voice of mind - by ルイランノキ |
シドは走馬灯のように流れる記憶を辿った。
「剣なんて……触ったこともない……」
動揺を隠せない震える声で、女は答えたんだ。
だから頭にきて叫んでやった。
「ふざけんなッ! 何が選ばれし者だッ! 女だし、どー見ても……っ。俺はこんな奴に世界を託す気はねぇよッ!!」
って。
あの頃が懐かしい。
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──過ぎ去った記憶。ブラオ街。
「シド……」
『なんだよ』
「やばいかも……」
『はー?』
「私……バカだ……」
『あぁ、そりゃヤバいな。バカは死ななきゃなおらねぇって言うしな』
「そうじゃなくて! カイがドアを蹴り開けたの忘れてた。多分そのときドアの鍵が壊れてたのかも……」
『侵入してきたのか?』
「うん……音がする」
『武器は?』
「持ってるけど……魔物は多分1匹じゃない……」
『まぁ捕まったら仕方ねぇからそのままカイを助けに行きゃいい』
「さっきは大人しくしてろって言ったのに……」
『状況が変わったんだろー? お前しらねーの? 臨機応変って言葉をよ。バカだな』
「バカだけど知ってるよっ」
『部屋のどこにいんだよ』
「クローゼットの中」
『なら大丈夫だろ。魔物がクローゼットの戸を開けられると思うか? 引き戸だろ?』
「ぶち壊されたらどうすんの……」
『ぶち壊せんのか? 鳥が』
と、笑う。
「あいつの頭突き凄いんだって! 背中に頭突き食らってぶっ飛んだんだから! それにガラス窓を割った奴らだよ?!」
『アッハッハッハ! お前そのネタ笑えるぞ!』
「ネタじゃねぇっつーの!」
──ガタガタッ! と、すぐ近くで物が倒れる音がした。
『お? 電話越しにも聞こえたぞ。見つかったのか? 可哀相に』
「…………」
魔物が近くに居るのか、チビ女が息を潜めていた。
魔物の羽根が擦る音、狭い室内で翼を羽ばたかせる音がする。
『おー。威勢がいいな! 最後まで見届け……じゃねぇな、聞き届けるのもいい暇潰しになるなぁ』
成り行きを見ていた。
『電話してていいのかぁ? 電話片手に武器持って戦う気か? 随分と余裕だなぁ』
俺に電話しておきながら、全然呼ばねぇなと思っていた。
女が身を潜めているクローゼットに魔物が体当たりする音が聞こえる。
『ヤバそうだなぁ』
「…………」
『なぁ……』
全然呼ばねぇじゃねえか。
『お前、助けてくれって言わねぇのな』
言ってりゃ、すぐに駆け付けてやったのに。
(紅蓮の灯光26…『助けて』より)
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──過ぎ去った記憶。
「シド謝ってきてよ! このままじゃカイがホントに仲間から外れちゃうじゃない!」
「謝る気はねぇよ。この旅には俺らの命がかかってんだ。足手まといは切ったほうがプラスになる」
「ふざけないでよ! これまで一緒に戦ってきたのに!」
「なにと? あいつが何と戦ってきたって? 恐怖心か?」
煽って嘲笑った俺の頬を、女は容赦なく引っ叩いた。
「──カイは必要不可欠なんだよ。シドにとってはそうじゃないんだろうけど、少なくとも私にとってカイは中心にいる人なの! ずっと一緒にいたのに、私よりシドの方がカイと一緒にいた時間長かったくせに、カイのなにを見てきたの?!」
俺にとってはそうじゃない?
そんなわけねえだろうが。
(涙の決別24…『カイの居場所』より)
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