはそんなシドの横顔を眺め、意を決して訊きたかったことを口にした。
「ねぇシド……シドは俺たちの敵なの?」
「…………」
シドはタケルのアーム玉を見つめたまま、なにも答えない。
すると、ルイが口を開いた。
「戻ってきてください」
その言葉にようやく顔を上げたシドだったが、その表情は酷く曇っていた。
その意味をすぐに知ることになる。
「俺は……」
自分の思いを、口に出そうとしたときだった。シドの二の腕にある属印が光を放ち始めた。
「シドさん……」
ルイたちは顔を青ざめた。
「シド……やだよ……シド!!」
カイはシドにしがみ付いた。やっと、やっと和解し合えると思ったのに。シドを連れて行くなと言わんばかりにシドにしがみ付いて離れなかった。
「離れろ。お前まで吹っ飛ぶ」
「やだ……やだよ!! ずっと一緒だろ?! 俺シドがいないとつまんないよ!! シドいない間ずっと我慢してたんだ!! もう我慢したくないよ! いかないでよ!!」
カイの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
シド
「ルイ……引き離せ」
シドはルイにそう言った。けれど、ルイもその場から動けずにいた。
「カイまで死ぬぞ」
にらむようにそう言われ、ルイはカイの腕を掴んだ。けれど、カイは絶対にシドから離れまいとシドを離さなかった。
あなたの泣いた顔を
あの日 はじめて見たんだ。
「言いたいことあるなら聞いてやるから、離れろ。奴等も、面白がって見てるんだろうからな。言葉を交わす時間くらい、くれるだろ……」
「ヴァイスさんっ!! 手を貸してくださいっ!!」
ルイは自分ひとりではカイをシドから引き離せないと思い、ヴァイスに助けを求めた。
いつも無表情が多いヴァイスも
このときばかりは険しい表情だった。
「カイ。一緒に死ぬ気か」
と、ヴァイスも手を貸した。
「死ぬ! 死ぬ!」
子供のように泣きじゃくるカイに、シドは言った。
「お前の役目はまだ終わってねぇだろ」
カイは強引にシドから引き離され、泣きながらシドを見遣った。
「守るんだろ? チビ女を」
シドは悔しそうに属印を爪で引っ掻いた。爪が皮膚を裂いて、血が流れた。
そして
「俺は……俺は本当は……」
いつだって強気でいたシドの
あんなにも泣いた姿を
私は忘れることができない。
「一番弱い……。怖くてたまらなかった……。信じたいものが壊れていくのが怖くてしょうがなかったんだ……だから」
だから
自分の弱さを隠すための嘘はいくらでもついたし
長いものに巻かれてきたんだ
自分を保つために
シドはそう言った。
あの日はじめて、シドの弱さを知った。
「お前等を信じきれなかったのは俺の弱さだ……なんで……なんで俺は間違ったんだろうな……」
そして
シドの思いを知った。
属印の光が強くなり、シドは観念したのか笑って、アールを見遣った。
「世界中の笑顔はお前の手の中にある。自分を信じろ」
全てを託すようにそう言ってタケルのアーム玉と携帯電話を放り投げた。
アールはそれを受け取ると膝から崩れ落ち、喉が擦り切れるほどに叫んだ。
「やだ……やだ!! やだぁ!! いなくなっちゃやだよッ!! 誰かッ……だれか……」
Thank you... |