voice of mind - by ルイランノキ


 声涙倶に下る18…『タケルの思い』

 
《はじめまして。タケルです。本物の選ばれし者がこのメッセージを見てくれることを思って、メッセージを残したいと思います。……えっと、なにから話せばいいのか……》
  
その言葉からはじまったタケルのメッセージは、一語一句彼らの元へと届けられた。
自分が本物ではないこと、それを知った上で真の選ばれし者への強いメッセージ。それを聞いたルイは、アールがどんな思いでこのメッセージを聞いたのか、見たのか、考えるほどに心が締め付けられた。タケルは真の選ばれし者を、男性だと思っていた。女性である可能性はこれっぽっち彼の頭の中にはないように。自分たちだってそうだった。女性であるなど、頭の片隅にも思っていなかった。きっと彼女のことだから、女である自分に後ろめたさを感じたことだろう……。
 
《君はきっと、俺なんかより、すっごく強いんだろうね。俺みたいにひょろひょろしてなくて、シドみたいに筋肉があって、ルイみたいに、広い心と優しさを持っていて、カイみたいに、元気で明るくて、みんなから慕われるような、そんな人なんだろうなぁ……女の子にだって、モテモテだったりするのかな。どうしても自分とは正反対の人を思い浮かべてしまうんだ。背も高くて、でっかい剣とか振り回したり。きっとかっこいいんだろうなって……》
 
シドもカイも、アールを気にかけた。そして、アールの後ろで動画の音声だけを聞いているヴァイスも、アールの小さな背中を眺め、彼女の心中を思った。
 
タケルは真の選ばれし者がやってきて、自分が不必要になってしまったときに、自分に一体何が出来るのか、その希望を、願いを、涙を堪えながら懸命に言葉にしていた。
 
タケルが真実を知った経緯も、アールがタケルの携帯電話の暗証番号を知った経緯も、タケルの口から語られた。
 
懐かしいタケルの声。もう二度と聞くことは出来ないと思っていたタケルの声、もう二度と見ることはないと思っていたタケルの姿、生きていた頃の証がそこにある。
 
《世界中の笑顔は君の手の中にある》
 
そしてタケルは同じ世界から来るであろう選ばれし者に思いを馳せた。
アールももう一度タケルの音声を聞きながら、タケルを思った。
今でなければならないと、自分の存在を主張したタケルの思いをひしひしと感じ取っていた。
 
《シドは口が悪いけど、めちゃくちゃかっこよくて、俺の憧れなんだ。こういう男になりたかったなって思った。それに、怖いかなと思ったけどすごく優しくて、頼りになるよ。俺、これから頑張ってシドみたいになるんだ。ルイは、見た目通り優しくて、温和で、いつも気遣ってくれて、なにかあったときは彼に頼るといいよ。あ、料理がすっごく美味しいんだ。俺こっちに来る前までコンビニの弁当とかばっかり食べてたから、ルイの手料理には驚いた。仲間と食卓を囲んだとき、涙が出そうだった……。カイは、一番話しやすいかもしれない。君がどんな人なのかわからないからそう言いきれないけど、いい意味で単純で、一緒にいて楽しい。すぐに友達になれた。友達らしい友達がいなかったから、嬉しかったんだ。
 俺、みんなのことが好きで好きでたまらないんだ。こんなこと口に出したら気持ち悪がられるんだ思うけど。特にシドに》
 
カイ、ルイ、シドは顔を見合わせ、照れ笑いをした。久しぶりに“4人”揃った。そんな気がした。あの日感じた風の匂い、4人の間に流れていた空気を感じる。
 
タケルは素直だった。決して強がっているわけじゃない。自分の弱さも曝け出した上で、彼の強さを見た。
 
《みんなといる時間が俺にとってすごく幸せな時間だった。だから自分が偽者で、仲間にはなれないかもしれないと知ったとき、悲しかった。選ばれし者じゃなかったことは仕方ないし、やっぱりそうかって今なら思えるんだけど……みんなと離れるのが、すごく嫌なんだ。みんなは俺のことどう思ってるのかわからないから、なかなか口には出せないけどさ》
 
《もし、君が今旅をしている最中で、俺がまだ仲間になってなくてどこかで修行中だったら、それでもし人手が足りなかったら、俺に声を掛けてくれないかな? 少しは強くなってると思うんだ。でももし、俺がしくじったかなんかでこの世にいなかったら……アーム玉に宿した俺の意志を……》
 
《俺も君と一緒に世界を救わせてほしいんだ……。俺に新たな人生をくれたこの世界を救いたい。その気持ちだけは、誰にも負けないから》

《だから、一緒に……お願いします……お願いです……俺を、あなたと一緒に連れていってください》
 
《もう、この命を無駄にはしたくないから》
 
そこでメッセージ動画は終わっていた。
別の動画にはカイが自分を撮った動画も入っていた。
タケルは決して偽者で終わる人間じゃない。彼も、自分たちにとってはかけがえの無い仲間だった。改めてそう思う。ずっと目を逸らしてきた。後ろめたさを感じていた。それがタケルに泥を塗るような行為だったとは思いもせず。
 
「シド」
 アールはシドに歩み寄り、あるものを手渡した。
 
アールの手からシドの手へと渡されたのは、タケルの魂が入ったアーム玉だった。
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -