voice of mind - by ルイランノキ


 ゲーム王国2-19…『表彰台』

 
足元にじわりじわりと広がってきた血を避けるように、ベンは後ずさりをした。そして刀を腰の鞘にしまうシドの背中に目をやった。シドは血のついた旗を静かに拾い上げ、血を払った。
5人組のチームの陣地を守っていた2人を討伐し、思ったよりも時間が掛かってしまったものの最後の旗も手に入れた。
 
「……やりすぎじゃないのか」
 
ベンの足元で致命的な傷を負わされた敵チーム全員が横たえている。
 
「回復薬飲めばいいだろ」
 と、シドは自分が持っていた回復薬を敵チームが横たえている地面に放り投げた。
「失格にするつもりか……」
「そのほうが手間が省ける」
 
シドによって血を多く流した彼らは回復薬に縋りつき、命を取り留めた。
残りの3人も含め、自分たちの陣地が狙われている頃だろうと予想し、帰りを急いだ。案の定、川と崖を挟んだ狭い場所で戦闘が繰り広げられていた。飛んできたブーメランを軽く避け、シドは刀を抜いた。
 
「また戦うのか」
 と、ため息をつくベン。疲労が溜まっている。
「5分暴れればいいだけだ」
 
シドは奪ってきた旗をアールの方へ投げると、ベンと共に戦闘に参加した。
 
「全部奪ってきちゃった……」
 と、アールは旗の側で念のため剣を構えていた。
 
敵の数は全部で5人だけ。意外と少なかったことにアールは首を傾げた。7人いたチームも回復薬を飲んで失格になっていたことを知らないのだ。
 
「5分が長く感じるね」
 と、近くにいたスーを見遣った。
 
甲高い鍔音と銃声が響き渡る。
カイは敵からの攻撃をブーメランで交わしながら「あと5分あと5分」と繰り返した。5分守りきればいいが、敵もその5分に全力を掛けてくる。氷の矢が何本も飛んできたかと思うと、避けた先では炎の玉が飛んでくる。一人でも敵の数を減らそうと試みるも、土の壁を作り出して防御する者もいればルイのように結界を張れる者もいる。ヴァイスは敵を把握し、一番動きの遅い者を標的に捕らえると俊敏さを生かして背後に回り込み、武器は使わずに首根っこを掴んで地面に押さえつけた。しかしその瞬間、結界を使える別の敵チーム、二人組みの男がヴァイスとヴァイスが捕らえた男を結界に閉じ込めてしまった。彼の相方は既にルイの結界の中におり、「いいぞもっとやれ!」と野次を飛ばしている。
 
「ヴァイスが捕まっちゃった……」
 アールがそう言うと、自分の出番だとスーが戦闘に加わった。
 
アールは気を張り詰めていたが、敵はシド・ベン・カイ・ルイ・ヴァイス等によってアールが守っている旗を奪いに近づく隙もない。
 
──そして、ファイナルステージ終了を知らせるサイレンが鳴った。
 
砂を巻き上がらせて休む暇もなく暴れまわっていた一同はその音と共に戦いを止め、地面に膝をついた。
旗は全て、アールの足元にある。
 
ゲーム終了と共に皆一斉に回復薬を取り出すと、喉の渇きを癒すように一気飲みをした。ここぞとばかりに高価なHMX回復薬(魔力と体力を全回復)を躊躇なく飲み干すと、なぜか笑いがこぼれた。
 
「お疲れ様でした」
 と、ルイは結界で閉じ込めていた男を解放した。開放された男も笑顔だ。
「強いな、なめてたよ。おつかれ」
 
そしてヴァイスを閉じ込めていた結界も外される。カイは地面に寝転がり、風で汗が冷えるのを感じた。疲労は回復したが、しばらく動きたくはない。アールは体力の回復薬だけ受け取り、飲み干した。
 
「お疲れさん」
 と、ベンはシドの肩に手を置いた。
「アリアンの塔に行くためにはくだらないゲームに強制参加させられるとはな」
「それだけ塔にはなにか隠したいものがあるということじゃないのか」
「……どうだろうな」
「塔があるのは確かだ。はじめはそれも不確かだったが」
 
シドは大きなため息をついた。ここまで時間を掛けたあげくにたどり着いた塔にはなにもなかったら。冷静ではいられなくなるだろう。
 
一向は進行役の男に連れられて場所を移動した。メイン広場のステージに集められ、大勢の観客が見守る中で順位の発表と集めたポイントの商品交換が行われた。代表としてルイが1位を獲得した証としてトロフィーとそのポイントを受け取った。
 
「トロフィ欲しい」
 と、ステージ上の端にいるカイが呟く。
「一番必要ないものだと思うけど」
 と、アール。
「栄光の証を必要ないと?!」
「あんな大きなもの貰っても荷物になるだけだし、旅をしてるから飾る場所もないし」
 ルイが両手で抱えるほど大きく重い。
「シキンチャク袋に入れれば荷物にならないし、将来俺たちの旅が本になったときに資料として必要なものなのに!」
「──純金で出来ているらしいが」
 と、アールの後ろから声を掛けたのは二人組みの男、ジーンだ。彼らは取得したポイント数の総額では2位になる。
「純金?!」
 と、アールとカイは目を輝かせた。
「だが残念ながらあれは返却するようになっている」
「は?」
 と、二人は声をそろえた。
「表向きに盛大に祝うための小道具だ。毎回使い回しになっている」
「……なにそれ」
「ただ、記念にミニサイズのトロフィーが渡される。親指サイズのキーホルダーだ」
「いらない……」
「そうか? 優勝者しかもらえないからマニアには高値で売れるぞ」
「でもキーホルダーですよね? 高値って言ったってしれてるんじゃ……」
「50万前後くらいだったかな」
「えぇ?! キーホルダーが?!」
 と、二人は目を丸くした。
「ただ、大会があるたびに50万ほど出して集めていたその男がここ数ヶ月姿を見せていないというんだ」
「その人だけなんですか? 買ってくれるの」
「他にもいるにはいるが、さすがに50万も出さない。出しても10万いくかいかないかくらいだな」
「それでも十分……」
 
金のプレートと10万ミルが手に入るなら大満足だと思ったアールたちだったが、このあと記念のミニサイズトロフィーを持ち帰ってしまい、本の外の世界ではこのトロフィーの存在を知っているものがいるわけもなく1ミルにもならずにゴミと化してしまうことはこのとき誰も考えてはいなかった。
 

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©Kamikawa
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