voice of mind - by ルイランノキ


 ゲーム王国2-20…『第4の鍵』 ◆

 
本の世界からイストリアヴィラ屋敷に戻ってきた一向。
ルイは《ゲーム王国》で手に入れた金のプレートを本が積まれたカウンターの端に重ねるようにして置いた。
 
「ごくろうだったな……」
 ぎこちなくそう言ったのはジャックだった。そして。
「ジャックさんも。お暇だったのでは? ジョーカーさんも」
 ルイが目を向けたのはジャックと、部屋の隅にいたジョーカーだった。
 
ジョーカーは何事も無かったように屋敷に戻っていた。ジャックはジョーカーが戻ってくるとは思っていなかったため戻ってきたときは心底驚いたが、仮面越しに「私はどこかへ行っていたか?」と妙なことを訊かれ、その意図を察して嫌な汗を滲ませた。
 
「なにか変わったことはありませんでしたか?」
 ルイはジョーカーには聞こえない声でジャックに訊いた。
「いや、ずっとここにいた」
 と、答えた。
 
その返答に小首をかしげたのはルイだけではなかった。ヴァイスも変な答え方をするな、と思いながら、ルイが出したテーブルの椅子に腰掛けた。
 
「これから夕飯の準備をしますが皆さん一緒に食べますか? 30分後くらいには出来ますが」
「じじいはどこに行ったんだ?」
 と、シドはカウンターに目をやった。テトラの姿がない。
「2時間前くらいにまた出かけた。少し出かけてくると行っていたからそう遅くはならないと思うが」
 と、ジャック。「金のプレートは揃ったんだろ?」
「ええ」
 
ルイがカウンターに置いたプレートに目をやると、カイがプレートを運んでテーブルの上に置いた。そして、パズルのように組み合わせると、金の円盤に変化した。
金の円盤には古代文字のような柄が彫られており、中央には丸いくぼみがある。
 
「なにか嵌め込みそう」
 と、カイ。
「プレートはこれで揃ったんだよね。揃えたらなにか起きるのかと思ったけどそうじゃないんだね」
 と、アール。てっきり組合せば勝手にくっ付いてひとつの円盤になってなにか驚く仕掛けがはじまるのだと思っていただけにがっかりだ。
「まだ足りないものがあるのだとしたらこの中央のくぼみに嵌めるもの、でしょうか」
「冗談じゃねぇぞ……また本の中に行くのかよ」
 シドは険しい表情をしてどっかりと椅子に座った。
「まだそうと決まったわけでは……」
 
そこに出かけていたテトラが両手に大きな紙袋を持って帰って来た。ルイは駆け寄って紙袋を受け取り、カウンターの後ろへ運んだ。
 
「帰っておったのか」
「えぇ。凄い本の数ですね」
 ルイが運んだ紙袋にはぎっしりと本が詰まっている。
「魔力を秘めた古い本でな。今もその魔力が持続しているか調べるんじゃよ。知り合いの魔術師が引退するようでな、書籍類はわしが引き受けることにしたんじゃ」
 と、テトラはカウンターの椅子に腰掛けた。
「ねぇーじいちゃん」
 と、カイがカウンターの上に座った。
「テーブルに座るでない」
「プレートは全部揃ったのになにも起きないんだけどー。まだなんかあるの? めんどくさいんだけどー」
「カイさん、下りましょう」
 と、ルイがカイの腕を掴んでカウンターから下ろした。
 
テトラは黙ったまま首に掛けていたいくつかの小さな鍵の内のひとつを、カウンター裏の一番下の引き出しにある鍵穴に差し込んだ。そして、中から厚さ10センチ以上はある重厚な本を取り出すと、ルイに手渡した。
 
「これは……?」
 その本にも、鍵が掛けられている。
「“最後の本”じゃ」
 その言葉に真っ先に反応したのはカイだった。
「いやいやいやいや待って! 《ゲーム王国》が最後の本だって言ってたじゃん! しかも分厚い! 分厚いよ! 俺の胸板並に!」
「やっぱりまた本の中に入るの……?」
 と、アールがめんどくさそうに歩み寄った。
「分厚い本ではあるが、見かけだけじゃ。それに《ゲーム王国》は“金のプレートを集める最後の本”と言ったんじゃ。これは“鍵”が隠された本じゃ。プレート集めは終わりじゃ。第4の鍵を手に入れて来い」
「…………」
 アールとルイは顔を見合わせた。
 
最後の鍵が、この本の中にある。
 
「本のタイトルはないのん?」
 と、カイは四方八方から本を見遣るが、どこにもタイトルらしき文字は書かれていない。
 
テトラは首に掛けている鍵の中からもうひとつ、小さな鍵を外してルイに手渡した。
 
「本の鍵じゃ」
「僕が開けても……?」
「誰が開けても同じ。どのページにもなにも書いておらん」
「どういうことでしょうか」
「円盤がなければなんの意味もなさない紙の束じゃ。この本の鍵を開け、円盤の上に置く。君たちが集めた円盤が第4の鍵が隠されたページを開く。──わしが知っているのはそこまでじゃ」
「じいちゃん、本の中でまた戦闘とかあるの? 俺めんどくさいんだけど」
「わからん」
「行かなければわからない、ということですね」
 ルイは仲間たちを見遣った。
「夕飯を頂いてからでよろしいですか?」
 
返答はなかった。無言の了承だ。
ルイは一先ずその本と円盤をカウンターの上に置かせてもらい、夕飯の準備をはじめた。
 
アールは少し外の空気を吸ってくるといい、外に出た。すっかり暗くなっている。ふと、ミシェルから電話が来ていたことを思い出し、星空の下で携帯電話を開いた。掛けなおす手が躊躇する。けれど、無視はしたくない。深呼吸をして、電話を掛けた。
呼び出し音が続く。
 
「忙しいのかな」
 
出ないならそれでいいと思った。でも、出なければ今度は向こうから電話がかかってくるに違いない。それはそれで複雑だった。
電話を切ろうとしたとき、呼び出し音は留守番電話サービスに切り替わった。
 
「あ……ミシェル? 元気? 電話くれたよね。出られなくてごめんね。最近忙しくて、余裕がないんだ。落ち着いたらこっちから連絡するね。ワオンさんと仲良くね」
 
早口にそう言って、電話を切った。“落ち着いたらこっちから連絡するね”。遠まわしに、こちらから連絡するまで連絡して来ないで、と言っているようなものだ。携帯電話をポケットにしまい、自分にうんざりした。心に余裕がなさすぎて、人の幸せを遠ざけるなんて。
 
アールは崖までの道を歩いた。
アリアンの塔。そこに行けば自分がなぜこの世界に来たのか、その理由がわかるのだろうか。
 
崖の淵に座り、足を投げ出した。夜空にはうっすらと雨雲が広がり、星の光が弱弱しく見える。
呆然と夜空を眺めていると、背後から足音が近づいてきた。その音に振り返らず、耳を傾ける。この足音は誰だろう。ヴァイス……じゃない。ルイでもない。となると。
 
「風邪引きますよ、お嬢さん」
「それは誰の真似?」
 と、振り返るとカイが立っていた。
「紳士の真似」
 と、カイもアールの横に腰を下ろした。
「寝なくていいの?」
「夕飯前に? 睡眠は夜とるものだよ」
「誰が言ってんの。どの口が言ってんの」
 と、二人は笑い合った。
 
「今日の夕飯はスタミナたっぷりニラともやしのマゴイ丼ですって」
 カイはそう言って、仰向けに寝転がった。
「どんぶりかぁ。男子にはラッキーだね」
「俺あんなに食って吐いたのに今なんでも食える不思議ー。アールはなにが好きなんだっけ。食べ物」
「メロン」
「あはは、メロンじゃお腹いっぱいにはならないよ」
「んー、ルイが作る料理はどれも美味しくて好き。ていうかルイがまずい料理つくることってあるの?」
「ないねぇ。俺が知る限りでは!」
「失敗とかしないんだね」
「あ、昔『味付けに失敗しました。少し濃いかもしれません』って言われたことあったけど、普通にうまかった」
「そうなんだ」
「あ、オコノミー食いたい」
「エコノミーみたいな言い方だね。材料と時間があればいつでも作るよ」
「あれ美味しかったし楽しかった」
「そう? よかった」
「またみんなで作りたいねぇ」
「うん。作ろう。またみんなで」
 
アールも仰向けに寝転がり、カイと目を合わせて笑った。
 

 
──大丈夫。また、みんな揃って笑顔でお好み焼きを作ろう。
今度はエビもイカも、そしてお肉も多めにしてね。
 
第三十六章 ゲーム王国2 (完)

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -