voice of mind - by ルイランノキ


 説明不足の旅24…『ルイの意外な一面』

 
ルイは、祭壇の前に膝をつき、手を合わせて拝んでいた。アールもルイの後ろで手を合わせると、カイも横に並び、シドも並んで手を合わせた。
ルイは立ち上がると、一緒に手を合わせてくれた仲間に礼を言って微笑んだ。
 
一行はつかの間の休息を終えると洞窟を後にした。奪われたシキンチャク袋を取り戻せたカイは鼻歌まじりで歩いている。
 
「ふんふふーん。あ、そういえば何で俺のシキンチャク袋盗られたんだろう。イトウもおもちゃが欲しかったのかなぁ」
「それはねぇだろ……。たまたまお前の腰から紐が外れて引っ掛かったんじゃねーのか」
「いーや、きっとおもちゃが欲しかったんだよ!」
「だからそれはねぇって」「だからそれはないよ」
 と、シドとアールは口を揃えた。
「お二人は気が合っていますね」
 ルイが嬉しそうに言うと、2人は不愉快そうに顔を見合わせた。
「そんなことより、この辺はイトウさんが多いね……」
 そう言ったアールの視線の先、一行がゆく道の前方上部にイトウの姿が見えた。
「この辺りにはバローラの樹が点々とありますからね。頭上を警戒していた方がいいでしょう。それより、アールさんはなぜ悪魔を封じる方法を知っていたのですか?」
「え……なんとなく……」
 自分でもよくわからない。
「お前わけわかんねーな」
 と、シドが呆れて溜息をこぼした。「ご都合主義もいいとこだ」
「訳わかんないのは私の方だよ……。割れた鏡を見てたら……なんてゆうか、知ってる気がしたとしか言えない」
「そうゆーとこアールの謎めいたとこだよねー」
 カイは面白がりながら言った。彼は終わりが良ければそれでいいのだ。
「アールさんの世界でそういった行事があるわけではないのですか?」
「ん? どうだろ。私が知ってる限りではないかな……」
 
そもそも悪魔自体、架空の生き物だと思っていた。特に日本人は悪魔や天使を信じてる人は少ないだろう。
ルイでさえ知らなかったこの世界のことをアールが知っているはずもなく、3人は何か深い理由があるように思えてならなかった。勿論カイ以外は、である。
 
「イトウが集まってきたな……」
 シドは空を見上げた。「ざっと見て……8羽くらいか」
「攻撃してくるかもしれませんね。空中攻撃は無駄に体力を使ってしまうでしょうから、僕が相手をしましょうか」
「お前攻撃魔法使うとすぐバテんだろーがよ。回復薬使えんのか?」
「あっ……そうでした」
 ルイはハッとして肩を落とした。
「何? どうゆうこと? 回復薬なら私まだあるはずだけど……」
 アールは不安げに訊くと、カイが真っ先に答えた。
「回復薬はねー、ものによるけど1日10回までしか使えないんだよ。だから節約しないとねー」
「え……なんで……?」
「体に悪いから!」
 と答えたカイに、シドが呆れて言い直した。
「回復薬は魔法の薬だ。人体に魔法を使い過ぎると悪影響が出る。普通の薬だって飲み過ぎると良くねーだろ」
「あ、言われてみればそうか」
「ではどうしましょう……」
 
ルイが空を見上げると、イトウがバサバサと音を立てながら頭上を旋回している。
 
「すぐに攻撃してこねぇのはなんでだ?」
「向こうは向こうで警戒しているのかもしれませんね」
「ま、取り合えずお前、2人を結界で囲んどけ。魔力使うから下がってろ」
「全部1人で仕留めるつもりですか?」
「そうだなぁ……。包囲結界であいつら囲めるか?」
「えぇ、お任せください!」
 と、自信満々で答えたルイは、まずカイとアールを防護結界で囲んだ。「アールさん、出ないでくださいね」
「あ……うん」
 
ルイは再び空を飛び回るイトウに目を向けると、タイミングを見計らってロッドを空へ翳し、イトウを囲むように包囲結界を張った。地上から上空にいるイトウを囲む大きな結界が出来上がる。
 
「ふぅ……。なんとか全て囲めました。ではシドさん、お願いします」
「いや……お願いしますじゃねぇだろ……」
「え?」
「イトウだけ囲んでどーすんだよ! これじゃ攻撃出来ねーだろ!」
「あ……」
 
包囲結界とは、広範囲に張ることが出来、檻のような役目を果たす。魔物を包囲結界で囲み、魔物の行動範囲を狭めて動きを多少弱めることも可能だが、結界の外からは攻撃が出来ない為シドに彼等を攻撃させるにはシドも一緒に結界で囲む必要があった。
 
「す、すみません! 僕が攻撃しますから!」
 
因みに、結界を張った者なら結界の中で攻撃を仕掛けることは可能である。よって、時々ルイは結界の張り方を間違えてしまうのだった。
 
「だーかーらーテメェは回復薬使い過ぎてんだから攻撃魔法は使うなっつってんだよ!」
「でしたら……また一度結界を解除して張りなおさなければなりませんね……」
「自業自得だろーが!」
  
彼等の言い争いを結界の中から見ていたアールは、気まずそうに声を掛けた。
 
「あのさ……おとりこみ中悪いんだけど、そうこうしてる間にまた新たなイトウさんが2羽ほど飛んで来てるよ」
「げぇ?! ったく面倒くせぇなぁ……お前がヘマすっからだろ!」
「す、すみません僕としたことが……」
「いいからさっさと張りなおせよ!」
「僕としたことが……確か以前もこのような過ちを……。僕は一体何度間違えれば気が済むのでしょう」
 ルイは、大分自己嫌悪に陥っていた。
「っだぁあぁ! くそっ!!」
 シドは新たに表れたイトウを目掛けて走り出した。刀が黒い蒸気を放つ。
 
イトウの真下まで来ると、高々とジャンプをした。
 
「光斬風ッ!」
 
シドが叫ぶと、刀から放たれた三日月型の光が2羽のイトウを切り裂いた。
 
「僕は咄嗟の判断が苦手なのでしょうか……判断力を身につけるにはまず何からやれば……」
「いつまで落ち込んでんだよ! 結界を張りなおせっての!」
 
そう怒鳴りながらシドはルイを目掛けて走ってくると、ルイが放つどんよりとした空気を掻き消すかのように彼の頭を平手でひっぱたいた。──パァァーン!
 
「えぇっ?!」
 と、アールは思わず声を出して驚いた。「る、ルイを叩くなんて……カイならわかるけど」
「え? なんで俺ならわかるわけ……?」
 カイは不服な表情を浮かべた。
「シドさん? 今僕の頭を叩きましたね……?」
「さっさと張りなおせって何回言わせんだよ!」
「僕の過ちを……ひっぱたくことによって許そうと……? それとも……」
「許すから張ーりーなーおーせッ!!」
「ありがとうございます。では」
 
許すと言われてホッとしたのか、ルイは再びロッドを構えた。
 
「ねぇ、ルイってあんな落ち込むタイプだったの……?」
 と、アールは隣にいるカイに訊く。
「うん。自分の過ちは許せないタイプだねぇ」
 
ルイはシドを含めイトウを取り囲む包囲結界を張ってから、最初に張っていた結界を外した。
 
「やれば出来るじゃねぇか」
「ありがとうございます。でも……なぜ最初から僕は出来なかったのでしょう……」
「あーもううるせーよ!」
 シドは包囲結界の中で次々とイトウを仕留めていった。
「よし……。おいルイ、結界外せ」
「あ、はい……」
「いつまでも気にしてんじゃねーよ……次から気をつけりゃいいだろーが」
「そう思っていたのに、またやらかしてしまったのですよ……」
「あーうぜぇ、うぜぇ」
 
結界から出たシドはそう言いながら刀を腰に仕舞って歩きだした。
 
「今度こそ気をつけようと心に決めても、また同じ過ちを繰り返してしまったら……」
 ルイはぼやきながらシドの後を歩いた。
「先のことばっか気にしてっとまた直ぐヘマすんぞ……」
「そんな直ぐにヘマはしませんよ!」
「じゃあ気づいてねぇみてぇだから言うが、あいつ等、置いてく気かよ」
「え?」
 
歩いた道を振り返ると、遠くに結界の中で未だ大人しく待っているカイとアールがいた。
 
「あぁっ?! 僕としたことが!」
 
ルイは慌てて2人の元へ駆け戻ると、何度も何度も頭を下げて謝った。
 
「いーよ、いーよ。たまにはルイもこうゆうときあるよー。でもアールと2人で『私達忘れさられたのかなー』なんて話してたけどねー。ね、アールぅ」
「う、うん。声を掛けようと思ったけどルイの落ち込み様が尋常じゃなかったから……」
「すみません! すみません! 本当にすみませんっ!!」
 
何度も謝るルイを見て、アールは赤ベコを思い出した。
 
 

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©Kamikawa
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